32 / 87
呪いの言葉こそが呪い
15
しおりを挟む
『わかった。ひとまずきみの話を信じる事としよう』
目の前で呪いを解いてもまだ疑ってんのか、と喉元まででかかったが、ルドヴィカは堪えた。
例の夫人のドレスにかけられた呪いの件。あの時に父親に叱られた事で初めて自覚したのだが、自分はどうやら言葉遣いが相当悪いらしい。その上場を弁えずに喋り出すから、親は気が気でないそうだ。
言葉選びが下手くそな上に慎ましさの欠片もない、実に粗野な性根が普段からあちこちにこぼれ落ちているらしい。今回の公爵家との顔合わせが心配で仕方がなかったのは、自分の粗にいまいち自覚がないのもあった。無自覚に公爵家に粗相をしては、口が悪いでは済まない。
ともあれ、まず自分の能力を信用してもらえなければお話にならない。カレルの人柄がよくわからない以上、彼を騙していたと認識されて後々公爵家を謀った重罪人としてひっ捕らえられでもしたら、こちらとしてもたまったもんではない。
「信じて貰えたなら良かった。それで、これからの事なんですが」
カレルの呪いを解くのが第一であるが、これが至難の業であるのは既に理解している。
『ああ、呪いを解いてもらえるか』
「それは無理です」
きっぱりと答えると、奇妙な沈黙が生まれた。
『……それは何故だ?きみは、呪いを解くと約束してくれたのではないのか?』
「今直ぐには無理なんです」
問われてまた、反射的に粗雑な返事をしてしまった事に気付く。今の物言いだと、解呪が出来るにも関わらずする気はないように聞こえるのは当然であった。
「先程話したとおりです。わたしが呪いを解く方法は、呪われた対象を見る必要があります」
カレルに話した過去にルドヴィカが出会った呪いの事例は、どちらも偶然呪われている人間に出会った事を端を発する。
「そして、呪われた人やものにはわたしにしか見えない呪いの証が浮かんでいる。呪った理由や、呪われた場所、呪われた人の名前なんかが見える。それらの情報から呪法師の作った呪文と、一字一句同じ文言をわたしが口にする事で呪いが解けるんです」
こんな力が何故自分にあるのか、そしてどうしてこの方法で解呪が出来るのかは大学と面談した段階でもわからなかった。
自分でも利己的な理由だと思う。解呪の能力をのばしたいのは、呪われた人々を救いたいなんて善良かつ清らかな思いからではない。
それでも、そんな利己的で自分勝手な人間であったとしても、呪われて苦しんでいる人間を見て何も思わない程には自分は人非人ではない。そう思いたい。
「あなたにかけられた呪いを解きたい。だけど、難しいかもしれないと気付いたんです」
『どういう事だ?』
頭上の水晶玉が、少し震えた気がする。不安そうな気配が伝わってきたように感じて、ルドヴィカは眉を寄せた。騙したつもりなんてないが、心が痛む。
「見えないんです。あなたの事と話している時に、水晶玉の姿をしたあなたを手に持って集中してその姿から文字が認められないか、見ていました。何にも見えないんです」
最初は、昼間でも薄暗い林の中にいたから見え難いのかと思った。
だが自室に戻り、ランタンの灯りに照らされた中でも水晶玉には呪いに繋がる言葉はひとつも見受けられなかった。
水晶玉に向かって、ルドヴィカは問う。
「あなたは、本当に呪われてそんな姿になったんですか?」
質問への答えはない。長い長い沈黙は、彼の困惑や不安を伝えるには十分だった。
目の前で呪いを解いてもまだ疑ってんのか、と喉元まででかかったが、ルドヴィカは堪えた。
例の夫人のドレスにかけられた呪いの件。あの時に父親に叱られた事で初めて自覚したのだが、自分はどうやら言葉遣いが相当悪いらしい。その上場を弁えずに喋り出すから、親は気が気でないそうだ。
言葉選びが下手くそな上に慎ましさの欠片もない、実に粗野な性根が普段からあちこちにこぼれ落ちているらしい。今回の公爵家との顔合わせが心配で仕方がなかったのは、自分の粗にいまいち自覚がないのもあった。無自覚に公爵家に粗相をしては、口が悪いでは済まない。
ともあれ、まず自分の能力を信用してもらえなければお話にならない。カレルの人柄がよくわからない以上、彼を騙していたと認識されて後々公爵家を謀った重罪人としてひっ捕らえられでもしたら、こちらとしてもたまったもんではない。
「信じて貰えたなら良かった。それで、これからの事なんですが」
カレルの呪いを解くのが第一であるが、これが至難の業であるのは既に理解している。
『ああ、呪いを解いてもらえるか』
「それは無理です」
きっぱりと答えると、奇妙な沈黙が生まれた。
『……それは何故だ?きみは、呪いを解くと約束してくれたのではないのか?』
「今直ぐには無理なんです」
問われてまた、反射的に粗雑な返事をしてしまった事に気付く。今の物言いだと、解呪が出来るにも関わらずする気はないように聞こえるのは当然であった。
「先程話したとおりです。わたしが呪いを解く方法は、呪われた対象を見る必要があります」
カレルに話した過去にルドヴィカが出会った呪いの事例は、どちらも偶然呪われている人間に出会った事を端を発する。
「そして、呪われた人やものにはわたしにしか見えない呪いの証が浮かんでいる。呪った理由や、呪われた場所、呪われた人の名前なんかが見える。それらの情報から呪法師の作った呪文と、一字一句同じ文言をわたしが口にする事で呪いが解けるんです」
こんな力が何故自分にあるのか、そしてどうしてこの方法で解呪が出来るのかは大学と面談した段階でもわからなかった。
自分でも利己的な理由だと思う。解呪の能力をのばしたいのは、呪われた人々を救いたいなんて善良かつ清らかな思いからではない。
それでも、そんな利己的で自分勝手な人間であったとしても、呪われて苦しんでいる人間を見て何も思わない程には自分は人非人ではない。そう思いたい。
「あなたにかけられた呪いを解きたい。だけど、難しいかもしれないと気付いたんです」
『どういう事だ?』
頭上の水晶玉が、少し震えた気がする。不安そうな気配が伝わってきたように感じて、ルドヴィカは眉を寄せた。騙したつもりなんてないが、心が痛む。
「見えないんです。あなたの事と話している時に、水晶玉の姿をしたあなたを手に持って集中してその姿から文字が認められないか、見ていました。何にも見えないんです」
最初は、昼間でも薄暗い林の中にいたから見え難いのかと思った。
だが自室に戻り、ランタンの灯りに照らされた中でも水晶玉には呪いに繋がる言葉はひとつも見受けられなかった。
水晶玉に向かって、ルドヴィカは問う。
「あなたは、本当に呪われてそんな姿になったんですか?」
質問への答えはない。長い長い沈黙は、彼の困惑や不安を伝えるには十分だった。
0
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる
灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。
「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」
「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」
最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる