劇中劇とエンドロール

nishina

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可愛そうなお姫様の話

十五話

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 ちらほらと、休み時間に梓が自分の様子を窺っていた事には気づいていた。喧嘩はしたのは初めてだったが何かと困った事があると悲し気にこちらの様子を窺ってくるのだ。癇癪を起こした子供に接するように顔色を窺って猫なで声で接して手取り足取りやりたい事を率先して助けてあげないと梓はあの儘なのだ。
 葵の書いた物語と、演劇部の三年生にとっては残り少ない大舞台を成功させたい気持ちは当然あるのだがまた結局何時ものパターンを期待されてるのはわかりきっていたがどうしてもそうする気にはならなかった。
 昼休み二人は別々に昼食をとった。知り合ってからほぼ毎日暁にくっつきっぱなしだった梓が、暁とも親しい他の友人を誘っていた。それだけなら暁が気まずい思いをするだけで済んだ。
「いいの?暁」
 そう質問されるのも当然だろう。元々モデルをしていた上に、外見は近付き難い浮世離れの美貌を持つ梓は、人見知りなのもあって暁と仲良くなるまで友達らしい友達はいなかった。つまり、暁が誘った友人は暁を通して仲良くなった人間関係なのだ。
 昼休みの最中、梓はやはりちらちら不安そうにこちらの様子を見てくるだけだった。気まずいならそちらからでも話しかけてくればいいというのに。暁からの歩み寄りを待つのみの姿勢は、暁の神経を尖らせる。
 だったら、こちらもそれなりの態度をとるまでだ。暁は鞄ごと中に入っている弁当箱を抱えて教室を出た。
 廊下に出て行った暁を梓は見ていなかった。暁はそれを知らない。
 結局暁は他のクラスに在籍している演劇部の仲の良い友人に混ぜて貰い、昼食を食べることにした。
 少しは自分でも考えたら良い。行動するべきだ。
 梓が演劇部に入った動機も高校で最初に出来た友人である暁に、より近くにいる為なのはあきらかなのだ。下手をすれば退部する可能性すらあった。しかしそれならその時、演劇部の為に出来る事を考えれば良い。
 捨て鉢気味にそう考えながら放課後は一人で演劇部に向かった暁だったが結果として梓は来た。泣きもせず、死ぬ役に不平不満を漏らすでもなく。
(なんだ、一人でも平気なんだ)
 拍子抜けして終わると思っていたが少しばかりの苛立ちを覚えた。一人でも平気、嫌いな役を受け入れる。不服ながらもやる気はあるんだ。それはそれで暁の心はざわめき、苛立った。
 幸い今回の劇は、暁と梓は役柄上関わる事はない為、彼女を避けたところで何の問題もなかったのだが、他の部員が常に一緒にいるのが普通だった暁と梓が言葉一つ交わさないのを不思議に思うかもしれないが、それも仕方ない。少なくとも梓は魔女役を受け入れた。なら、暁も自分の役を全うするだけなのだ。
 そう、気持ちを切り替えたいのに。
「お前らいつまで喧嘩してんの?」
 理由は知らないけど気になる、と同級生が打ち合わせの合間に暁に尋ねてきた。
「何か黒神ずっとあんな感じじゃね?何があったかわからんけど、仲直りしてやれよ」
 やはりこうなるのだな、と暁は胸中で重く深い溜息を吐いた。想像していた事が現実になるのって、思っていたよりも面倒くさいものだ。
 梓は気が弱くて物静か。何より誰もが振り向く美少女だ。そんな彼女が、びくびくおどおどとはきはきしている女の様子を遠目にじっと窺っていたら、そりゃあ先日の現場を見ていなくてもはきはきしている女が美少女を苛めたと思うだろう。暁もお互いの関係性や事の経緯を知らなければそう考えると思う。いや、人によっては知っていたとしても同じように考えるかもしれない。あの子は内気で自分の意見を話すのは苦手なんだから、仲が良いお前が変わってやれよそれくらい。

 我慢しているのは大人しい美少女だけではないのだよ。
 彼と目を合わせず、暁は答えた。
「それは梓に言ってよ。梓が何して欲しいのか私、わかんないんだよね」
 勝手にしてくれ。自分は自分のお芝居の事だけ考えていたいのだ。
 今は自分が夏に控えた舞台でリリィという娘として役になりきる。それだけだ。それしかないのだ。
 幸い、リリィという役は自分ととても相性が良かった。
 劇中我儘なお姫様の侍女であるリリィは彼女の権力と悍ましさに屈服してしまい、悪事に手を染めかけるものの、最後の最後に勇気を振り絞って姫君に逆らい、窮地に立たされた騎士を救うのだ。自分の命を賭しても、正義の為に。

 この話を読んだ時素直に暁はリリィというキャラクターに好感を持った。
 勇気がある人は素晴らしいと思う。正義を貫く事が出来る人間に憧れた。

 そもそも、この物語そのものが好き勝手悪行の限りを尽くしてきたお姫様が最後にしっぺ返しを食らうという物語だ。主人公が悪人という特徴はあれども物語そのものは王道の勧善懲悪ものと言っていいだろう。登場人物の殆どが不幸になることさえ除けば。


 台詞合わせ、重ねる稽古。細かい台本の変更点。時折柚葉から小説にある舞台装置や台詞など、細かい部分の変更点を了解とれるかと暁は作者に取次ぎを頼まれたが、作者は物語は完成したので好きにしていいと、飄々としたものだ。そして今日もノートに文字を書き連ねているのだ。
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