二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
38 / 475

新居

しおりを挟む
 「ただいま戻りました」

 「パパただいま」

 隠れ家に戻った瞬間、どこから駆けつけたんだと言わんばかりの勢いでアレンとセインに抱きつかれた。

 「ちゃんとお手伝い出来ました?」

 「した!」
 「できた!」

 そんなに力強く言わなくとも。
 よく出来ましたと頭を撫でてやる。

 「ほら、ただいまって言ってるんですから言うことがあるでしょう?」

 「おかえり!」
 「お、おかえり」

 アレンは元気よく、セインは少し照れながらも言ってくれる。
 今日の成果をお互い報告しながら食堂へ向かえば、待ち構えていたサッズとシンクがジークを見て爆笑していた。

 「あっ、花冠外すの忘れてましたね」

 「おか、お頭がっ、ぶっ、ふふ、あはははははっ」
 「ちょっ、どっ、どうしたらそう、ははっ、ダメ、笑える。あはははははっ!」

 「………」

 無言で花冠を外したジークは木苺が詰まった籠を渡すと無言で食堂を後にした。

 「アズと一緒に作ったんですよ。可愛いでしょう?」

 アレンたちに見せながら、サッズたちにも花冠を被ったアズを見せてやる。
 笑いながらも可愛い可愛いと褒めてくれるサッズたちにアズも満足そうだった。

 「いや~、いいもん見れたっス。お頭のあんな姿….ぶはっ、ダメ、思い出しただけで、あははははっ」

 「まぁ、そんだけ浮かれてたんだろ。楽しくてなにより」

 笑い続けるシンクにサッズがいい加減にしろとつっこんでいたが、その口が震えているため説得力はなかった。
 
 「少し町に行ってこようと思うんですが、何か必要なものとかありますか?」

 こちらで生活にあたり宿から必要なものと、ギルドで依頼達成の報告もしてこなければならない。
 ついでに何か必要なものを思ったが、ここでは自給自足ができているらしく特に必要ないと言われた。
 そのまま隠れ家を後にし町に向かえば、数日世話になった宿から荷物を運び出しギルドに向かう。

 「エニシさんっ!無事でしたか!」

 「へ?」

 なんのことだろう?
 ギルドへ入った途端、見慣れたギルド職員の男が駆け寄ってきた。
 どうやら依頼を受けてから帰ってくる様子がない縁たちを心配してくれていたらしい。
 心配させて申し訳ないと謝りながら依頼の薬草を渡すと報酬を受け取るのだった。

 「随分親切な方達ですね」

 笑ってそう言う縁に、アレンたちは「いや、相手が縁だからだぞ!」と心の中だけで思うことにする。
 それからある程度食料や下着などを買い込むと町を後にするのであった。





 「お前ら!いい加減にしろよ!」

 「あっ、忘れてました」

 隠れ家に向かう途中、何か声がするなと近寄ってみれば木に吊るされたままの王子様がいた。
 口の方はまだ元気なようだが、身体はやはりグッタリしており、木から下ろしてやったが動くことができないようだった。

 「少しは反省できました?」

 縄を解いてやり、水を渡してやったが動けないようなので縁が背中を支えてやりながら少しずつ飲ませてやる。

 「わっ、私は悪くない!私は本当のことを言ったまでだ。それをお前たちがーーいっ!」

 縁が起き上がれば支えを失った王子はそのまま地面に倒れる。

 「なっ、なにをする!」

 「言いましたよね?反省、しましたかと」

 これだけ時間があったにも関わらず、考えることすらしていないらしい。

 「貴方は何をそんなに怖がっているんですか?」

 「わ、私が怖がっているだと!ふざけるな!私がこいつら獣人を怖がるなどあるわけないだろう!」

 その言い方がすでに怖がっているのだとなぜ分からないのだろうか。

 「確かに目の前で自分の兵たちが倒されれば怯えるは仕方ないでしょう。でも彼らが、彼が、貴方に何をしました?」

 「え?」

 倒れ込む王子の前に膝をつくと、隣にいるアレンの手を掴む。

 「貴方は彼に何をされました?」

 「な、なにをって……」

 突然の質問に戸惑っているようだ。
 答えられないのは分かっている。何もされていないのだから。

 「何もされていないのでしょう?それなのに貴方は彼を獣人だからと話しも聞かず、汚い、醜いとふざけたことばかり。彼らが貴方と何が違うと言うんですか。耳がある?人間だってあるじゃないですか。尻尾がある?いいじゃないですか可愛いくて」

 「ばっ、かわいいだとぉ」

 「人間の中にだって色んな人がいるでしょう?それと一緒です。耳がある、尻尾がある、そんなの人それぞれ個性です。人間に貴方のような金色の髪を持つ人がいるように、黒髪の人、青い瞳、赤い瞳の人だっている。それなのに獣の耳がある、尻尾があるというだけで何故嫌われ、蔑まされないといけないんです」

 「それは…こいつらが、獣人だから……」

 獣人だから。
 その言葉だけで人間は全てを片付けようとする。
 それが恐怖からくるものだと何故分からない。
 自分たちと違う、自分たちより強い、だから自分たちが負けるのが怖いとそれらを従わせようとする。
 
 「貴方は死ぬのが怖いですか?」

 「は?」

 どうか分かってほしい。
 彼らが何を思っているか。
 彼らがどうしたいのか。
 縁だって人間だ。人間だが獣人が好きだ。
 アレンが、セインが、ジークが、みんなが大好きだ。

 「全てを理解しろとは言いません。私が言うことに納得できないこともあるでしょう。けど、分かって下さい。彼らは生きたいだけなんです。貴方たちに危害を加えたいわけではなく、貴方たちから何かを奪おうとしているわけでもない。貴方たちが死ぬのが怖いと思うように、彼らも死ぬのが怖いと毎日毎時間怯えながら暮らしているんです」

 人間にこき使われながら碌に眠ることもできず、碌に食べ物を与えられることなく、蹴り殴られ、死んでさえ碌な扱いもされない。
 逆らえば殺されると怯えて生きることがどれほど辛いことか。
 人間に捕まれば死しか見えない未来に怯えて暮らすことがどれほど辛いことか。

 「だから、放っておいてあげてくれませんか?」

 「…放っておく?」

 もっと言われると思ったのだろう。
 呆けたようにこちらを見る王子に微笑む。
 獣人全てを人間として扱えとは言わない。
 奴隷にされている獣人を自由にしろとは言わない。
 いや、言えない。
 そんな権利が縁にあるはずもなく、そうできるほどの力もない。
 でもーー

 「静かに、ただ必死に毎日を生きようにしている彼らを放っておいてほしいんです。お願いします」

 最後に頭を下げると、少しの食料と水を残し縁たちはその場を後にするのであった。

  
 


 
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

処理中です...