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第三十九話 炎の遺産
しおりを挟む仲良しグループで観光旅行に行ったときのお話です。
ホテルにチェックインして荷物を預けてから、夜遅くまであちこち観光を楽しみました。
くたくたになってホテルへ戻り、食事もおいしくて大満足。
大浴場でさっぱりして、部屋に戻りました。
「修学旅行みたいに夜通し語りあおうね~」
なんて言ってたのに、みんな疲れ切ってすぐに眠ってしまったんですよ。
でも私はなかなか眠れませんでした。
いえ、すぐに寝付けはするんですよ。
でも夢見が悪くて、すぐに目が覚めてしまうんです。
夢の内容は毎回同じ、火事で炎に巻かれて恐ろしい思いをする夢でした。
眠りについては夢を見て飛び起きて、また眠って夢を見て…… その繰り返しです。
一晩中そんな感じで、私はほとんど睡眠をとることができませんでした。
朝食をとりながらもずっとうつらうつらしている私を、友人たちは心配してくれました。
でも、せっかくの旅行なのに水をさしたくないじゃないですか。
だから夢のことは話さずに、ただ、
「寝付けなかったから」
とだけ言い訳をして、その日一日の観光はパスすることにしました。
「本当にひとりで大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、みんなで楽しんできて。
それで、戻ったら話聞かせてよね」
そう言って心配する友人たちを送り出しました。
そして私は睡眠を取り戻すべく布団に入りました。
でもやっぱり悪夢を見てしまい、ぜんぜん眠れませんでした。
火に囲まれる夢を見て、目を覚ますとホテルのベッドの上。
(夢か……)
そう思ったのもつかのま、部屋がなんだか熱い、それに煙がたちこめていることに気が付きます。
非常ベルが鳴り響いて、あちこちから悲鳴や「逃げろ」なんて叫びが聞こえてきました。
私は慌ててハンカチを口に当て、姿勢を低くして避難しようとしたんですが……
誰かに足をつかまれて進めないんです。
振り返ると、真っ黒に焼け焦げた男とも女ともわからない人が私の足にすがりついていました。
私は声にならない悲鳴をあげ、その瞬間ホテルのベッドの上で目を覚ましました。
(これも夢……)
まだ心臓がバクバクいっているのを感じつつ、枕元のスマホを手に取りました。
時刻を確認すると、友人たちを送り出してからいくらも時間がたっていませんでした。
そして次の瞬間、私のスマホが突然爆発、炎上したんです!
過充電や衝撃を与えることでこうなる危険性のある充電池も存在することは、知識としては知っていました。
でもまさか、自分の身にこんなことが起きるなんて!
驚いて取り落としてしまったスマホはベッドの上に落ち、布団やシーツにみるみる引火していきます。
(廊下に備え付けの消火器があるはず)
私は別のベッドからはがしたシーツを洗面所で水にひたしながら、消火器を探しますがどうしても見つかりません。
ビショビショにしたシーツをかぶせて消化を試みたのですが、既にシーツでは覆い切れないほどの範囲に燃え広がっていました。
(すぐに知らせなくちゃ)
内線電話からフロントに連絡を入れたのですが、なぜか私の言っていることが伝わらないのです。
何度も言い直しているうちに、気がつけば部屋の中は火の海でした。
もう、部屋の入口にまで火の手が回ってしまい、私は退路を断たれてしまったのです。
そこで気が付きました。
私はホテルのベッドの上に横たわり、部屋は燃えていません。
(また、火事の夢……)
汗がびっしょりだったので、もう眠ることは諦めて大浴場へ行きました。
宿泊客の大半は観光客です。
昼間はみんな観光に出かけていますから、大浴場はほとんど貸し切りのようでした。
広い湯船につかっていると、少し落ち着いてきました。
昨晩のことを思い出し、
(あれはいったい何だったんだろう)
と不思議に思いました。
だって、こんなにも火事の夢を見続けるなんて、絶対におかしいじゃないですか。
私、家で寝ていてこんなこと起きたことないんですよ。
あんなに怖い思いをしたのは生まれて初めてです。
お風呂から上がって部屋に戻っても、あの夢見の悪さのせいで眠りにつくことができずにいました。
(どうせ寝付けないんだから、ちょっとホテルの中を散策しようかな)
そう考え、部屋を出て廊下を歩きはじめました。
しばらく歩くとすぐに違和感に気がついたんです。
まず、防火扉って非常時にすぐ使えなきゃダメじゃないですか。
でもこのホテル、防火扉の前に大きな鉢植えとかオブジェが飾ってあるんですよ。
それから、外の非常階段へ通じると思われる扉、その上には非常口って書いてある誘導灯があるんですが……
その明かりが消えてるんです。
近づいてスイッチのひもを引っ張ってみましたが、それは『消されている』のではなく『切れたまま放置されている』ようでした。
経年劣化で点灯しなくなったことに気付いていて放置しているのか、気付いてさえいないのか……。
さらに、廊下に張り出されている避難経路のプレート。
なんと、これが掲示板のように扱われ、上からポスター類が貼り付けられていたんです。
このホテルの防災意識の低さが伺えました。
(もし、このホテルで本当に火災が起きたら……?)
私は夢の内容を思い出し、身震いしました。
もう散策する気にもなれず部屋に戻った私は、消火器の存在を確かめました。
スマホが火を吹いて消火器が見つからなかったのは確かに夢だったはず。
でも探してみると、現実にどこにも置いてありませんでした。
(あの夢は、未来にこのホテルで起きる悲劇への警告なのかもしれない)
私は予知夢のようなものをあまり信じていませんが、この時は本気でそう感じました。
お昼すぎぐらいには、仲間たちが戻ってきました。
「おかえり、早かったね」
「あんたほっといて夜まで観光とか普通にナシでしょ。具合どう?」
「友情~~~~!」
睡眠不足は変わらずですが、気心のしれた友人とのいつものノリに少し元気が出てきました。
「お昼食べた? コンビニでおにぎりとかパンとか買ってきたからさ、食べられそうなら食べよ」
友人はそう言ってレジ袋の中身を部屋の真ん中に広げました。
ワイワイと遅めの昼食を楽しみ、お茶を飲んで落ち着いたタイミングで私は切り出しました。
「実はさ、私が眠れなかった原因の話なんだけど……」
このホテルに来てから繰り返し見る夢の話、そしてホテルのあちこちで見たずさんな防災管理について話したんです。
みんなは否定したりバカにしたりせず、真剣に私の話を聞いてくれました。
話し終えると、仲間のひとりが言いました。
「それ、やばいかもしんない」
「やばいっつーか…… マジやばいっしょそれ」
さらにみんなも同調しはじめたんです。
どういうことかと尋ねると、みんなが観光しているときに外で聞いた話を語ってくれました。
──ここでは、昔大規模な火災があった。
当時はまだこんな大きなホテルではなく、夫婦で経営してる小さな宿だった。
小さいながらも、誠実な経営で宿は繁盛していて、客室は連日満室に近い状態。
火災があった日、迅速な対応で宿泊客も従業員も無事避難をすませた。
それなのに『どうしても自分の荷物を取りに戻る』と喚き散らした客がひとりいた。
消防車が到着するのを待てず、ついにその客は自分勝手に炎の中に戻っていった。
放っておくことはできず、経営者である大旦那はその客を連れ戻しに炎の中へ。
結局、その客と大旦那は戻ることなく、焼け跡から焼死体となって発見された。
残された大女将は、客を死なせてしまったことで世間からひどいバッシングを受けた。
巨額な慰謝料を搾り取られ、宿を立て直す資金も失ってしまった。
やがて失意のうちに亡くなったという。
その後、焼け野原となったこの土地をホテルチェーンが買い上げて、現在のホテルができた──
私は、自分の夢を単なる警告夢と思っていました。
ホテル側のずさんさを無意識に感じ取った深層心理が見せているものだと。
でも…… もしかしたら、火事ですべてを失って亡くなった、経営者夫婦の怨念が見せたものだったのかもしれません。
「帰ろう」
誰ともなく言い出し、全員が同意しました。
「今からレンタカー手配すれば間に合うね」
「私アーリーチェックアウトの手続きしてくる」
あれよあれよと帰り支度を済ませて、数時間後には友人が運転する車に揺られていました。
私はずっと眠れていなかったので、すぐに睡魔に襲われいつのまにか眠っていたようです。
車の中では夢を見ることはなく、ぐっすりと眠れました。
私たちは帰宅後、あらゆるクチコミサイトに書き込みました。
『あのホテルで宿泊中、もし災害に合ったら助からないと思います』
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迅速な避難誘導に助けられ、私はやけどひとつなく無事に脱出することができました。
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もしかしたら、話に聞いた昔の宿の経営者、大旦那さんだったのかもしれませんね。
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