238 / 475
案外
しおりを挟む
悪くはない。
悪くはないのだが、いかんせん慣れない。
腹を満たした子狼はそのまま眠りについたのだが、何を思ったか仕事を始めようとしたレオナルドの膝にエニシが眠る子狼を乗せてきた。
「おい」
「その大きさなら邪魔にはならないでしょう?」
ならないが気にはなる。
だがにこにことこちらを見てくるエニシに、邪魔だと下ろそうとすれば何を言われれるか分からないため諦めることにした。
「そういえばこの前アル爺に呼ばれて会いにいったんですけどお城で働いていたんですね」
「………知らなかったのか?」
サラサラと手を動かしながらも話しをするのは難しくなく、仕事の話しではないこともありイライラするということもない。
「この前初めて知りました。で、お鍋をもらってきたんですよ」
は?鍋?
あまりに話しが飛びすぎて手が止まってしまった。
「こちらでは鍋料理というものがないんですね。なので中々欲しい鍋が見つからなくて、探していたらアル爺が譲ってくれました。今度宰相様も一緒にお鍋しましょうね」
「…………そうだな」
それしか言えなかった。
一瞬鍋を食べるのか?と思ったが、鍋料理というぐらいならば鍋を使った調理法なのだろう。
まさか鍋に齧り付くとは考えにくい。
「宰相様は味噌味でも大丈夫ですか?」
「……みそとは何だ?」
彼との会話は楽しいのだが、時々話しが飛びすぎていて意味が分からない時がある。
「あ、言ってませんでしたっけ?この前エリックたちとご飯を食べましたよね?その時に飲んでいたスープに使っていた調味料なんですけど……美味しくなかったですか?」
いや、あれは美味かった。
しっかりと味があるのに変に口に残らずあっさりしており、どこかホッとする味だったのを覚えている。
「美味かった。あれを使って調理するということか?」
「そうです。簡単に言えばあの味噌汁の規模を鍋の大きさに変えたものですね。魚やお肉を入れたり、野菜も入れて煮込むんです」
それは……旨そうだな。
何か希望の具はあるかと聞かれ、野菜多めが良いと言えば笑って頷いてくれた。
「お肉はエルたちが頑張って獲ってきてくれたので、明日は海に行って魚を捕まえてこようかと思います。魚介はいい出汁が出るので楽しみにしていて下さいね」
「期待してる」
まるで夫婦の会話のようで笑ってしまったが、こうして何ともない話しをしながら仕事をするのも悪くない。
なにより自分のために美味しいものを作ってくれようとしていると分かるため純粋に嬉しい。
「うちの子も味噌が大好きなんですよ。あ、そうそう今度連れてくることになったので挨拶に来ますね。ふふ、覚えてます?私が初めてお城に来た時にずっと泣いてた子ですよ」
そういえばそんなことがあった気がする。
もう遠い昔に感じるのはあまりに彼が自分の中に自然に溶け込んでいるからだろう。
あの時ずっと泣いていた子かと、もうそれなりに大きくなっているかもしれないと感慨深いものである。
「私に似たのか呑気というか何というか。たぶん宰相様にもすぐに懐きますよ」
「…………」
レオナルドは自身の容姿をよく分かっているつもりだ。
整っている方だとは思うが、決して子どもに好かれるものではない。
鋭い瞳に高身長な体格は幼い子どもからすれば怖いと思われることがある。
実際王子たちにも幼い頃怖いと泣かれた。
あの時は役に立たぬだろうと好かれなくてもどうでもいいと思っていたが、友人の子ともなると怯えられたらどうしようと考えてしまう。
「マーガレットさんたちにはかなり懐いているんですけど………アル爺が未だに嫌われてるんですよね。最初に会った時に驚かせてしまったせいですが」
「ぶふうっ」
何をやったんだクソジジイ。だがいい気味だ。
いつもレオナルドを揶揄って遊んでいることを思えば、可哀想とも手助けしてやろうとも思わない。
その子どもとは仲良くなれそうな気がした。
「そうだ。この前報告がてら聞いたが模擬戦変更案は君の提案らしいな。フレックが楽しそうに話していた」
「あぁ。あれからどうなりました?」
言うだけ言って帰ってしまい申し訳なかったと頭を下げるエニシに良くやったと褒めてやる。
「あいつらはどうか知らんが私はずっと意味がない不要なものだと思っていたが、あれならばやる価値はあるだろう」
隊長同士戦い一番を決めるなど何と馬鹿らしいことか。
そんなものなくとも強くなれと思っていたが、その姿を人々に見せ安心とお金を集めようとは考えたものである。
「貴族連中もかなり乗り気のようだ。参加の申し込みが早くも来ている」
「それは良かったです。少しでも役に立てなら提案した甲斐がありました」
少しどころではない。
周りもそうだが、何より隊員たちの士気が上がっている。
自身の実力を見せつける絶好の機会なのだから。
「ただ一つ忠告があります。賭け事だけは厳しく取締った方がいいです」
「何故だ?」
「そのせいで勝敗を決めることになっては意味がないからです。彼らは彼らの意志を持って戦い勝利しなければ」
なるほど。
金で勝ち負けを決めるのではなく、全てが彼らの意志と実力で決めなければ意味がない。
忠告通りそのための人員も数に入れ計画を練るのだった。
悪くはないのだが、いかんせん慣れない。
腹を満たした子狼はそのまま眠りについたのだが、何を思ったか仕事を始めようとしたレオナルドの膝にエニシが眠る子狼を乗せてきた。
「おい」
「その大きさなら邪魔にはならないでしょう?」
ならないが気にはなる。
だがにこにことこちらを見てくるエニシに、邪魔だと下ろそうとすれば何を言われれるか分からないため諦めることにした。
「そういえばこの前アル爺に呼ばれて会いにいったんですけどお城で働いていたんですね」
「………知らなかったのか?」
サラサラと手を動かしながらも話しをするのは難しくなく、仕事の話しではないこともありイライラするということもない。
「この前初めて知りました。で、お鍋をもらってきたんですよ」
は?鍋?
あまりに話しが飛びすぎて手が止まってしまった。
「こちらでは鍋料理というものがないんですね。なので中々欲しい鍋が見つからなくて、探していたらアル爺が譲ってくれました。今度宰相様も一緒にお鍋しましょうね」
「…………そうだな」
それしか言えなかった。
一瞬鍋を食べるのか?と思ったが、鍋料理というぐらいならば鍋を使った調理法なのだろう。
まさか鍋に齧り付くとは考えにくい。
「宰相様は味噌味でも大丈夫ですか?」
「……みそとは何だ?」
彼との会話は楽しいのだが、時々話しが飛びすぎていて意味が分からない時がある。
「あ、言ってませんでしたっけ?この前エリックたちとご飯を食べましたよね?その時に飲んでいたスープに使っていた調味料なんですけど……美味しくなかったですか?」
いや、あれは美味かった。
しっかりと味があるのに変に口に残らずあっさりしており、どこかホッとする味だったのを覚えている。
「美味かった。あれを使って調理するということか?」
「そうです。簡単に言えばあの味噌汁の規模を鍋の大きさに変えたものですね。魚やお肉を入れたり、野菜も入れて煮込むんです」
それは……旨そうだな。
何か希望の具はあるかと聞かれ、野菜多めが良いと言えば笑って頷いてくれた。
「お肉はエルたちが頑張って獲ってきてくれたので、明日は海に行って魚を捕まえてこようかと思います。魚介はいい出汁が出るので楽しみにしていて下さいね」
「期待してる」
まるで夫婦の会話のようで笑ってしまったが、こうして何ともない話しをしながら仕事をするのも悪くない。
なにより自分のために美味しいものを作ってくれようとしていると分かるため純粋に嬉しい。
「うちの子も味噌が大好きなんですよ。あ、そうそう今度連れてくることになったので挨拶に来ますね。ふふ、覚えてます?私が初めてお城に来た時にずっと泣いてた子ですよ」
そういえばそんなことがあった気がする。
もう遠い昔に感じるのはあまりに彼が自分の中に自然に溶け込んでいるからだろう。
あの時ずっと泣いていた子かと、もうそれなりに大きくなっているかもしれないと感慨深いものである。
「私に似たのか呑気というか何というか。たぶん宰相様にもすぐに懐きますよ」
「…………」
レオナルドは自身の容姿をよく分かっているつもりだ。
整っている方だとは思うが、決して子どもに好かれるものではない。
鋭い瞳に高身長な体格は幼い子どもからすれば怖いと思われることがある。
実際王子たちにも幼い頃怖いと泣かれた。
あの時は役に立たぬだろうと好かれなくてもどうでもいいと思っていたが、友人の子ともなると怯えられたらどうしようと考えてしまう。
「マーガレットさんたちにはかなり懐いているんですけど………アル爺が未だに嫌われてるんですよね。最初に会った時に驚かせてしまったせいですが」
「ぶふうっ」
何をやったんだクソジジイ。だがいい気味だ。
いつもレオナルドを揶揄って遊んでいることを思えば、可哀想とも手助けしてやろうとも思わない。
その子どもとは仲良くなれそうな気がした。
「そうだ。この前報告がてら聞いたが模擬戦変更案は君の提案らしいな。フレックが楽しそうに話していた」
「あぁ。あれからどうなりました?」
言うだけ言って帰ってしまい申し訳なかったと頭を下げるエニシに良くやったと褒めてやる。
「あいつらはどうか知らんが私はずっと意味がない不要なものだと思っていたが、あれならばやる価値はあるだろう」
隊長同士戦い一番を決めるなど何と馬鹿らしいことか。
そんなものなくとも強くなれと思っていたが、その姿を人々に見せ安心とお金を集めようとは考えたものである。
「貴族連中もかなり乗り気のようだ。参加の申し込みが早くも来ている」
「それは良かったです。少しでも役に立てなら提案した甲斐がありました」
少しどころではない。
周りもそうだが、何より隊員たちの士気が上がっている。
自身の実力を見せつける絶好の機会なのだから。
「ただ一つ忠告があります。賭け事だけは厳しく取締った方がいいです」
「何故だ?」
「そのせいで勝敗を決めることになっては意味がないからです。彼らは彼らの意志を持って戦い勝利しなければ」
なるほど。
金で勝ち負けを決めるのではなく、全てが彼らの意志と実力で決めなければ意味がない。
忠告通りそのための人員も数に入れ計画を練るのだった。
42
あなたにおすすめの小説
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる