二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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それでも

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 「私がこの子を産んだからです」

 「色々あり私がこの子を産みました。なのでこの子にとって私は俗に言うママという立場にあります」

 理解が追いつかなかった。
 何の冗談だと言おうとしたが、悲しそうに笑い立ち去る彼にそんなこと言えなかった。
 あれから数日、今までと変わりなく仕事をこなしながらも頭の片隅で先日のことばかり考えている。
 フレックが問うまでそのことに気付くことはなかった。
 だが思い出してみれば、あの子は初めからエニシのことをママと呼んでいた。
 あまりに自然にママと呼び、マーガレットたちも何を言うでもなく仲良くご飯を食べた。
 そう、何も違和感がなかったのだ。
 彼が男であるということが分かっていながらも、愛おしそうに子どもの世話をする母親のような彼の姿は自然過ぎて何も変に思わなかった。

 「邪魔するぞ」

 ぐるぐると答えのでないものを考えていれば、暢気な声と共に返事を待つことなく男が入ってきた。

 「了承した覚えはない」

 「確認した覚えもないのぅ」

 このクソジジイと心の中で悪態をついていれば、コツンという音と共に見慣れた小瓶が机に置かれた。
 もう無くしてはならないものになりつつあるそれに手を伸ばそうとすればーー

 「おーっと、まだお代をもろうておらんでな。にサインしてもらわんと」

 お代?
 今までエニシがレオナルドに金銭を要求してきたことは一度もない。

 「……納品書?…………どういうことだ?」

 これまでそんなもの書いた覚えがない。
 この飴は彼がレオナルドにと作ってくれていたもので、その代わりと言っては何だか王子であるエリックの世話を頼まれていたのだ。
 そこに契約などというものは存在せず、友として信頼の上で成り立っていた。
 
 「なに、お前さんにお代は請求せん。エニシが払うと言うとるからな」

 そんなこと聞いているのではない。
 何故代金なるものが発生しているのか?
 払うにしても請求されるのはレオナルドであってエニシにではないはずだ。
 そもそも彼が今更そんなもの言い出すのがおかしい。
 
 「説明しろ」

 「それが人にものを頼む態度かのぅ。まぁ、儂も納得はしとらんし教えてやってもいいか。昨日ジンから連絡があってな、エニシが儂にお主のためにいつもの飴を作ってやって欲しいとの依頼がしたいと言ってきおった」

 「……何故だ?」

 今まで彼が作ってくれていたのに今更アルバトロスに頼む理由が分からない。
 
 「お主が嫌がるかもしれぬからじゃと」

 嫌がる?
 何のことか分からなかった。
 眉間に寄る皺にアルバトロスが大きな溜息を溢す。

 「子のことを聞いたらしいな」

 「…………」

 ちょうど悩んでいたことを言い当てられ返事が出来なかった。

 「ジンから話しを聞いただけじゃが、お主がそのことで自分と距離を置きたがるかもしれぬから代わりに作ってやってくれとエニシが言ったらしい」

 話しが読めない。
 何故彼と距離を置かなければならないのか。

 「男であるあの子が子を産んだ。そのことにお主が不快に思い距離を置きたがるやもしれぬからじゃと」

 呆れたようにしながらも教えてくれた。

 「………そんなこと思ってなどいない。少し……混乱しただけだ」

 そう、困惑しただけだ。
 今までなかったことに困惑しただけで、彼の人格も人柄も否定することなど思いつきもしなかった。
 そんなことで彼との繋がりを切ろうとは思わない。

 「なら本人にそう言ってやるといい。あの子はこれで距離を置かれても仕方ないと諦めておったようじゃからな。それでもお主のことを気遣って儂に飴を作ってくれと頼んできた」

 それは本当にレオナルドを心から心配してくれていたからに他ならないからだろう。
 自分のことを嫌いになっても構わないから、元のように戻らないでくれと彼の頼みだったに違いない。
 
 「男で子を産もうが彼は彼だ。それでこれまでのことが消えるわけではない」

 「分かっとるならええわい。しかし命拾いしたな。これであの子に本当に請求しようものなら、お主今頃彼奴らに吊し上げの町中引き回しの刑じゃったぞ」

 「…………笑えない冗談だ」

 「冗談じゃないからのぅ。そんなことになろうものなら儂も嬉々として参加してやったわい」

 このクソジジイども。
 いくら年老いてもこの年寄り3人に勝てる気がしないレオナルドだった。

 「そんなんだから鍋にも誘われず、あの子にも嫌われるんだクソジジイ」

 ボソリと嫌味を言ってやればーー

 「な、鍋じゃとっ!?それは聞いとらんぞ!」

 「アンタが誘われるのは後一年後らしいぞ。楽しみが増えたようで何よりだな」

 長生きする理由が出来て良かったなと言ってやれば、話しを聞くためだろうバタバタと慌てたように部屋を後にするのだった。

 「また今度頼んで作ってもらうか」

 彼のことだ、頼めばきっと「気に入ってくれました?」と言いながら喜んで作ってくれるに違いない。
 あの子どももレオナルドを怖がることなく抱っこさせてくれた。
 あの親にしてあの子である。
 ならば男で子を産んでようがそんなこと些細なことだ。
 折角出来た友人を自分から手離す気はないレオナルドだった。
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