二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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記憶

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 久しぶりに感じたその温もりに、起きたくないと握る手を離せなかった。
 まるでいいよと言っているように優しく叩かれる背に再び眠りにつく。
 まだ母さんが壊れる前、飲んだくれの父さんに日々殴られ蹴られボロボロになりながらも2人身を寄せ合うように眠り、撫でてくれるその手だけが救いであり全てだった。

 「サウルももう疲れたでしょ?母さんももう疲れちゃったの。だからーー楽になりましょう?一緒に」

 ある日水汲みから帰ってまず目に入ったのは赤く染まるを持った母さんの姿。
 側に倒れるは父さんのようにも見えた。
 だが確認する勇気などその時の自分にはなく、震える足で後ろに下がる。

 「どうしたの?ああ大丈夫よ。すぐに母さんもサウルの後を追いかけるわ。怖いのは最初だけ。少し痛いけどこれで終わりよ。もう殴られることもないし、うるさいって怒鳴られこともない。サウルと2人ずっと仲良く暮らしていける」

 これは………いったい誰だ?
 その顔は、笑顔は母さんなのに、そう言い近寄ってくる女は自分が知る母さんではない。
 どれだけ父さんに殴られようと痛みに泣こうと、決して自分をおいて逃げるようなことはしなかった。
 いつも少しのご飯を2人で分け合い、時にはお前は大きくならなきゃと自分の分まで分け与えてくれた。
 生きてきた。生きるために2人で助け合ってきたのだ。
 だが目の前の母に似た女は明らかに自分を殺そうとしている。
 
 「これで終わりだから。ね?サウルも一人は嫌でしょう?母さんと一緒に行きましょ?」

 差し出された手は血で真っ赤に染まっており、恐怖で泣きながら首を振る。
 いやだ、いやだいやだいやだ!死にたくない!
 こんなの夢だ。悪い夢だと頭を振る。

 「………そうなの。サウルは一緒に来てくれないのね」

 俯きそう呟いたかと思えばーー

 「ーーひっ」

 首にそれを刺し倒れ込む女の姿に恐怖のあまりそこで気を失うのであった。
 あの日失った温もり、母さんであるはずがない。
 そんなはずないと分かっていながら与えられたそれから手を離すことが出来ないのであった。





 「いきなり肉は胃にも悪いでしょうからお鍋にしましょうか。お願いしてもいいですか?」

 「いいけど……あの2人が来るまでダメだからね。目が覚めてまた縁を傷つけたら、今度こそ縁がなんて言ってもそいつ突き出すから」

 自分はかなり信用がないようだ。
 だがエルもそこばかりは譲ってはくれないようなので諦めジンたちが戻ってくるのを今か今かと待ち続けるのであった。

 「そいつどうすんの?」

 「いくつか案は考えてはいますが、まだはっきり決めてはいません」

 簡単なのは教会へ入れることだが身内がいるならばそれも難しく、だからと言って彼の言い方からして親戚に頭を下げてでも戻れというのは酷だろう。
 ならば残された可能性は親戚とは別に信頼出来る人に引き取ってもらうことなのだが……

 「急だったからそこまで細かくはないが、ある程度の人数は絞り込めたよ」

 「ありがとうございます」

 思っていたより多かったが全てが縁に賛成してくれるとは限らないため問題ないだろう。
 エルにはご飯の準備を頼むとジンたちに縁の案を話していく。

 「てっきりまたアンタの子にするのかと思ったよ」

 「私も考えはしましたがそうなると繋たちと仲良く出来るかが不安なんです。彼が望むのであれば頑張って説得してはみますが」

 今こうして縁の腕の中でぐっすり眠ってはいるが起きてしまえばきっとまた悪態をつくだろう。
 そうなれば子どもたちが黙っているとは思えない。
 ならばと他の可能性を考える。

 「彼のような境遇の子はそう少なくはないでしょう。身内にも頼れず、教会に助けも求められない。ならば新しい場所を作るしかありません」

 場所を求めているならばその場所を作り与えればいい。
 実際そう簡単なことではないが、本当にそれを求めているならば子どもたちも頑張ってくれることだろう。

 「子どもたち本人にもどうしたいか聞いてみないと分かりませんが望むのであれば叶えてあげたいです」

 店々を回り子どもたちの受け入れを頼むのもいいが、要領が悪ければ受けれ入れてもらえる可能性も低い。
 それこそ奴隷がいる中で手間もお金もかかる子どもを雇おうなどと思う人はそう多くないだろう。

 「まずは子どもたちの状況確認と意志確認ですね。体調の問題もあるので診てみないことには動けません」

 「私たちに出来ることはあるかい?」

 「よければ信頼出来る商人の方への紹介と数日子どもたちを寝泊りさせられる宿を教えてもらえると嬉しいです」

 頼んでばかりで申し訳ないが、マーガレットたちの有り難い申し出に甘えることにするのだった。
 



 
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