303 / 475
逆に
しおりを挟む
「ククルさんは魚は捌けますか?」
「…………はい?」
今日も今日とて突然の訪問に驚きながらも喜んで迎え入れれば、なんとも脈絡のないエニシの質問に咄嗟に答えることが出来なかった。
彼が来ることは勿論いつでも大歓迎だが、挨拶もそこそこにそんなことを言われククルも戸惑った。
「えーと?」
「突然すいません。もしよければククルさんにお勧めしたい商品があったのでお店の方で扱ってもらえないかと思って来ました」
それはとても喜ばしい話しだがそれと先程の質問の意味が分からない。
どういうことかと聞けばそっと机に置かれたそれに釘付けになった。
「これは?私はその…武器は扱わないことにしているのですが」
少なからず揉め事が多い武器の扱いに自分は全く手は出しておらず、エニシには申し訳ないがこれからも扱う気はないと伝えれば笑って違うと首を振られた。
「これは調理器具です。食材を切る時に使うナイフを私の希望でこの形にしてもらいました。なので切れ味を見てもらおうと思って」
先程の質問はそういう意味かと理解したが出来ないと言えば、怒ることなく出来る人がいれば呼んで欲しいと言われた。
切れ味を試すだけであれば魚である必要はないのではとも思ったが、エニシが言うならば何か意味があるのだろうと従業員で2人の子を持つ女性を呼ぶと言われるがまま魚を捌いてもらう。
「何ですかこれ!?めちゃくちゃ切れる!」
「分かっていただけて良かったです。ついでと言っては何ですがその身を薄く花びらのように切ってもらうことは出来ますか?」
興奮冷めやらぬ女性にそんなにすごいのか?と疑問に思っていれば、これまた言われた通り身を薄く切っていくことに驚いた。
普通ならばこれほど薄くすれば身がボロボロになりとてもじゃないが食べることなど出来なくなる。
「ありがとうございます。ではついでに一緒にいただきましょう」
「「え?」」
はいと言って手渡された皿には見覚えがある黒い液体。
自分たちが作り上げたそれにどういうことかと聞く前に切り身を醤油に浸すとパクリと食べたエニシにその場にいた全員が驚いた。
「少し温いですけど美味しいですね」
「ケイも!」
「はいはい。ほら、エルも食べてみて」
もうどこから突っ込めばいいのか分からない。
その食べ方はどうなのかと、生で食べるなど腹を壊すのではとか、言いたいことは沢山あったが美味しいですねと食べる親子に誘われ一口食べてみた。
「ん!?」
「生で食べるには鮮度の問題がありますけど美味しいでしょ?で、コレ欲しくないですか?」
ここまでされて頷かないわけにいかない。
何より私も欲しい!と隣で肩を揺さぶってくる女性に売れないわけがないだろうと交渉を開始するのだった。
「お鍋もいくつか作ってもらったのでこちらもお願いします」
次々に出される商品にこんなに一体どうしたのかと聞かずにはいられなかった。
「私の故郷ではあったものなんです。けどこちらでは見かけないので作ってもらいました」
あっさりとそう言うエニシに、ではそこに行けばもっと良いものがあるのでは?と思ったが結局それがどこか聞くことは出来なかった。
自分もまだまだだなと反省する。
「エニシくんには一生頭が上がりませんよ」
「そうですか?私からすれば我儘を聞いてくれるククルさんにこそ頭が上がりませんが」
なんてことを言うのか。
今後の商売を考えただけで自分にどれだけの利益があるのか。
そこまでの知識ときっかけを与えてくれたエニシにはいくら感謝してもし足りない。
「自己満足で済むところを他人にも教えようとするのはすごいことです。それにエニシくんはほとんど見返りを求めないでしょう?それほどの人がどれだけいると思います?そんな貴方だから私も話しを聞きたいと思うんです」
人とは欲深い生き物だ。
それは商人である自分も、自分の周りを見ただけでも分かる。
それ自体は決して悪いことではないが、そこから私利私欲に溺れては身を滅ぼした愚かな人間を何人も見てきた。
その中には実の父の名もあったが、そんなことをエニシに言う気はさらさらない。
信頼を失うのが怖いと言うのもあるが、何よりそのことでエニシに気を使われることが嫌だったからだ。
過去の自分ではなく、今のククルという1人の商人を彼は見てくれているから。
「私も商人ですから見返りがなければまず動きません。ここで働いている者たちも給金という見返りがあるからこそ働いています。けどエニシくんにとっての見返りはほとんどが自分のためではなく他人のためです。私はそこが何より驚きでもあり信頼しているところなんです」
ナイフや鍋と言った便利な物もエニシがいなかれば生まれることはなかった。
なのに彼が見返りとして頼んできたのはそれを作る作り手の手助け。
お人好しのバカと人によっては言われるかもしれないが、逆に迷うことなくそう出来る彼だからこそ手伝いとも思う。
「これからも何かありましたらすぐにご連絡を」
自分を売り込むことも忘れないククルであった。
「…………はい?」
今日も今日とて突然の訪問に驚きながらも喜んで迎え入れれば、なんとも脈絡のないエニシの質問に咄嗟に答えることが出来なかった。
彼が来ることは勿論いつでも大歓迎だが、挨拶もそこそこにそんなことを言われククルも戸惑った。
「えーと?」
「突然すいません。もしよければククルさんにお勧めしたい商品があったのでお店の方で扱ってもらえないかと思って来ました」
それはとても喜ばしい話しだがそれと先程の質問の意味が分からない。
どういうことかと聞けばそっと机に置かれたそれに釘付けになった。
「これは?私はその…武器は扱わないことにしているのですが」
少なからず揉め事が多い武器の扱いに自分は全く手は出しておらず、エニシには申し訳ないがこれからも扱う気はないと伝えれば笑って違うと首を振られた。
「これは調理器具です。食材を切る時に使うナイフを私の希望でこの形にしてもらいました。なので切れ味を見てもらおうと思って」
先程の質問はそういう意味かと理解したが出来ないと言えば、怒ることなく出来る人がいれば呼んで欲しいと言われた。
切れ味を試すだけであれば魚である必要はないのではとも思ったが、エニシが言うならば何か意味があるのだろうと従業員で2人の子を持つ女性を呼ぶと言われるがまま魚を捌いてもらう。
「何ですかこれ!?めちゃくちゃ切れる!」
「分かっていただけて良かったです。ついでと言っては何ですがその身を薄く花びらのように切ってもらうことは出来ますか?」
興奮冷めやらぬ女性にそんなにすごいのか?と疑問に思っていれば、これまた言われた通り身を薄く切っていくことに驚いた。
普通ならばこれほど薄くすれば身がボロボロになりとてもじゃないが食べることなど出来なくなる。
「ありがとうございます。ではついでに一緒にいただきましょう」
「「え?」」
はいと言って手渡された皿には見覚えがある黒い液体。
自分たちが作り上げたそれにどういうことかと聞く前に切り身を醤油に浸すとパクリと食べたエニシにその場にいた全員が驚いた。
「少し温いですけど美味しいですね」
「ケイも!」
「はいはい。ほら、エルも食べてみて」
もうどこから突っ込めばいいのか分からない。
その食べ方はどうなのかと、生で食べるなど腹を壊すのではとか、言いたいことは沢山あったが美味しいですねと食べる親子に誘われ一口食べてみた。
「ん!?」
「生で食べるには鮮度の問題がありますけど美味しいでしょ?で、コレ欲しくないですか?」
ここまでされて頷かないわけにいかない。
何より私も欲しい!と隣で肩を揺さぶってくる女性に売れないわけがないだろうと交渉を開始するのだった。
「お鍋もいくつか作ってもらったのでこちらもお願いします」
次々に出される商品にこんなに一体どうしたのかと聞かずにはいられなかった。
「私の故郷ではあったものなんです。けどこちらでは見かけないので作ってもらいました」
あっさりとそう言うエニシに、ではそこに行けばもっと良いものがあるのでは?と思ったが結局それがどこか聞くことは出来なかった。
自分もまだまだだなと反省する。
「エニシくんには一生頭が上がりませんよ」
「そうですか?私からすれば我儘を聞いてくれるククルさんにこそ頭が上がりませんが」
なんてことを言うのか。
今後の商売を考えただけで自分にどれだけの利益があるのか。
そこまでの知識ときっかけを与えてくれたエニシにはいくら感謝してもし足りない。
「自己満足で済むところを他人にも教えようとするのはすごいことです。それにエニシくんはほとんど見返りを求めないでしょう?それほどの人がどれだけいると思います?そんな貴方だから私も話しを聞きたいと思うんです」
人とは欲深い生き物だ。
それは商人である自分も、自分の周りを見ただけでも分かる。
それ自体は決して悪いことではないが、そこから私利私欲に溺れては身を滅ぼした愚かな人間を何人も見てきた。
その中には実の父の名もあったが、そんなことをエニシに言う気はさらさらない。
信頼を失うのが怖いと言うのもあるが、何よりそのことでエニシに気を使われることが嫌だったからだ。
過去の自分ではなく、今のククルという1人の商人を彼は見てくれているから。
「私も商人ですから見返りがなければまず動きません。ここで働いている者たちも給金という見返りがあるからこそ働いています。けどエニシくんにとっての見返りはほとんどが自分のためではなく他人のためです。私はそこが何より驚きでもあり信頼しているところなんです」
ナイフや鍋と言った便利な物もエニシがいなかれば生まれることはなかった。
なのに彼が見返りとして頼んできたのはそれを作る作り手の手助け。
お人好しのバカと人によっては言われるかもしれないが、逆に迷うことなくそう出来る彼だからこそ手伝いとも思う。
「これからも何かありましたらすぐにご連絡を」
自分を売り込むことも忘れないククルであった。
42
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる