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可愛そうなお姫様の話
八話
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ホワイトボードに書かれた役名と、その横に記された名前を指しながら柚葉は説明していく。
「この二つの役は決定している。侍女役については、脚本担当者の推薦だ」
あ、それ言うんだと思ったが、確かに説明をしなくては暁が三年生を差し置き三番手の大事な役を任された理由に他の部員は納得しないだろう。部長という肩書きがあり、実力も部内で突出している光が主人公なのは大半の人間が認めるところだろうが暁はそうはいかない。
まだ春先とはいえども三年生は部活動から去る時は近い。それまでに発表する演目として参加出来る劇は精々が三つか四つ。部員によってはもっと少ないだろう。彼等からすればあともう一年ある暁が少ない席を埋める事に対して不服との意見が出ても何らおかしくはない。少なくとも悪人とはいえヒロインを光が演じる事の方がずっと自然で、違和感はない。
柚葉が敢えて説明したのは、暁が他の部員の嫉妬やそこからくる攻撃の的とならないようにとの気遣いなのだろう。
改めてこのリリィという役を演じる事の責任を感じる。主人公じゃなくとも、今まで暁が与えられてきた役から考えれば段違いに大役だ。
頑張らなければいけない。これを足掛かりに、主人公を演じる事が出来る程成長しなければならない。自分の作品の主要キャラクターに暁を抜擢してくれた葵にも、それを受け入れてくれた柚葉に対する感謝の形になると思う。
「次はこれだ。役名はルーイで主人公、エリザーベトの恋人の騎士で、重要な役だ。真面目で実力者であるものの、優柔不断で頼りなく、姫の正体を知っても彼女の言いなりの儘だ。
さ、誰か立候補もしくは推薦などはあるか?」
柚葉の説明を聞きながら暁はプリントに記された彼のキャラクター名と解説を眺める。
ヒロインであるエリザーベトの寵愛を受ける容姿端麗で、文武両道、育ちの良さ故か人を疑う事を知らぬ真面目で一途な騎士。
説明だけ読めば非の打ち所のない完璧な人間だが、見方を帰れば彼へ向けるエリザーベトの想いの重さと歪みが全ての元凶だと言える。
そしてヒロインの恋人役だと言えばそれはつまり我らが演劇部の看板役者、花色 光と釣り合う人間ではならない。
皆沈黙しているが思いはひとつだろう。何しろあの山吹ですらしゃしやりでないのだ。空気を読んだのか、興味ないのか迄は暁にはわからない。
部員の団結した思いを受け取ったのか、三年生の一人が声をあげた。
「柚葉、お前でいいんじゃないか?」
天然なのだろうか。柚葉はさも何故自分が?と言わんばかりに首を傾げた。
「他に立候補とかないのか?重要な役だけど、難しい役柄でもないと思うし……まあ、あまり格好いい役でもないけどさ」
「だったら余計にお前がぴったりだろ」
「どういう意味だよ」
彼等が口論にもならないゆるいやりあいをしている間に、書記がささっとルーイの役者名に副部長の名前を書き込んでいった。皆それに従い手元のプリントに柚葉の名前を記入した。
異を唱えるのは一人だけだ。
「おおい!……おーい、いいのか?お前達積極性に欠けてるよ?演劇部にあるまじき事だよ」
プリントをひらひら翳して甲斐 柚葉と記された名前を見せびらかしながら、例の三年生がけらけらと軽薄に笑う。
「お前が相応しいって思っただけだよ、皆」
光と違い柚葉は脇役から主人公、ナレーションに果ては大道具やライト、音響集客の為の呼び込み何でもやる。柚葉本人は芝居に関わる事ならどんな役割でも不満は無さそうで何時も楽しそうにしている。どんな端役でも不満など何一つないようだ。
だからこそ柚葉は自分よりも適役がいるなら、自分などその辺の草葉の蔭で良いという。クオリティの高い舞台を作る事に対しては誰よりも想いが強いと言って良いだろう。
だが今回は話が違う。暁と柚葉が頼み込んで作ってもらった物語で主演は光だ。彼女の、姫に振り回され続ける役柄は副部長兼恋人として光に尽くし続けサポートする柚葉が適任だと誰もが思ったのだろう。
「……本当に、良いんだな?後から文句を言っても遅いからな」
自分の名前がくっきりはっきりと書かれたホワイトボードを半眼で確認し、悔し紛れのように柚葉はぼやいた。勿論異論など出ようもなかった。
きゅ、とインクが滑る音が響く。
柚葉は気を取り直したように頭を振った。
花色 光。甲斐 柚葉。尾根 暁。それらに続く名前。この物語の重要なピースの最後の一人。
「え……?」
先程までの恋人同士が恋人同士の役をやる事への、微笑ましい気持ちは何処かへいっていた。
ぽかんと間抜けな声が零れたが、暁にはそれが自分のものか他の誰かのものかもわからない。
名前を書かれた当人すらきょとんとしている。
「ヒロインのエリザーベトに恋をする田舎出身の騎士。物語の鍵を握る男だ。
この役は柏 山吹。お前だよ」
書記からマジックを受け取り、柚葉はそれを剣のようにしてぼーと口を開けている山吹を差した。
「……あ、ハイ」
差された本人はきょとんとした儘返事をしている。童顔とあいまって普段の憎たらしさはどこへやら、可愛い反応だったがほかの部員のどよめきは止まらなかった。
「この二つの役は決定している。侍女役については、脚本担当者の推薦だ」
あ、それ言うんだと思ったが、確かに説明をしなくては暁が三年生を差し置き三番手の大事な役を任された理由に他の部員は納得しないだろう。部長という肩書きがあり、実力も部内で突出している光が主人公なのは大半の人間が認めるところだろうが暁はそうはいかない。
まだ春先とはいえども三年生は部活動から去る時は近い。それまでに発表する演目として参加出来る劇は精々が三つか四つ。部員によってはもっと少ないだろう。彼等からすればあともう一年ある暁が少ない席を埋める事に対して不服との意見が出ても何らおかしくはない。少なくとも悪人とはいえヒロインを光が演じる事の方がずっと自然で、違和感はない。
柚葉が敢えて説明したのは、暁が他の部員の嫉妬やそこからくる攻撃の的とならないようにとの気遣いなのだろう。
改めてこのリリィという役を演じる事の責任を感じる。主人公じゃなくとも、今まで暁が与えられてきた役から考えれば段違いに大役だ。
頑張らなければいけない。これを足掛かりに、主人公を演じる事が出来る程成長しなければならない。自分の作品の主要キャラクターに暁を抜擢してくれた葵にも、それを受け入れてくれた柚葉に対する感謝の形になると思う。
「次はこれだ。役名はルーイで主人公、エリザーベトの恋人の騎士で、重要な役だ。真面目で実力者であるものの、優柔不断で頼りなく、姫の正体を知っても彼女の言いなりの儘だ。
さ、誰か立候補もしくは推薦などはあるか?」
柚葉の説明を聞きながら暁はプリントに記された彼のキャラクター名と解説を眺める。
ヒロインであるエリザーベトの寵愛を受ける容姿端麗で、文武両道、育ちの良さ故か人を疑う事を知らぬ真面目で一途な騎士。
説明だけ読めば非の打ち所のない完璧な人間だが、見方を帰れば彼へ向けるエリザーベトの想いの重さと歪みが全ての元凶だと言える。
そしてヒロインの恋人役だと言えばそれはつまり我らが演劇部の看板役者、花色 光と釣り合う人間ではならない。
皆沈黙しているが思いはひとつだろう。何しろあの山吹ですらしゃしやりでないのだ。空気を読んだのか、興味ないのか迄は暁にはわからない。
部員の団結した思いを受け取ったのか、三年生の一人が声をあげた。
「柚葉、お前でいいんじゃないか?」
天然なのだろうか。柚葉はさも何故自分が?と言わんばかりに首を傾げた。
「他に立候補とかないのか?重要な役だけど、難しい役柄でもないと思うし……まあ、あまり格好いい役でもないけどさ」
「だったら余計にお前がぴったりだろ」
「どういう意味だよ」
彼等が口論にもならないゆるいやりあいをしている間に、書記がささっとルーイの役者名に副部長の名前を書き込んでいった。皆それに従い手元のプリントに柚葉の名前を記入した。
異を唱えるのは一人だけだ。
「おおい!……おーい、いいのか?お前達積極性に欠けてるよ?演劇部にあるまじき事だよ」
プリントをひらひら翳して甲斐 柚葉と記された名前を見せびらかしながら、例の三年生がけらけらと軽薄に笑う。
「お前が相応しいって思っただけだよ、皆」
光と違い柚葉は脇役から主人公、ナレーションに果ては大道具やライト、音響集客の為の呼び込み何でもやる。柚葉本人は芝居に関わる事ならどんな役割でも不満は無さそうで何時も楽しそうにしている。どんな端役でも不満など何一つないようだ。
だからこそ柚葉は自分よりも適役がいるなら、自分などその辺の草葉の蔭で良いという。クオリティの高い舞台を作る事に対しては誰よりも想いが強いと言って良いだろう。
だが今回は話が違う。暁と柚葉が頼み込んで作ってもらった物語で主演は光だ。彼女の、姫に振り回され続ける役柄は副部長兼恋人として光に尽くし続けサポートする柚葉が適任だと誰もが思ったのだろう。
「……本当に、良いんだな?後から文句を言っても遅いからな」
自分の名前がくっきりはっきりと書かれたホワイトボードを半眼で確認し、悔し紛れのように柚葉はぼやいた。勿論異論など出ようもなかった。
きゅ、とインクが滑る音が響く。
柚葉は気を取り直したように頭を振った。
花色 光。甲斐 柚葉。尾根 暁。それらに続く名前。この物語の重要なピースの最後の一人。
「え……?」
先程までの恋人同士が恋人同士の役をやる事への、微笑ましい気持ちは何処かへいっていた。
ぽかんと間抜けな声が零れたが、暁にはそれが自分のものか他の誰かのものかもわからない。
名前を書かれた当人すらきょとんとしている。
「ヒロインのエリザーベトに恋をする田舎出身の騎士。物語の鍵を握る男だ。
この役は柏 山吹。お前だよ」
書記からマジックを受け取り、柚葉はそれを剣のようにしてぼーと口を開けている山吹を差した。
「……あ、ハイ」
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