カニのおかげで、カニのせい

綴灯ミア

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ニュースを見ていた

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俺は、こたつに潜って、テレビを凝視していた。俺の横では、やっと落ち着いた母さんが、やはりテレビに釘付けになっている。テレビには、「時限爆弾を解除した英雄、松本 猛くん!」という文字が、デカデカと書かれていた。
「ほんと、この取材を受けるのは大変だったんだぞ~」
俺は、自慢げに言う。ちょうどテレビには、俺の姿が映っていた。生中継でなくてよかったと、心底思う。実は、何度も舌を噛んでは撮り直したのだ。
『なぜ、赤いコードを選んだんですか?』
眼鏡をかけた男性が、俺に尋ねる。
『カニのハサミを使って切ったので、カニに敬意を表してと言うか、咄嗟にそれが思いついたというか……』
俺が、珍しくモジモジして答えている。夕焼け空が綺麗だったので、とは流石に恥ずかしくて言えなかった。母さんと父さんと仁が、笑いを堪えながら俺を見ているのがわかったが、俺には、無視するのが精一杯だった。

爆弾を無事解除したら、犯人は素直に自首した。それ自体は良かったのだが、その犯人というのが問題だった。まず大前提として、犯人は1人だけだった。つまり、女性と男性は、1人で演じていたということだ。さらになんと、青木まで、実は犯人だったというのだ。最後の獲物を探していたら、俺を見つけたということだ。確かに3人ともマスクや髭をしていたし、青木の服装もおかしかったが、まさか犯人だとは思いもしなかった。そのことを話すと、「警官は名乗ったりしないし、そんな職務質問はしない!」と怒られてしまった。知らなかったのだから、仕方ないのに。
そして家に帰ろうとしたら、署に連行されて、2時間くらい話を聞かれた。これでようやくと思ったら、他の4人と一緒に、テレビ局に担がれて行った。解放された頃には、もう夕方だった。
家に帰ると、涙目の母さんと父さん、仁に怒鳴られた。
「どこに行ってたの!」
「ほんっと、何も言わず出ていくなんて!」
「心配したんだぜ!」
散々叱られたあと、母さんに抱きしめられた。
「でも、無事に帰ってきて、よかった……!」
感動的なワンシーンだが、正直、キツすぎて死にそうになった。母さんの力は、ちょっとでは済まされないほど強いのである。そしてようやく、何があったか聞かれた。何があったかも聞かず、ひたすら叱り続けるのがおかしいと思うのは俺だけだろうか。
「んーと、ざっくりいうと、爆弾を解除したよ」
俺がそう説明すると、嘘つくんじゃない!と、また、1時間ほど叱られた。それが本当だということをなんとか理解すると、今度は神妙な顔をして、またいろいろ質問された。警察署で何度も説明した俺は、台本を読むようにスラスラと答えた。そして、嘘ではないという証明に、カニのハサミもヒラヒラ振ってみせた。
中でも母さんたちが食いついたのは、テレビに出るという話だった。話を聞いてみると、母さんは、テレビドラマに出るのが夢だったそうだ。そんな話は初めて聞いたと、俺も仁も驚いた。
「猛に、夢を託すわぁ」
と夢見る目をする母さんに、「もうテレビには出ないと思う」とは言えず、俺は赤べこと化したのだった。
最後に、仁には一言言ってやった。
「俺、カニくらいにはなったから」
「え?」
「だから、右が左かは選べるようになったってことだよ。ま、赤か青だけどな」
まだ、上か下か後ろか前か、そこまでは行ってないけどな。そう、心の中で付け足した。なんだかスッキリした。

『それでは、次のニュースに移ります』
俺の姿がテレビから消えると、母さんが猛拍手した。そして、俺の方にゆっくりと近づいてくる。
「猛ぃぃぃぃ!」
大声を上げながら突進してくる母さんを避けていると、インターホンが鳴った。
「はーい、どちら様?」
「松本、すげーじゃねえか!」
「猛がテレビに出るとは思わなかった」
「松本くん、爆弾解除したんだって?」
出てみると、大勢のクラスメイトが詰めかけている。面倒臭いことになりそうだと思ったが、仕方なく外に出る。すると、何かを言う暇もないままみんなに担がれて、どこかへ運ばれていく。母さんが、玄関を出たところでニコニコ手を振っていた。俺はため息をついて、素直に運ばれることにした。落ちそうになるのも、我慢することにした。
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