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不安
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「私は好きですよ。セインがその綺麗な瞳で私に笑いかけてくれるのがとても嬉しいです」
そんなこと言われたのは初めてだった。
奴隷だった時はその目つきと容姿から気にくわないと暴力を振るわれることが多々あった。
反抗的な目だなと殴られ蹴られ、ならば放っておいてくれと何度思ったことか。
「でもセインの良さを知っているのが私だけというのも特別感があっていいですね」
そう、誰か1人。
他の誰でもない、大切な番である縁だけが知ってくれていればそれでいいのだ。
気づいてくれた縁だけが。
「………ずっと1人だった。縁が教えてくれたんだ。こんなにも幸せなことが人生にあるんだって。家族が欲しかったのは縁が離れていくのが怖かったからだ」
獣人である自分と違い、人間である縁であれば多くの可能性があっただろう。
女性と結婚することも出来た縁に、今でもその可能性があるのではと考えては不安で仕方なかった。
もちろん自分の家族が欲しかったのもあるが、ほとんどは縁を繋ぎとめておくためだった。
優しい縁のことだ、子どもが出来てしまえばその子を残して他の人間のところに行くことではないだろうと思ったのだ。
「失望しただろう?そんなことに大切な命を利用するのかと自分でも自分に吐き気がする。でも……怖いんだ。俺には縁しかいない。縁だけが俺の全てなんだ」
惜しみない愛を注いでくれる縁だが、欲張りな自分はそれでもまだ足りないとばかりに縁を求めてしまう。
「何を失望することがあるんです?それだけセインが私を求めてくれることに喜びこそすれ、怒ることも悲しむこともありません。セインが不安になるなら何度でも言いましょう………セイン、貴方を愛しています」
これほどの番を持てた自分は、他のどの番たちより幸運で幸せだろう。
静かに涙を流すセインに、縁は微笑みながら優しいキスを何度も贈る。
「子どもが出来ることでセインが安心できるならそれでいいんです。それに何もこの子を愛せないというわけではないでしょう?理由がどうあれ、自分の子として愛せるならばそれでいいじゃないですか」
繫ぎ止めるためとはいえ、子どもを大切に思わないわけじゃない。
ならば問題はないと縁は言う。
「けど俺はーー」
子どもを利用しようとしたんだと言い切る前に手で口を塞がれた。
「子どもが出来たと聞いて私がどれだけ嬉しかったか分かりますか?私がセインの…私が愛するセインの子を身籠もることが出来てとても嬉しいのと、それをセインが喜んでくれる、それでいいんです」
こんな情けない姿見せたくないと思いつつも流れ落ちるものを止めることができず、嗚咽混じりにありがとうと告げればそっと回された腕に優しく抱きしめられた。
撫でられる手がとても心地よく、まるで小さい子どもにでもなったような気分だ。
「それに、私とセインの子ですよ?絶対可愛いに決まってます。心配かけながらもきっとみんなに可愛がってもらえますよ」
「ふっ、はは、心配はかけるんだな」
「私の子ですからねぇ。似ないことを切に願いますが、嫌なとこが似るって言うじゃないですか」
確かに。
子持ちの父親たちの話を聞いていても、何故そんなとこ似たんだ?と言う話を聞くことがある。
そう言われ、心配し子どもの後ろを走り回る自分の姿を想像してしまい笑ってしまった。
「そうだな。心配でおちおち落ち込んでられないかもな」
「ですね。頑張って下さい、パパ」
「ん?ママは頑張ってくれないのか?」
「ママは体力がありませんからねぇ。きっとパパたちが頑張ってくれると信じてます。子どもの体力を甘く見ない方がいいですよ」
「それなら俺たちが適任だな。倒れられないようママには隣で見守っててもらわないと」
「さすがパパですね」
仕方ないなと笑えば、よろしくお願いしますとキスしてくれるのであった。
確かに縁の言う通り「運命の番」などきっかけに過ぎない。
運命と言いながら拒否される者もいるのだから。
そこから本当にお互いを好きになれるかはやはり自分自身の意志次第なのだ。
こんなにも縁のことを愛しく感じ求めて止まないのは、縁が縁でありそれだけ魅力的だからであり、そんな縁がセインを愛してくれていることに感謝しかない。
「愛してる縁」
「私もセインを愛してます」
また不安になることはきっとあるだろう。
それでも縁ならばまたこうして抱きしめ愛を囁いてくれるだろうと少しだがセインの中の不安が減ったような気がしたのであった。
そんなこと言われたのは初めてだった。
奴隷だった時はその目つきと容姿から気にくわないと暴力を振るわれることが多々あった。
反抗的な目だなと殴られ蹴られ、ならば放っておいてくれと何度思ったことか。
「でもセインの良さを知っているのが私だけというのも特別感があっていいですね」
そう、誰か1人。
他の誰でもない、大切な番である縁だけが知ってくれていればそれでいいのだ。
気づいてくれた縁だけが。
「………ずっと1人だった。縁が教えてくれたんだ。こんなにも幸せなことが人生にあるんだって。家族が欲しかったのは縁が離れていくのが怖かったからだ」
獣人である自分と違い、人間である縁であれば多くの可能性があっただろう。
女性と結婚することも出来た縁に、今でもその可能性があるのではと考えては不安で仕方なかった。
もちろん自分の家族が欲しかったのもあるが、ほとんどは縁を繋ぎとめておくためだった。
優しい縁のことだ、子どもが出来てしまえばその子を残して他の人間のところに行くことではないだろうと思ったのだ。
「失望しただろう?そんなことに大切な命を利用するのかと自分でも自分に吐き気がする。でも……怖いんだ。俺には縁しかいない。縁だけが俺の全てなんだ」
惜しみない愛を注いでくれる縁だが、欲張りな自分はそれでもまだ足りないとばかりに縁を求めてしまう。
「何を失望することがあるんです?それだけセインが私を求めてくれることに喜びこそすれ、怒ることも悲しむこともありません。セインが不安になるなら何度でも言いましょう………セイン、貴方を愛しています」
これほどの番を持てた自分は、他のどの番たちより幸運で幸せだろう。
静かに涙を流すセインに、縁は微笑みながら優しいキスを何度も贈る。
「子どもが出来ることでセインが安心できるならそれでいいんです。それに何もこの子を愛せないというわけではないでしょう?理由がどうあれ、自分の子として愛せるならばそれでいいじゃないですか」
繫ぎ止めるためとはいえ、子どもを大切に思わないわけじゃない。
ならば問題はないと縁は言う。
「けど俺はーー」
子どもを利用しようとしたんだと言い切る前に手で口を塞がれた。
「子どもが出来たと聞いて私がどれだけ嬉しかったか分かりますか?私がセインの…私が愛するセインの子を身籠もることが出来てとても嬉しいのと、それをセインが喜んでくれる、それでいいんです」
こんな情けない姿見せたくないと思いつつも流れ落ちるものを止めることができず、嗚咽混じりにありがとうと告げればそっと回された腕に優しく抱きしめられた。
撫でられる手がとても心地よく、まるで小さい子どもにでもなったような気分だ。
「それに、私とセインの子ですよ?絶対可愛いに決まってます。心配かけながらもきっとみんなに可愛がってもらえますよ」
「ふっ、はは、心配はかけるんだな」
「私の子ですからねぇ。似ないことを切に願いますが、嫌なとこが似るって言うじゃないですか」
確かに。
子持ちの父親たちの話を聞いていても、何故そんなとこ似たんだ?と言う話を聞くことがある。
そう言われ、心配し子どもの後ろを走り回る自分の姿を想像してしまい笑ってしまった。
「そうだな。心配でおちおち落ち込んでられないかもな」
「ですね。頑張って下さい、パパ」
「ん?ママは頑張ってくれないのか?」
「ママは体力がありませんからねぇ。きっとパパたちが頑張ってくれると信じてます。子どもの体力を甘く見ない方がいいですよ」
「それなら俺たちが適任だな。倒れられないようママには隣で見守っててもらわないと」
「さすがパパですね」
仕方ないなと笑えば、よろしくお願いしますとキスしてくれるのであった。
確かに縁の言う通り「運命の番」などきっかけに過ぎない。
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「愛してる縁」
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