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しおりを挟む「……あの、私……」
それ以上は言葉にできなくて、なんだか申し訳なくなってしまい縮こまった。
20歳をとうに過ぎているのに未だ恋愛よりもこうしてダンスを見ているほうがいいというのは、彼の真剣さに泥を塗るような軽い理由である気がして口にもできない。
騎士は返答を待っているのかそれ以上はなにも言ってこず、気まずい空気が2人をつつむ。
ホールでは次の曲目がはじまっていた。軽快な音楽が盛大に鳴り響きはじめると、ゾフィアは急にそわそわと落ち着きがなくなる。
ああダンスが始まってしまった……。見たい。つま先立ちすれば見えるかしら。
騎士は、大きく伸びをして彼の肩ごしにホールを覗き見するゾフィアの横顔を面白くなさそうな顔で黙って見つめる。
やがて根負けしたのか、天を振り仰いで、
「……本当に、ひどいな……」
とポツリとこぼすと、きゅうにぐいっとゾフィアの手を引っ張って、そのまま人ごみを縫うように歩きはじめた。
「えっ、ちょっ……、どこへ」
「喉が渇きました。ワインを取りに」
「待って、待ってくださいっ!なぜ私まで連れていくのですかっ」
「一緒に踊るのはダメ、2人で話すのもダメでワインを飲むのもダメだなんて、そんな無慈悲な人ではないでしょう?」
「無慈悲です、だから離し」
「ませんよー。貴方が優しい人だというのは、俺はもう知っていますからね」
「そ、それは誤解ですっ」
必死の抵抗をこころみるも騎士のたくましい上腕二頭筋にかなうはずがない。二の腕をとられた状態で、そのままずるずると軽食のたくさん並べられた立食テーブルの前まで連れてこられてしまった。
一口サイズに小さく切りわけられた色とりどりの料理が並ぶ大皿の前まできて、やっと騎士はゾフィアから手をはなして、
「赤と白、どちらにします?」
と何食わぬ顔で聞いてくる。
「私、お酒はあまり……」
「あ、じゃあノンアルコールのものをなにか用意させましょう。今、給仕に言って持ってこさせますから、そこにいてください」
そう言いおいて金髪の騎士は人ごみに紛れていく。
……いつの間にか一緒に飲んで食べることになっている。私は状況に流されているの!?
ゾフィアは眩暈がしそうになった。
あんな直球で強引に男性に迫られたのは初めてだ。胸を押さえると鼓動がドクドクと大きな音を立てている。
そばに居る権利ってどういうことだろう、夜会や晩餐会でずっと隣に居る相手といったら当然ながら決まった相手――恋人か婚約者しかいないのに。
彼は私の恋人になりたいのだろうか。
あのモテそうな人が?
と同時に、あの人、前回の夜会までは断ったらすぐにいなくなっていたはず、あんなに押しが強い人だったろうかと首を傾げる。
しばし考え込んでみたが――やがてぶんぶんと大きく首を振って雑念を払うと、離れてしまったホール中央を見やって、そして落胆した。
ここからでは人が多すぎて、よく見えないわ。
音楽は聞こえるが踊っている姿は遠く小さくしか見えない。
さっき自分が立っていた場所は良く見える場所だったのだ。あの金髪の騎士が帰ってこないうちにさっさと元の場所へ戻ろうと思い、さっきまで居た場所に視線を移せば、そこにはもうすでに新たな見知らぬ女性が立っていた。
困ってしまって、所在無く視線を彷徨わせる。
別の場所を探さなければと一歩踏み出したら、その空間に突如現れた大きな背中にぶつかった。
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