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第5章
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「来ないでっ!」
近付こうとした瞬間そう言われ驚きに足が止まった。
走り去る後ろ姿に慌てて跡を追おうとしーー
「今はそっとしておいて上げてくれないかな」
「………何故でしょう」
今までになかったアメリアの態度に戸惑いながらも、そちらに視線を向ける。
「バカの仕業だ。突然入ってきたかと思えば、いきなり婚約破棄を宣言し言い返したアメリア嬢に剣を向けた」
「っ!?怪我を!?」
「いや、それはないようだ。ただ……その、髪がな」
まさか怪我をしたのではと慌てたが、髪をかすっただけだと聞き胸を撫で下ろす。
「かなり傷付いているようだった。彼女のことだ、人前で泣くことも出来ないだろうから今は放ってーー」
「お気遣い頂き有難うございます。ですが、自分のために涙を流す女性を放っておくほど愚か者ではありませんので」
分かったように語る彼に腹が立たなかったと言えば嘘になる。
彼女と同い年であるということも、隣国とはいえ王子という地位を持っているということも、彼女に少なからず信用され頼られているということも。
時々聞くアメリアの話しの中で彼の名前が出る度嫌な感情が浮かんでいた。
「これはこれは。やはり間に入るのは難しいようだ。……彼女は君に任せるよ」
どこか寂しそうに笑うのはやはり少なからずアメリアに想いを寄せていたということだろう。
礼をし踵を返すと走り去ったアメリアの姿を探す。
自惚れではないが、彼女が言った言葉は自分に嫌われたくないという思いからだろう。
彼女が不安そうに瞳を揺らす時は大抵そうだった。
嫌いにならないで、ごめんなさいと謝る姿にどれだけ心を痛めたか。
そしてそれ以上に自分のことでそれほど心を揺らしてくれることに優越感を抱いてもいた。
傷付けたいわけではない、だが自分のことを想い悲しんでくれることが嬉しかった。
だが今はそんな暢気なことを言ってなどいられない。
「させません」
やっと見つけた姿に行き着く暇もなく修道院行きを口にする彼女に苛立った。
「貴方様は私の伴侶です」
絶対に手を離しなどしない。彼女は自分のものだ。
「どこへ逃げようと?私以外の男の元へでも?」
逃げられたことなど何度もある。
だがそれも羞恥のためなら許せるが、他の男の元へというならば決して許しはしない。
「今更逃げられるなどと思わないで下さい」
今まで見たことのない自分の態度に戸惑っているのだろう、混乱に再び走り出そうとしたアメリアの腕を掴むと胸元へと閉じ込める。
「愛しております。他の誰でもない、お嬢様のことだけを」
驚きに目を見開き見上げくる瞳に、ずっと頭を隠していた上衣がズルリと落ちていく。
仕方がなかったとはいえ、自分以外の男のものが彼女に触れていたことに嫉妬する。
使用人である自分が彼女に
「貴方の価値は髪の長さなどで変わりはしない。それぐらいで揺らぐような軽いものなど愛とは呼ばない。私の愛をそんな軽いものと同じにしないで下さい。私は何より貴方という存在が愛しいのです。………貴方だから、愛しているんです」
どうか伝わってほしい。
髪が長かろうが短かろうが彼女であればそれでいい。
髪を褒めたのも彼女という存在があってこそだった。
こんなにも誰かを大切だと、愛おしいと思えたのは彼女が生涯でただ1人であり彼女だけなのだ。
「私も、愛してる」
涙で崩れようと彼女の美しさは変わりはしない。
何より、愛しい相手が自身に愛を囁いてくれる瞬間ほど幸せなものはないのだった。
近付こうとした瞬間そう言われ驚きに足が止まった。
走り去る後ろ姿に慌てて跡を追おうとしーー
「今はそっとしておいて上げてくれないかな」
「………何故でしょう」
今までになかったアメリアの態度に戸惑いながらも、そちらに視線を向ける。
「バカの仕業だ。突然入ってきたかと思えば、いきなり婚約破棄を宣言し言い返したアメリア嬢に剣を向けた」
「っ!?怪我を!?」
「いや、それはないようだ。ただ……その、髪がな」
まさか怪我をしたのではと慌てたが、髪をかすっただけだと聞き胸を撫で下ろす。
「かなり傷付いているようだった。彼女のことだ、人前で泣くことも出来ないだろうから今は放ってーー」
「お気遣い頂き有難うございます。ですが、自分のために涙を流す女性を放っておくほど愚か者ではありませんので」
分かったように語る彼に腹が立たなかったと言えば嘘になる。
彼女と同い年であるということも、隣国とはいえ王子という地位を持っているということも、彼女に少なからず信用され頼られているということも。
時々聞くアメリアの話しの中で彼の名前が出る度嫌な感情が浮かんでいた。
「これはこれは。やはり間に入るのは難しいようだ。……彼女は君に任せるよ」
どこか寂しそうに笑うのはやはり少なからずアメリアに想いを寄せていたということだろう。
礼をし踵を返すと走り去ったアメリアの姿を探す。
自惚れではないが、彼女が言った言葉は自分に嫌われたくないという思いからだろう。
彼女が不安そうに瞳を揺らす時は大抵そうだった。
嫌いにならないで、ごめんなさいと謝る姿にどれだけ心を痛めたか。
そしてそれ以上に自分のことでそれほど心を揺らしてくれることに優越感を抱いてもいた。
傷付けたいわけではない、だが自分のことを想い悲しんでくれることが嬉しかった。
だが今はそんな暢気なことを言ってなどいられない。
「させません」
やっと見つけた姿に行き着く暇もなく修道院行きを口にする彼女に苛立った。
「貴方様は私の伴侶です」
絶対に手を離しなどしない。彼女は自分のものだ。
「どこへ逃げようと?私以外の男の元へでも?」
逃げられたことなど何度もある。
だがそれも羞恥のためなら許せるが、他の男の元へというならば決して許しはしない。
「今更逃げられるなどと思わないで下さい」
今まで見たことのない自分の態度に戸惑っているのだろう、混乱に再び走り出そうとしたアメリアの腕を掴むと胸元へと閉じ込める。
「愛しております。他の誰でもない、お嬢様のことだけを」
驚きに目を見開き見上げくる瞳に、ずっと頭を隠していた上衣がズルリと落ちていく。
仕方がなかったとはいえ、自分以外の男のものが彼女に触れていたことに嫉妬する。
使用人である自分が彼女に
「貴方の価値は髪の長さなどで変わりはしない。それぐらいで揺らぐような軽いものなど愛とは呼ばない。私の愛をそんな軽いものと同じにしないで下さい。私は何より貴方という存在が愛しいのです。………貴方だから、愛しているんです」
どうか伝わってほしい。
髪が長かろうが短かろうが彼女であればそれでいい。
髪を褒めたのも彼女という存在があってこそだった。
こんなにも誰かを大切だと、愛おしいと思えたのは彼女が生涯でただ1人であり彼女だけなのだ。
「私も、愛してる」
涙で崩れようと彼女の美しさは変わりはしない。
何より、愛しい相手が自身に愛を囁いてくれる瞬間ほど幸せなものはないのだった。
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