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可愛そうなお姫様の話
十三話
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沈黙があった。
おや、疑問を浮かべつつも特に思うこともないだけなのかもしれない。葵はそもそも口数が多いわけじゃない。暁が一人考え納得していたら、先程より若干低くなった葵の声がスマートフォンから聞こえてきた。
「別に」
「ん?何か言った?」
低い上に小さい声だったので聞き取りにくく、暁は反射的に聞き返していた。するとまたちょっとした間を置いてから、今度は苛立ったような声で葵が話し出した。
「別にお前の為じゃないから」
「ん?うん、だから、私の為じゃなくても嬉しかったから」
「だから!お前がやる役で見たい話考えただけだから、お前の為じゃない」
吃驚した。葵の、愛想も協調性もない彼の言葉とは思えない、珍妙な程に好意が感じられる言葉が聞こえた気がする。
「あ、え、あ、そう」
スマートフォンを握った儘、暁は考えた。今、なんか少しばかり凄いことを言われた気がする。気のせいだろうか。
お前が出演する舞台で見てみたい話を考えた、みたいなことを言わなかったか、こいつ。
いやいや。そんな筈はない。こいつは深いことなど考えていない筈だ。自分と葵が知り合ったのは今年の二年生になってからだ。話をするようになってからはひと月程しか経過してない。お互いそこまで肩入れする程よく知らないのだ。
そう一方的にこちらが思っていただけで、暁が思っていたよりも葵は自分のことを気にかけてくれているのだろうか。
(いやいやいやそこまでは!)
冷静になれ。よく考えろ。
彼の様子やこれまで聞いて数少ない彼自身の話から考えるに、葵はこれまでずっと、書いてきた物語を他者に読ませる機会というものがなかった。故に自身の「作品」褒められたことも殆どないのだろう。その為、偶々初めての読者になった暁が彼の作品に興味を示し、尚且つ大袈裟に褒めたから、嬉しくてそのお返しとばかりに今回の脚本に暁を重要なポジションにあてがってくれた。そうだ。それだけだ。
……誰に何を弁解しているのだろう。そうも思うが、そうしないと、落ち着かない感情が何かしらの思い違いをしそうなのだ。
今まで碌にしてこなかったのに。突然葵が男の子であるという当然のように分かっていた事実に緊張している。
いや、ない。絶対ない。友達の為に頑張ってくれただけ。思い上がんな。
たっぷりと。先程の葵より余程長時間沈黙していた暁だったが、それだけの長時間かけておいて出てきたのはあんまりお粗末なものであった。
「そうか。ありがとう……」
これだけの言葉だというのに、声が上擦るのが抑えられた気がしない。なんだこれ。葵には伝わってないだろうか。心拍数がやたら上がった気がする。
葵の声からは不審も余裕も伝わらない。何か感じ取ったのか、何も感じてないのか。暁には読み取れなかった。
「うん、よかった」
短い返事だ。
「そ、そう?」
一度意識してしまうと、ただの相槌としか思えない葵の声にも含みがあるような気がしてしまう。おかしなことを言ってしまいそうな気がする。
なので、暁からかけておいてなんだが、通話を終わらせなければという必死さで、最後に言わなければならないだろうことだけでも伝えるべく、口を開く。
「劇、完成したら絶対見に来てよ。加百のお陰でできる劇なんだから」
「……え?」
謎の疑問符らしきものを返してくる葵に、何かおかしなことを言ってしまったかと心配になった。演劇部の活動にそこまで興味ないだろうか。迷惑な誘いだったろうか。
「余計なこと言った?嫌だったら……」
「そうか」
暁の声が聞こえていないかのように、慌てる暁の言葉を遮り、葵はぽつりと呟いた。信じられない事実に感じ入ったように、見たことのない景色に言葉を失っていた、そんな、吐息のようなゆるりと零れた。
「俺の作ったものが、作品になるんだ」
「ん?」
「俺の書いたものを、皆が見るんだ……」
嬉しくて、信じられなくて言葉を失っていたのだと気付く。聞いたことがない、感極まった葵の無邪気な、声音だった。何を今更と思った暁が口を挟めない程に。
葵は繰り返す。
「凄い。俺が書いた話を皆が見るんだ」
「そうだよ。加百が書いた話を私達がお芝居にして、色んな人が見るよ」
残念ながら暁には想像力が豊かとは言い難い。小説家や漫画家、作曲家にゲームクリエイターのように面白いと感じるものを、一から作りだせる自信は全くない。そもそも文才だって、読書感想文にも一日頭を抱える程度のものだ。小説なんて書ける気は全くない。
それでも人に見られる仕事を夢見ている暁には、葵の気持ちはわかる気がした。
自分の手で書いたもの。自分が演じる姿。例え称賛されなかったとしても、見て貰いたい。
一つの作品として完成されたものの中に、確かに自分の頑張った姿が努力の結果があるのだ。
おや、疑問を浮かべつつも特に思うこともないだけなのかもしれない。葵はそもそも口数が多いわけじゃない。暁が一人考え納得していたら、先程より若干低くなった葵の声がスマートフォンから聞こえてきた。
「別に」
「ん?何か言った?」
低い上に小さい声だったので聞き取りにくく、暁は反射的に聞き返していた。するとまたちょっとした間を置いてから、今度は苛立ったような声で葵が話し出した。
「別にお前の為じゃないから」
「ん?うん、だから、私の為じゃなくても嬉しかったから」
「だから!お前がやる役で見たい話考えただけだから、お前の為じゃない」
吃驚した。葵の、愛想も協調性もない彼の言葉とは思えない、珍妙な程に好意が感じられる言葉が聞こえた気がする。
「あ、え、あ、そう」
スマートフォンを握った儘、暁は考えた。今、なんか少しばかり凄いことを言われた気がする。気のせいだろうか。
お前が出演する舞台で見てみたい話を考えた、みたいなことを言わなかったか、こいつ。
いやいや。そんな筈はない。こいつは深いことなど考えていない筈だ。自分と葵が知り合ったのは今年の二年生になってからだ。話をするようになってからはひと月程しか経過してない。お互いそこまで肩入れする程よく知らないのだ。
そう一方的にこちらが思っていただけで、暁が思っていたよりも葵は自分のことを気にかけてくれているのだろうか。
(いやいやいやそこまでは!)
冷静になれ。よく考えろ。
彼の様子やこれまで聞いて数少ない彼自身の話から考えるに、葵はこれまでずっと、書いてきた物語を他者に読ませる機会というものがなかった。故に自身の「作品」褒められたことも殆どないのだろう。その為、偶々初めての読者になった暁が彼の作品に興味を示し、尚且つ大袈裟に褒めたから、嬉しくてそのお返しとばかりに今回の脚本に暁を重要なポジションにあてがってくれた。そうだ。それだけだ。
……誰に何を弁解しているのだろう。そうも思うが、そうしないと、落ち着かない感情が何かしらの思い違いをしそうなのだ。
今まで碌にしてこなかったのに。突然葵が男の子であるという当然のように分かっていた事実に緊張している。
いや、ない。絶対ない。友達の為に頑張ってくれただけ。思い上がんな。
たっぷりと。先程の葵より余程長時間沈黙していた暁だったが、それだけの長時間かけておいて出てきたのはあんまりお粗末なものであった。
「そうか。ありがとう……」
これだけの言葉だというのに、声が上擦るのが抑えられた気がしない。なんだこれ。葵には伝わってないだろうか。心拍数がやたら上がった気がする。
葵の声からは不審も余裕も伝わらない。何か感じ取ったのか、何も感じてないのか。暁には読み取れなかった。
「うん、よかった」
短い返事だ。
「そ、そう?」
一度意識してしまうと、ただの相槌としか思えない葵の声にも含みがあるような気がしてしまう。おかしなことを言ってしまいそうな気がする。
なので、暁からかけておいてなんだが、通話を終わらせなければという必死さで、最後に言わなければならないだろうことだけでも伝えるべく、口を開く。
「劇、完成したら絶対見に来てよ。加百のお陰でできる劇なんだから」
「……え?」
謎の疑問符らしきものを返してくる葵に、何かおかしなことを言ってしまったかと心配になった。演劇部の活動にそこまで興味ないだろうか。迷惑な誘いだったろうか。
「余計なこと言った?嫌だったら……」
「そうか」
暁の声が聞こえていないかのように、慌てる暁の言葉を遮り、葵はぽつりと呟いた。信じられない事実に感じ入ったように、見たことのない景色に言葉を失っていた、そんな、吐息のようなゆるりと零れた。
「俺の作ったものが、作品になるんだ」
「ん?」
「俺の書いたものを、皆が見るんだ……」
嬉しくて、信じられなくて言葉を失っていたのだと気付く。聞いたことがない、感極まった葵の無邪気な、声音だった。何を今更と思った暁が口を挟めない程に。
葵は繰り返す。
「凄い。俺が書いた話を皆が見るんだ」
「そうだよ。加百が書いた話を私達がお芝居にして、色んな人が見るよ」
残念ながら暁には想像力が豊かとは言い難い。小説家や漫画家、作曲家にゲームクリエイターのように面白いと感じるものを、一から作りだせる自信は全くない。そもそも文才だって、読書感想文にも一日頭を抱える程度のものだ。小説なんて書ける気は全くない。
それでも人に見られる仕事を夢見ている暁には、葵の気持ちはわかる気がした。
自分の手で書いたもの。自分が演じる姿。例え称賛されなかったとしても、見て貰いたい。
一つの作品として完成されたものの中に、確かに自分の頑張った姿が努力の結果があるのだ。
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