あおのしじま

白亜依炉

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ご褒美ちょうだい!~放課後イタズラ編①~

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 教室の閉め切られた窓の向こうから、あるいは廊下の向こうから。
 授業っていう束縛から逃れて自由を得た奴らの生き生きとした声が響いてくる。わぁわぁうるせー声が今は心の底から羨ましい。ほんと、羨ましい話だよ。俺には関係ねぇけど。なんせ俺はまだ席を立つことすら出来そうにない。
 あー……めんどくせー……。ぷつっと集中力が切れたもんで、俺は机の上から視線を逸らすと染めてない真っ黒な短髪をわしゃわしゃ掻いて一つ大きく伸びをした。やってられっかこんなもん。……やらなきゃ帰れねぇんだけど……。


「しーちゃーん? おれ暇なんすけどぉー」
  
 するりと後方から長い腕が伸びてくる。かと思えば、ずっしりと重たい身体が背に乗っかった。「なーぁー?」。甘ったるく音を間延びさせた不満げな声とハープアップの毛先が俺の首を擽る。その拍子、ついでとばかりに二種類の匂いがふわっと香って消えていった。甘い柔軟剤の匂いと愛用のシャンプーの匂い。……蒼乃の、匂い。
 うなじを隠すように首元まで伸びた長めの髪は『蒼乃』という名前とは似ても似つかぬ金色をしていて、見ているだけで陽だまりを彷彿とさせる温かさをもっている。そんで、ぽかぽかと温かいのは髪色だけじゃない。蒼乃は体温も高くて、後ろから抱きしめられていると心地良さからか不思議と胸の辺りがすーっと軽くなる。……まぁ、物理的にはすっげぇ重いんだけど。

「しゃぁねぇだろ。補習なんだからよぉ 」
「マジありえねぇ……なに赤点とってんだよ、バカがよ」

 そんな蒼乃は現在すこぶる機嫌が悪い。二人っきりなのを良いことにベタベタとくっつきながら、さっきからずっとこんな調子でぶーぶー文句を垂れている。くそ腹立つけどぐうの音も出ん。自分でもやらかしたって思ってるから尚のこと。仕方ねぇだろ。苦手なんだよ、日本史って。漢字ばっかごちゃごちゃ並べやがって。目が滑るったらねぇっての。これなら世界史の方がまだマシだわ。実際、あっちはしれっと平均取れてたし。

「前回の期末、数学で真っ赤になってた奴に言われたくねぇ~~」
「あれは計算がめんどい問題作った先公が悪い」

 その理屈が通るなら俺の主張が通ったっていいだろ。なんだそれ。計算すんのが数学だろうが。計算しねぇ数学ってなんだよ。
 すっかり拗ねたらしい蒼乃が嫌がらせよろしく耳を噛んでくる。がっつり歯形が付きそうなくらいピアスホールの開いた軟骨に歯が立てられて、フツーに痛いから思わず何度も身体が逃げる。勘弁してくれ、こっちがキレそうだわ。なんならお前は『得をした側』だろうが。そんな怒んなよ。

「い゛ってぇな。つーか、別に俺が補習でもいーだろ。勝負はお前のストレート勝ちなんだしよ」
「それはっ、 …まぁ……そーだけどぉ……」

 うーだの、あーだの、もにゅもにゅなんか呻きながら俺の首筋に蒼乃の顔が埋まった。大方、自分が勝つと見越して放課後になんか計画でも立ててたんだろう。それが俺の補習によって潰れちまった。どうせそんなとこだ。

 蒼乃に抱きつかれたまま、ちらりと伺った壁掛け時計はまだ昼の14時を指していた。なんだよ。まだまだ遊ぶ時間なら残ってんじゃねぇか。こんな風に不機嫌を叩きつけられる言われはねぇぞ。コイツがこれ以上邪魔しなかったらさっさと終わらせて充分に遊べる。なんせ、今日はもう授業が無い。
 幸運なこともあったもんだ。近々古くなった校舎の補修工事がされるとか何とかで、今日は午後から校舎内各所の点検作業があるらしい。その関係で有難いことに午前で授業は終わりだった。

 てなわけで、俺たちは偶然手にした大いなる遊び時間を有意義に活用すべく『勝負』をすることにした。
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