262 / 475
記憶
しおりを挟む
久しぶりに感じたその温もりに、起きたくないと握る手を離せなかった。
まるでいいよと言っているように優しく叩かれる背に再び眠りにつく。
まだ母さんが壊れる前、飲んだくれの父さんに日々殴られ蹴られボロボロになりながらも2人身を寄せ合うように眠り、撫でてくれるその手だけが救いであり全てだった。
「サウルももう疲れたでしょ?母さんももう疲れちゃったの。だからーー楽になりましょう?一緒に」
ある日水汲みから帰ってまず目に入ったのは赤く染まる何かを持った母さんの姿。
側に倒れるそれは父さんのようにも見えた。
だが確認する勇気などその時の自分にはなく、震える足で後ろに下がる。
「どうしたの?ああ大丈夫よ。すぐに母さんもサウルの後を追いかけるわ。怖いのは最初だけ。少し痛いけどこれで終わりよ。もう殴られることもないし、うるさいって怒鳴られこともない。サウルと2人ずっと仲良く暮らしていける」
これは………いったい誰だ?
その顔は、笑顔は母さんなのに、そう言い近寄ってくる女は自分が知る母さんではない。
どれだけ父さんに殴られようと痛みに泣こうと、決して自分をおいて逃げるようなことはしなかった。
いつも少しのご飯を2人で分け合い、時にはお前は大きくならなきゃと自分の分まで分け与えてくれた。
生きてきた。生きるために2人で助け合ってきたのだ。
だが目の前の母に似た女は明らかに自分を殺そうとしている。
「これで終わりだから。ね?サウルも一人は嫌でしょう?母さんと一緒に行きましょ?」
差し出された手は血で真っ赤に染まっており、恐怖で泣きながら首を振る。
いやだ、いやだいやだいやだ!死にたくない!
こんなの夢だ。悪い夢だと頭を振る。
「………そうなの。サウルは一緒に来てくれないのね」
俯きそう呟いたかと思えばーー
「ーーひっ」
首にそれを刺し倒れ込む女の姿に恐怖のあまりそこで気を失うのであった。
あの日失った温もり、母さんであるはずがない。
そんなはずないと分かっていながら与えられたそれから手を離すことが出来ないのであった。
「いきなり肉は胃にも悪いでしょうからお鍋にしましょうか。お願いしてもいいですか?」
「いいけど……あの2人が来るまでダメだからね。目が覚めてまた縁を傷つけたら、今度こそ縁がなんて言ってもそいつ突き出すから」
自分はかなり信用がないようだ。
だがエルもそこばかりは譲ってはくれないようなので諦めジンたちが戻ってくるのを今か今かと待ち続けるのであった。
「そいつどうすんの?」
「いくつか案は考えてはいますが、まだはっきり決めてはいません」
簡単なのは教会へ入れることだが身内がいるならばそれも難しく、だからと言って彼の言い方からして親戚に頭を下げてでも戻れというのは酷だろう。
ならば残された可能性は親戚とは別に信頼出来る人に引き取ってもらうことなのだが……
「急だったからそこまで細かくはないが、ある程度の人数は絞り込めたよ」
「ありがとうございます」
思っていたより多かったが全てが縁に賛成してくれるとは限らないため問題ないだろう。
エルにはご飯の準備を頼むとジンたちに縁の案を話していく。
「てっきりまたアンタの子にするのかと思ったよ」
「私も考えはしましたがそうなると繋たちと仲良く出来るかが不安なんです。彼が望むのであれば頑張って説得してはみますが」
今こうして縁の腕の中でぐっすり眠ってはいるが起きてしまえばきっとまた悪態をつくだろう。
そうなれば子どもたちが黙っているとは思えない。
ならばと他の可能性を考える。
「彼のような境遇の子はそう少なくはないでしょう。身内にも頼れず、教会に助けも求められない。ならば新しい場所を作るしかありません」
場所を求めているならばその場所を作り与えればいい。
実際そう簡単なことではないが、本当にそれを求めているならば子どもたちも頑張ってくれることだろう。
「子どもたち本人にもどうしたいか聞いてみないと分かりませんが望むのであれば叶えてあげたいです」
店々を回り子どもたちの受け入れを頼むのもいいが、要領が悪ければ受けれ入れてもらえる可能性も低い。
それこそ奴隷がいる中で手間もお金もかかる子どもを雇おうなどと思う人はそう多くないだろう。
「まずは子どもたちの状況確認と意志確認ですね。体調の問題もあるので診てみないことには動けません」
「私たちに出来ることはあるかい?」
「よければ信頼出来る商人の方への紹介と数日子どもたちを寝泊りさせられる宿を教えてもらえると嬉しいです」
頼んでばかりで申し訳ないが、マーガレットたちの有り難い申し出に甘えることにするのだった。
まるでいいよと言っているように優しく叩かれる背に再び眠りにつく。
まだ母さんが壊れる前、飲んだくれの父さんに日々殴られ蹴られボロボロになりながらも2人身を寄せ合うように眠り、撫でてくれるその手だけが救いであり全てだった。
「サウルももう疲れたでしょ?母さんももう疲れちゃったの。だからーー楽になりましょう?一緒に」
ある日水汲みから帰ってまず目に入ったのは赤く染まる何かを持った母さんの姿。
側に倒れるそれは父さんのようにも見えた。
だが確認する勇気などその時の自分にはなく、震える足で後ろに下がる。
「どうしたの?ああ大丈夫よ。すぐに母さんもサウルの後を追いかけるわ。怖いのは最初だけ。少し痛いけどこれで終わりよ。もう殴られることもないし、うるさいって怒鳴られこともない。サウルと2人ずっと仲良く暮らしていける」
これは………いったい誰だ?
その顔は、笑顔は母さんなのに、そう言い近寄ってくる女は自分が知る母さんではない。
どれだけ父さんに殴られようと痛みに泣こうと、決して自分をおいて逃げるようなことはしなかった。
いつも少しのご飯を2人で分け合い、時にはお前は大きくならなきゃと自分の分まで分け与えてくれた。
生きてきた。生きるために2人で助け合ってきたのだ。
だが目の前の母に似た女は明らかに自分を殺そうとしている。
「これで終わりだから。ね?サウルも一人は嫌でしょう?母さんと一緒に行きましょ?」
差し出された手は血で真っ赤に染まっており、恐怖で泣きながら首を振る。
いやだ、いやだいやだいやだ!死にたくない!
こんなの夢だ。悪い夢だと頭を振る。
「………そうなの。サウルは一緒に来てくれないのね」
俯きそう呟いたかと思えばーー
「ーーひっ」
首にそれを刺し倒れ込む女の姿に恐怖のあまりそこで気を失うのであった。
あの日失った温もり、母さんであるはずがない。
そんなはずないと分かっていながら与えられたそれから手を離すことが出来ないのであった。
「いきなり肉は胃にも悪いでしょうからお鍋にしましょうか。お願いしてもいいですか?」
「いいけど……あの2人が来るまでダメだからね。目が覚めてまた縁を傷つけたら、今度こそ縁がなんて言ってもそいつ突き出すから」
自分はかなり信用がないようだ。
だがエルもそこばかりは譲ってはくれないようなので諦めジンたちが戻ってくるのを今か今かと待ち続けるのであった。
「そいつどうすんの?」
「いくつか案は考えてはいますが、まだはっきり決めてはいません」
簡単なのは教会へ入れることだが身内がいるならばそれも難しく、だからと言って彼の言い方からして親戚に頭を下げてでも戻れというのは酷だろう。
ならば残された可能性は親戚とは別に信頼出来る人に引き取ってもらうことなのだが……
「急だったからそこまで細かくはないが、ある程度の人数は絞り込めたよ」
「ありがとうございます」
思っていたより多かったが全てが縁に賛成してくれるとは限らないため問題ないだろう。
エルにはご飯の準備を頼むとジンたちに縁の案を話していく。
「てっきりまたアンタの子にするのかと思ったよ」
「私も考えはしましたがそうなると繋たちと仲良く出来るかが不安なんです。彼が望むのであれば頑張って説得してはみますが」
今こうして縁の腕の中でぐっすり眠ってはいるが起きてしまえばきっとまた悪態をつくだろう。
そうなれば子どもたちが黙っているとは思えない。
ならばと他の可能性を考える。
「彼のような境遇の子はそう少なくはないでしょう。身内にも頼れず、教会に助けも求められない。ならば新しい場所を作るしかありません」
場所を求めているならばその場所を作り与えればいい。
実際そう簡単なことではないが、本当にそれを求めているならば子どもたちも頑張ってくれることだろう。
「子どもたち本人にもどうしたいか聞いてみないと分かりませんが望むのであれば叶えてあげたいです」
店々を回り子どもたちの受け入れを頼むのもいいが、要領が悪ければ受けれ入れてもらえる可能性も低い。
それこそ奴隷がいる中で手間もお金もかかる子どもを雇おうなどと思う人はそう多くないだろう。
「まずは子どもたちの状況確認と意志確認ですね。体調の問題もあるので診てみないことには動けません」
「私たちに出来ることはあるかい?」
「よければ信頼出来る商人の方への紹介と数日子どもたちを寝泊りさせられる宿を教えてもらえると嬉しいです」
頼んでばかりで申し訳ないが、マーガレットたちの有り難い申し出に甘えることにするのだった。
42
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる