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負けた
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「何があっても自分を信頼してくれる存在が側にいてくれるというのは心を軽くしてくれますよ」
負けた。
一瞬でもその魅力に惹かれてしまった自分が情けない。
エニシもそれが分かったからこそ名前は何にするかと聞いてきたのだろう。
せっかく考えた名前は却下されたが。
「大体の躾はしてあります。なのでそこら辺は心配してませんが、今日は宰相様に慣れてもらえるよう頑張りましょう」
流石に彼も考えてくれていたようで、いきなりポイとレオナルドに丸投げすることはしなかった。
仕事もある程度余裕があったため気分転換がてら散歩でもしようということになった。
「慣れない場所なので不安…はなさそうですけど宰相様が抱っこしてあげて下さいね」
はいと手渡されたが、生まれてこの方動物に触れるということをしてこなかったためどうしていいか分からない。
素直に分からないと言えば馬鹿にすることなく教えてくれた。
慣れないながらも抱っこしてやればキョトンとした顔でこちら見上げてくる。
「狼ってそれほど視覚がよくないそうですよ。なので匂いで覚えてもらって下さい」
嫌がる様子はないためホッとしたが、撫でてやれと言われ固まる。
撫でる?この狼を?
誰かを撫でたことなどない。
動かないレオナルドにエニシはくすりと笑うと手を掴まれ子狼の鼻先にもっていかれる。
噛まれないかと一瞬思ったがそんなことはなく、フンフンと匂いを嗅ぐとまたジッとこちらを見上げてくる。
「大丈夫ですよ。賢い子です。敵じゃないと分かれば噛むことはありません」
その言葉に勇気をもらい、そろそろとぎこちないながらも頭を撫でてやれば気持ちよさそうに擦り寄ってきた。
悪くない。
「可愛いでしょ?ふわふわの毛もとても癒されますよ」
彼が手入れしているのかその黒い毛は驚くほどふわふわだ。
そのまま抱き抱えながら言われるまま隊の方に向かえば、今日も今日とて元気に筋肉を鍛える(馬鹿)隊長がいた。
「お?勝ったみてぇだな。やるじゃねえか!」
勝ったとは狼のことだろう。
言い方が少々気に食わなかったので無言で足を踏み付けてやった。
「痛って!?何すんだよ!」
いくら筋肉を鍛えようとも流石に足の指までは無理だったようだ。
素知らぬフリで離れようとすれば腕の中の子狼が暴れ出したため地面に下ろしてやれば楽しそうに尻尾を振り隊長の周りをぐるぐる回っていた。
「おっ、お前良かったな。飼い主が見つかって」
「わう!」
「「……………」」
まさか会話出来ているのか?とエニシと2人狼たちを見つめていればーー
「頭の中がそれほど変わらないんですよ。あの人もある意味野生ですからね」
ハァと溜め息をつきながら近寄ってきたフレックに挨拶すれば良かったと微笑まれた。
「何がだ?」
「これで一人無理をするということもなくなるのではないかと。手伝えることがあったら何でも言って下さい。貴方には今まで散々迷惑をかけてきましたから私なんかでも出来ることがあればお手伝いさせてもらいます」
「…………」
特別何かしたという覚えはない。
それでも感謝していると、手を貸すと言われ困惑した。
レオナルドは宰相として当たり前の仕事しかしてきていない。
周りもそれが当たり前だと思っていたし、当たり前のことをしたぐらいで誰かに感謝されるということもなかった。
「この国が今も成り立っているのは貴方の功績が殆どです。だからこそ無理をして欲しくなかった」
心配されていたとは思っておらず驚く。
「エニシさんが来てくれるようになってから顔色も雰囲気も良くなったと隊長と話していたんですよ」
………なったのだろうか?
顔色はまだ時たまよろしくない時があるが、彼と出会ってから少しだが心に余裕なようなものが出来た気はする。
「でしょ?さぁ感謝してくれてもいいですよ」
冗談なのだろう。どうだと胸を張る姿が面白い。
「しない」
「残念ですねぇ」
本当はそんなこと思ってないくせにこうして笑って済ませてくれる彼に感謝した。
「これならラックの心配はなさそうですね。時々こうして隊長さんに遊んでもらえばいいですよ」
「そうだな」
「遊んであげているのか遊ばれているのか分かりませんけどね」
「「ぶふぅっ」」
隊長への言葉とは思えぬフレックの言葉にエニシと噴き出し声を上げて笑うのだった。
それから十分にラックを遊ばせてやり部屋に戻ると差し出された小瓶と皿に意味が分からなかった。
「何か作ってくれるのか?」
「は?お腹空いているんですか?違いますよ。ラックのご飯です」
よく見れば瓶に入っていた液体は牛乳のようで、言われるがまま皿に注いでやるとラックも行儀良く座って待っている。
「「…………」」
だが一向に口をつける様子がなく、しかし何かを待つかのようにこちらを見てくる。
「ふ、ふふ、待っているんですからよしと言ってやらないと食べませんよ?」
見つめ合う1人と1匹に隣で様子を窺っていたエニシが笑いを堪えながらそう教えてくれた。
「………よし」
合図を送れば、かなり腹を空かせていたのだろう子狼は頭ごと突っ込む勢いで腹を満たすのだった。
負けた。
一瞬でもその魅力に惹かれてしまった自分が情けない。
エニシもそれが分かったからこそ名前は何にするかと聞いてきたのだろう。
せっかく考えた名前は却下されたが。
「大体の躾はしてあります。なのでそこら辺は心配してませんが、今日は宰相様に慣れてもらえるよう頑張りましょう」
流石に彼も考えてくれていたようで、いきなりポイとレオナルドに丸投げすることはしなかった。
仕事もある程度余裕があったため気分転換がてら散歩でもしようということになった。
「慣れない場所なので不安…はなさそうですけど宰相様が抱っこしてあげて下さいね」
はいと手渡されたが、生まれてこの方動物に触れるということをしてこなかったためどうしていいか分からない。
素直に分からないと言えば馬鹿にすることなく教えてくれた。
慣れないながらも抱っこしてやればキョトンとした顔でこちら見上げてくる。
「狼ってそれほど視覚がよくないそうですよ。なので匂いで覚えてもらって下さい」
嫌がる様子はないためホッとしたが、撫でてやれと言われ固まる。
撫でる?この狼を?
誰かを撫でたことなどない。
動かないレオナルドにエニシはくすりと笑うと手を掴まれ子狼の鼻先にもっていかれる。
噛まれないかと一瞬思ったがそんなことはなく、フンフンと匂いを嗅ぐとまたジッとこちらを見上げてくる。
「大丈夫ですよ。賢い子です。敵じゃないと分かれば噛むことはありません」
その言葉に勇気をもらい、そろそろとぎこちないながらも頭を撫でてやれば気持ちよさそうに擦り寄ってきた。
悪くない。
「可愛いでしょ?ふわふわの毛もとても癒されますよ」
彼が手入れしているのかその黒い毛は驚くほどふわふわだ。
そのまま抱き抱えながら言われるまま隊の方に向かえば、今日も今日とて元気に筋肉を鍛える(馬鹿)隊長がいた。
「お?勝ったみてぇだな。やるじゃねえか!」
勝ったとは狼のことだろう。
言い方が少々気に食わなかったので無言で足を踏み付けてやった。
「痛って!?何すんだよ!」
いくら筋肉を鍛えようとも流石に足の指までは無理だったようだ。
素知らぬフリで離れようとすれば腕の中の子狼が暴れ出したため地面に下ろしてやれば楽しそうに尻尾を振り隊長の周りをぐるぐる回っていた。
「おっ、お前良かったな。飼い主が見つかって」
「わう!」
「「……………」」
まさか会話出来ているのか?とエニシと2人狼たちを見つめていればーー
「頭の中がそれほど変わらないんですよ。あの人もある意味野生ですからね」
ハァと溜め息をつきながら近寄ってきたフレックに挨拶すれば良かったと微笑まれた。
「何がだ?」
「これで一人無理をするということもなくなるのではないかと。手伝えることがあったら何でも言って下さい。貴方には今まで散々迷惑をかけてきましたから私なんかでも出来ることがあればお手伝いさせてもらいます」
「…………」
特別何かしたという覚えはない。
それでも感謝していると、手を貸すと言われ困惑した。
レオナルドは宰相として当たり前の仕事しかしてきていない。
周りもそれが当たり前だと思っていたし、当たり前のことをしたぐらいで誰かに感謝されるということもなかった。
「この国が今も成り立っているのは貴方の功績が殆どです。だからこそ無理をして欲しくなかった」
心配されていたとは思っておらず驚く。
「エニシさんが来てくれるようになってから顔色も雰囲気も良くなったと隊長と話していたんですよ」
………なったのだろうか?
顔色はまだ時たまよろしくない時があるが、彼と出会ってから少しだが心に余裕なようなものが出来た気はする。
「でしょ?さぁ感謝してくれてもいいですよ」
冗談なのだろう。どうだと胸を張る姿が面白い。
「しない」
「残念ですねぇ」
本当はそんなこと思ってないくせにこうして笑って済ませてくれる彼に感謝した。
「これならラックの心配はなさそうですね。時々こうして隊長さんに遊んでもらえばいいですよ」
「そうだな」
「遊んであげているのか遊ばれているのか分かりませんけどね」
「「ぶふぅっ」」
隊長への言葉とは思えぬフレックの言葉にエニシと噴き出し声を上げて笑うのだった。
それから十分にラックを遊ばせてやり部屋に戻ると差し出された小瓶と皿に意味が分からなかった。
「何か作ってくれるのか?」
「は?お腹空いているんですか?違いますよ。ラックのご飯です」
よく見れば瓶に入っていた液体は牛乳のようで、言われるがまま皿に注いでやるとラックも行儀良く座って待っている。
「「…………」」
だが一向に口をつける様子がなく、しかし何かを待つかのようにこちらを見てくる。
「ふ、ふふ、待っているんですからよしと言ってやらないと食べませんよ?」
見つめ合う1人と1匹に隣で様子を窺っていたエニシが笑いを堪えながらそう教えてくれた。
「………よし」
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