自称引きこもりの悪役令嬢

ぎんさむ

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逆ハー製作委員会

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夏休みに向けて慌ただしく過ぎる日々の中で、外では蝉が鳴き始め、木々はよりいっそう緑を濃くし、日にも鮮やかな万緑の季節となっていた。

「あっつ~い」

今日も例の如く学校をお休みしているのだが、なんせこの国にはクーラーというものがない。クーラーもない上に扇風機もなく、部屋にあるのは床一面の氷。板のように分厚い氷がカーペットの下に置いてあり、メイド達が1時間に一度やってきて溶けた水を拭いては氷を置くという作業している。効率が悪いと思いつつも案外涼しいので、なんとも言えない。でも、こんなことをするとなるとまぁ家具など置けたものじゃない。だから、冷房専用部屋というものに言わば監禁されているような状態だ。ジルは水が嫌だからといって来ないし、お母様は暑すぎると言って家から出て行ってしまった。メイドの話を盗み聞きしたところお母様は毎年残暑の終わり辺りまで亜寒帯のような涼しい地域に行くそうだ。ずるいな。勉強もろくにできないし、本を読むにもこの暑さの中では活字を見る気分にもなれない。

カーペットに大の字になってへばりついているといきなりドアが開く。あ、クソ兄貴だな。あいつ絶対ノックしないよな。ほんとに失礼だよ。レディの部屋に入るんだから断りぐらい入れろよな。

「シーニュ、避暑地に行こうか」

「お兄様大好き!!」

やったよぉぉぉぉぉぉぉ流石お金持ち!やっぱり避暑地に別荘持ってたのではないか!お兄様もやはり暑いようで額には汗が浮き出ている。それでも爽やかに見えてしまうから本当に腹立たしい。あらかじめ地図を持ってきていたようで、幾つかの別荘を紹介してくれる。うーん、どれがいいかな。
1つめはワイナリー付きのぶどう園。
2つめはボート遊びから釣りまでできる湖
3つめは買い物し放題遊びし放題の都会。

「湖のところかしら」

だって、湖のほとりで優雅に読書なんてしちゃったら素敵だし!それに、この機会に少し魔法なんかも覚えて練習してみてもいいかもしれない。たまにシャルルが楽しそうに魔法を演唱してるの実は羨ましかったんだよね。もちろん、ジルも連れて行くよ。猫は冬の方が弱いと聞いたけどうちにいるジルを見るとずっとくたばってるし、人の姿になっても暑いからシーニュに近寄らないとか言ってくるんだもの。やめて、愛情不足で死にそう。お父様は王都の有名魔術師を雇っているそうだ。なんでもその魔法師に雪を降らせ、家中キンッキンにしてるんだって。いいなぁ~私も行きたいと言ったら大人の事情があるからダメと言われた。え、まさか愛人連れ込んでたり………?と思ったらお兄様がそれもそうだけど随分と汚い話をしてるからね。と言っていた。嫌だ。変な商業に手を出さないでね!?

行き場所も決まったことだしとラフで涼しげパジャマから重くて暑苦しいドレスに着替える。これでも、シフォンのような柔らかくて風を通しやすいドレスにしたから少しは暑さも和らぐけど、それでも何枚も布を重ねているドレスなんてものを着たら暑い。おまけにお母様が日焼けしないようにと真っ黒なものを買ってくるもんだから熱や光を吸収して最悪だ。手袋と日傘、薄手のストッキングにヘッドドレスをつけるとまるでお葬式だ。縁起わるっ。
旅行の準備をメイド達にさせている間に私は学校に夏休み明けまで行けないと連絡を入れる。あれ、引きこもり大計画が見事に崩壊したぞ?あるぇ?まぁ、いいか。暑いのは予想外だったし。
4人乗りの馬車に魔法師を1人クーラー代わりに連れて乗り込み、後ろ私たちの荷物を見張る護衛1人が乗った馬車が連なって出発する。

楽しい夏の始まりだ!!
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