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大合唱
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「ママまだ?」
「まだだ。さっき聞いたばかりだろう?ママが帰ってくるのはあと3日後だ」
「…………はーい」
明らかに気落ちしトボトボ歩いていく娘の後ろ姿に苦笑いする。
泣いてはいないことだけが救いだが、数分置きにママはまだかと尋ねてくる繋に溜め息しか出ない。
これだけ落ち込みながらも縁に頼まれたことは全てやり終わっており、気を利かせてかアズやエルがかまってやってはいるがやはり縁であるママの存在を埋めることは難しいようだ。
「やっぱりエニシじゃないとダメみたいだね」
先程のやり取りを見ていたのか苦笑いしながら近寄ってきたエルにセインも笑う。
「繋は真たちより縁にべったりだったからな」
「真たちより甘えっ子だからなぁ。最近は身長も抜かれて拗ねてたしね」
大人からすれば可愛い悩みだが、繋は姉としての悔しさみたいなものがあるのだろう。
「遅かれ早かれ抜かれてたけどな。そこら辺はまだよく分かってないんだろ」
自身が真や愛依、パパたちと違うことは何となくは気が付いているだろうが、縁は特にはっきりと獣人と人間の違いを子どもたちに教えはしていなかった。
だからこそ真たちに出来て自分には出来ないことがあると繋は悩んではいたが、よく考えればそれは誰しもが一生に1度は考えることであり獣人も人間も関係がない。
人それぞれ性格も体格も違い、その違いに隣りの人を羨むことが時にはあるだろう。
だが結局は自分は自分でありそれを変えることは出来ず、嫌だからとやり直すことも誰かと代わることも出来ない。
「その内自覚する日がくる。けどそれをどう考え受け止めるかは繋次第だ」
「だね。けどエニシは…いや、だからか。だから繋が真たちより甘えても怒らないんだね」
縁が双子と繋へ愛情の差をつけているわけではない。
わけではないが、目に付きやすい身体的差に悩まないように、悩んだとしてもそんなこと些細なことだと思えるように縁は繋が甘えてきてもいくら忙しかろうがその手を振り払いはしなかった。
本当のところは縁に聞いてみなければ分からないが、繋と同じ人間である縁だからこそ考えた何かがきっとあるのだろう。
「まぁ泣いてないならまだ大丈夫でしょ。それより泣き喚いて煩い誰かさんの子を何とかしてよ」
「あれはなぁ……ルーに期待するしかないだろ」
朝からこれでもかと聞こえ続ける子どもの泣き声にエルと2人げんなりする。
縁が出かける時はあまりにも呆気なく手を振って別れたため、これなら大丈夫だろうと皆で安心していたのだが、それが違ったと分かったのは縁が出て行ってから数時間後のことだった。
今まで縁からご飯である魔力をもらっていた翔は、しかしご飯の時間になっても縁が現れないことに首を傾げ、更にはパパであるルーがご飯だよと魔力を与えたことにかなりの衝撃を受けていた。
卵であった時とは違い、すでに自身の足で歩ける翔は必ずしもママである縁からではなくとも魔力は受けとれる。
だからこそ縁も翔をルーに任せ双子とアレンだけを連れ出かけて行ったのだが、それを知らない翔はなぜママじゃないんだと驚くとずっと泣き続けている。
「アレに?無理でしょ。一緒に泣くがおちじゃん」
なぜかは分からないが、エルはルーに対して何かと厳しい。
「……否定はできないが頑張ってもらうしかないだろ。それかロンに頑張ってもらうか」
弟のせいか何かと人の世話を焼くのが得意なロンに頑張ってもらうかと言うが、エルはセインの言葉に首を振る。
「あまりに泣き止まないからキレて怒って更に泣かせるだけだね」
「…………」
否定は出来ない。
ロンは世話焼きではあるが、短気でもあるのだ。
「仕方ない1度みんなで見にーーあ?ちょっと待て。泣き止んでないか?」
「あれ?ホントだ」
どういうことだとエルを連れ、それまで泣き声が聞こえていた部屋に向かえばーー
「………繋すっご」
「だな」
どうしてそうなったのか、一体どうやってそう出来たのかと疑問は尽きないが、翔を抱きしめるようにしながら2人仲良くお昼寝する姿にエルと2人開いた口が塞がらなかった。
「繋がね、ねーねもママいなくてさみしいからいっしょにおひるねしようって翔に言ってくれたの」
少し疲れ顔しながらもやっと一息つけたとルーも嬉しそうだ。
ママはいないがママに似た大好きな姉に一緒に寝ようと誘われ翔は飛び付くと泣くのを止めお昼寝することにしたようだ。
「繋置いてってくれてエニシに感謝だね」
「ああ。じゃなきゃ全員寝不足確定だったな」
我が娘ながら良い仕事をしてくれた。
起きたら褒めてやらなければ。
「ってかあっさり見送ってたからおかしいとは思ってたんだよ。分かってなかったんだろ翔」
「うん。すぐ帰ってくるんだと思ってたみたい」
まぁまだ小さいからなと頷きつつ、折角大人しくなってくれたのだから起こさないようにと静かに部屋を後にするのだった。
「そういえばロンは?」
「泣いて暴れた翔に頭突きくらって倒れてる」
親子揃って兄を振り回しているようだ。
不憫に思い、部屋の隅で倒れていたのを回収するとベッドまで運んでやるのだった。
「まだだ。さっき聞いたばかりだろう?ママが帰ってくるのはあと3日後だ」
「…………はーい」
明らかに気落ちしトボトボ歩いていく娘の後ろ姿に苦笑いする。
泣いてはいないことだけが救いだが、数分置きにママはまだかと尋ねてくる繋に溜め息しか出ない。
これだけ落ち込みながらも縁に頼まれたことは全てやり終わっており、気を利かせてかアズやエルがかまってやってはいるがやはり縁であるママの存在を埋めることは難しいようだ。
「やっぱりエニシじゃないとダメみたいだね」
先程のやり取りを見ていたのか苦笑いしながら近寄ってきたエルにセインも笑う。
「繋は真たちより縁にべったりだったからな」
「真たちより甘えっ子だからなぁ。最近は身長も抜かれて拗ねてたしね」
大人からすれば可愛い悩みだが、繋は姉としての悔しさみたいなものがあるのだろう。
「遅かれ早かれ抜かれてたけどな。そこら辺はまだよく分かってないんだろ」
自身が真や愛依、パパたちと違うことは何となくは気が付いているだろうが、縁は特にはっきりと獣人と人間の違いを子どもたちに教えはしていなかった。
だからこそ真たちに出来て自分には出来ないことがあると繋は悩んではいたが、よく考えればそれは誰しもが一生に1度は考えることであり獣人も人間も関係がない。
人それぞれ性格も体格も違い、その違いに隣りの人を羨むことが時にはあるだろう。
だが結局は自分は自分でありそれを変えることは出来ず、嫌だからとやり直すことも誰かと代わることも出来ない。
「その内自覚する日がくる。けどそれをどう考え受け止めるかは繋次第だ」
「だね。けどエニシは…いや、だからか。だから繋が真たちより甘えても怒らないんだね」
縁が双子と繋へ愛情の差をつけているわけではない。
わけではないが、目に付きやすい身体的差に悩まないように、悩んだとしてもそんなこと些細なことだと思えるように縁は繋が甘えてきてもいくら忙しかろうがその手を振り払いはしなかった。
本当のところは縁に聞いてみなければ分からないが、繋と同じ人間である縁だからこそ考えた何かがきっとあるのだろう。
「まぁ泣いてないならまだ大丈夫でしょ。それより泣き喚いて煩い誰かさんの子を何とかしてよ」
「あれはなぁ……ルーに期待するしかないだろ」
朝からこれでもかと聞こえ続ける子どもの泣き声にエルと2人げんなりする。
縁が出かける時はあまりにも呆気なく手を振って別れたため、これなら大丈夫だろうと皆で安心していたのだが、それが違ったと分かったのは縁が出て行ってから数時間後のことだった。
今まで縁からご飯である魔力をもらっていた翔は、しかしご飯の時間になっても縁が現れないことに首を傾げ、更にはパパであるルーがご飯だよと魔力を与えたことにかなりの衝撃を受けていた。
卵であった時とは違い、すでに自身の足で歩ける翔は必ずしもママである縁からではなくとも魔力は受けとれる。
だからこそ縁も翔をルーに任せ双子とアレンだけを連れ出かけて行ったのだが、それを知らない翔はなぜママじゃないんだと驚くとずっと泣き続けている。
「アレに?無理でしょ。一緒に泣くがおちじゃん」
なぜかは分からないが、エルはルーに対して何かと厳しい。
「……否定はできないが頑張ってもらうしかないだろ。それかロンに頑張ってもらうか」
弟のせいか何かと人の世話を焼くのが得意なロンに頑張ってもらうかと言うが、エルはセインの言葉に首を振る。
「あまりに泣き止まないからキレて怒って更に泣かせるだけだね」
「…………」
否定は出来ない。
ロンは世話焼きではあるが、短気でもあるのだ。
「仕方ない1度みんなで見にーーあ?ちょっと待て。泣き止んでないか?」
「あれ?ホントだ」
どういうことだとエルを連れ、それまで泣き声が聞こえていた部屋に向かえばーー
「………繋すっご」
「だな」
どうしてそうなったのか、一体どうやってそう出来たのかと疑問は尽きないが、翔を抱きしめるようにしながら2人仲良くお昼寝する姿にエルと2人開いた口が塞がらなかった。
「繋がね、ねーねもママいなくてさみしいからいっしょにおひるねしようって翔に言ってくれたの」
少し疲れ顔しながらもやっと一息つけたとルーも嬉しそうだ。
ママはいないがママに似た大好きな姉に一緒に寝ようと誘われ翔は飛び付くと泣くのを止めお昼寝することにしたようだ。
「繋置いてってくれてエニシに感謝だね」
「ああ。じゃなきゃ全員寝不足確定だったな」
我が娘ながら良い仕事をしてくれた。
起きたら褒めてやらなければ。
「ってかあっさり見送ってたからおかしいとは思ってたんだよ。分かってなかったんだろ翔」
「うん。すぐ帰ってくるんだと思ってたみたい」
まぁまだ小さいからなと頷きつつ、折角大人しくなってくれたのだから起こさないようにと静かに部屋を後にするのだった。
「そういえばロンは?」
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