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葛藤
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「何を悩んでおる?」
ふと背後からかけられた声に俯いていた顔を上げる。
振り向けばいつもの可愛らしい子犬姿のリルがこちらへ歩いてくるのが見えた。
「まだ起きるには早い時間だろう。空気も冷たい」
そうまだ早い。というより夜中だ。
だが目が冴えてしまい、ならばと玲を抱えて庭に出ると以前作ったブランコに腰掛けていたのだ。
「昼間に我が言ったことを考えていたのか?」
にこりと笑うと答えることはせず近くに呼び寄せる。
「リル、寒いです。大っきくなって?」
「………だからそう言っておるだろうが。仕方ない」
過保護なフェンリルは呆れながらも元の大きさに戻ると地面に座る縁を包み込むように横になった。
「温かいです。ありがとう」
「其方はそう強くはないのだから気を付けろ」
獣人である番たちに比べれば確かに弱くはあるがそこまでだろうか?
「………リルは……私の従魔になったこと…後悔してませんか?」
聞くのは怖かったが、聞かずにはいられなかった。
不安から自然声は小さくなってしまったが、リルにはちゃんと聴こえていたらしく数秒の沈黙と大きな溜め息にビクリとする。
「確かに我も感情を伝えるということが得意ではないが、それを抜きにしても其方は心配し過ぎだ。我は我の意志で今ここにおるのだ」
想像してしまった答えとは違い、優しく温かい言葉に目蓋が熱くなる。
隠すようにリルのふわふわな毛に顔を埋めた。
「従魔になったことで我を縛り付けていると不安になっているならばそれは意味のないことだ。確かに昔ほどの自由はないかもしれないがそれ以上のものを我は其方からもらっている」
「それ以上?」
自分は彼に何を与えられているだろうか?……ご飯、とか?
「ははははっ、分からんか?そうだな。其方はそこら辺が鈍い。鈍過ぎる。だからこそ不安で仕方がないのだろう」
………鈍い、のだろうか?
「漲るほどの魔力。温かい美味しい料理。帰る家に、何より我を家族と言い抱きしめてくれる其方の心。全て其方が教え与えてくれたものだ」
「そんなこーー」
「とだと其方は言いたいのだろうがそれは誰しもが出来ることではない。だからこそ今までの自由を捨てでも我は其方の側におるのだ」
リルが言いたいことは何となく分かりはするのだが本当にそうなのだろうかと不安から疑ってしまう。
元々は誰にも縛られず、自由の中で生きてきた彼にとって縁との生活は不自由でしかないのではないか?嫌になってしまっていないのだろうかと心が落ち着かない。
「確かに先程自由がないとは言いはしたがそれも正しくは違うだろう。其方は我に願いはしても命令はしない。側を離れることに心配はしても怒りも咎めもしない。はっきり言って我は自分が従魔であるということを時々忘れるほどだ」
「だって……リルは家族だから」
従魔という方法をとりはしたがそれはそうでもしないと危険だからと心配したエルに納得してもらうためだった。
初めから縁にはリルを従えるという考えはなかったのだ。
「そうだ。其方はそう言うだろう。だがそう考えること自体普通では有り得ないことなのだ。それはその言葉に現れている通り従えるために契約し、その相手を縛りつける、それが従魔だ。どうだ?其方には当て嵌まりはしないだろう?」
確かにそれが正しい従魔というものならば自分は違っているのだろう。
頷く縁にリルも笑ってそうだろうと頷いている。
「だからこそ我は今も其方の側にいるのだ。確かに従魔の契約というものは強固だ。だが我ほどの力を持ち得る者ならばそれを打ち破ることも不可能ではない。それは其方の子であるあの子もな」
「……………」
それは昼間リルに聞いたスノーのこと。
リルやルー、ロンのようにスノーも身体の形や大きさを変えたり話すことが出来るようになる方法はないのかと尋ねたのだ。
「我のように契約すればいい。従魔として契約さえすれば身体の大きさを変えることも話すことも出来るようになる」
そう言われ、だが我が子として育ててきた子を従魔とすることに躊躇いが生まれた。そして不安になった。
従魔の契約とはまるで犬猫の首輪のようではないかと。
「スノーに聞いたんです。それなら、その方法なら話すことも一緒に外を見て回ることも出来ると」
「そうか。で?」
「笑って頷いてくれました。いつものように嬉しいというように擦り寄って来てくれて………でも……本当にそれでいいのかって…不安になって。今のままでもいいんじゃないかって……分からなくなって……」
スノーには幸せになって欲しい。
それはスノーの親との約束でもあり、縁が心から願っていることでもある。
スノーにとっての幸せは一体何なのか?どうすれば幸せにしてあげることが出来るのか?考えれば考えるほど分からなくなった。
本当は森に返してあげた方がいいのではと考えもし、だが心ない人間たちに襲われ傷付けられはしないかと考える。
「………こんなことを言っていいか分からぬが、人の一生など我らの長い一生と比べればほんの一瞬の出来事だ。契約主が死ねば契約も消えてなくなる。ならばその一瞬を契約とは言え大切な家族と話し過ごすことはとても幸せなことだと我は思うぞ」
大切な家族。
家族として、母としてスノーにしてやれることを考えるのだった。
ふと背後からかけられた声に俯いていた顔を上げる。
振り向けばいつもの可愛らしい子犬姿のリルがこちらへ歩いてくるのが見えた。
「まだ起きるには早い時間だろう。空気も冷たい」
そうまだ早い。というより夜中だ。
だが目が冴えてしまい、ならばと玲を抱えて庭に出ると以前作ったブランコに腰掛けていたのだ。
「昼間に我が言ったことを考えていたのか?」
にこりと笑うと答えることはせず近くに呼び寄せる。
「リル、寒いです。大っきくなって?」
「………だからそう言っておるだろうが。仕方ない」
過保護なフェンリルは呆れながらも元の大きさに戻ると地面に座る縁を包み込むように横になった。
「温かいです。ありがとう」
「其方はそう強くはないのだから気を付けろ」
獣人である番たちに比べれば確かに弱くはあるがそこまでだろうか?
「………リルは……私の従魔になったこと…後悔してませんか?」
聞くのは怖かったが、聞かずにはいられなかった。
不安から自然声は小さくなってしまったが、リルにはちゃんと聴こえていたらしく数秒の沈黙と大きな溜め息にビクリとする。
「確かに我も感情を伝えるということが得意ではないが、それを抜きにしても其方は心配し過ぎだ。我は我の意志で今ここにおるのだ」
想像してしまった答えとは違い、優しく温かい言葉に目蓋が熱くなる。
隠すようにリルのふわふわな毛に顔を埋めた。
「従魔になったことで我を縛り付けていると不安になっているならばそれは意味のないことだ。確かに昔ほどの自由はないかもしれないがそれ以上のものを我は其方からもらっている」
「それ以上?」
自分は彼に何を与えられているだろうか?……ご飯、とか?
「ははははっ、分からんか?そうだな。其方はそこら辺が鈍い。鈍過ぎる。だからこそ不安で仕方がないのだろう」
………鈍い、のだろうか?
「漲るほどの魔力。温かい美味しい料理。帰る家に、何より我を家族と言い抱きしめてくれる其方の心。全て其方が教え与えてくれたものだ」
「そんなこーー」
「とだと其方は言いたいのだろうがそれは誰しもが出来ることではない。だからこそ今までの自由を捨てでも我は其方の側におるのだ」
リルが言いたいことは何となく分かりはするのだが本当にそうなのだろうかと不安から疑ってしまう。
元々は誰にも縛られず、自由の中で生きてきた彼にとって縁との生活は不自由でしかないのではないか?嫌になってしまっていないのだろうかと心が落ち着かない。
「確かに先程自由がないとは言いはしたがそれも正しくは違うだろう。其方は我に願いはしても命令はしない。側を離れることに心配はしても怒りも咎めもしない。はっきり言って我は自分が従魔であるということを時々忘れるほどだ」
「だって……リルは家族だから」
従魔という方法をとりはしたがそれはそうでもしないと危険だからと心配したエルに納得してもらうためだった。
初めから縁にはリルを従えるという考えはなかったのだ。
「そうだ。其方はそう言うだろう。だがそう考えること自体普通では有り得ないことなのだ。それはその言葉に現れている通り従えるために契約し、その相手を縛りつける、それが従魔だ。どうだ?其方には当て嵌まりはしないだろう?」
確かにそれが正しい従魔というものならば自分は違っているのだろう。
頷く縁にリルも笑ってそうだろうと頷いている。
「だからこそ我は今も其方の側にいるのだ。確かに従魔の契約というものは強固だ。だが我ほどの力を持ち得る者ならばそれを打ち破ることも不可能ではない。それは其方の子であるあの子もな」
「……………」
それは昼間リルに聞いたスノーのこと。
リルやルー、ロンのようにスノーも身体の形や大きさを変えたり話すことが出来るようになる方法はないのかと尋ねたのだ。
「我のように契約すればいい。従魔として契約さえすれば身体の大きさを変えることも話すことも出来るようになる」
そう言われ、だが我が子として育ててきた子を従魔とすることに躊躇いが生まれた。そして不安になった。
従魔の契約とはまるで犬猫の首輪のようではないかと。
「スノーに聞いたんです。それなら、その方法なら話すことも一緒に外を見て回ることも出来ると」
「そうか。で?」
「笑って頷いてくれました。いつものように嬉しいというように擦り寄って来てくれて………でも……本当にそれでいいのかって…不安になって。今のままでもいいんじゃないかって……分からなくなって……」
スノーには幸せになって欲しい。
それはスノーの親との約束でもあり、縁が心から願っていることでもある。
スノーにとっての幸せは一体何なのか?どうすれば幸せにしてあげることが出来るのか?考えれば考えるほど分からなくなった。
本当は森に返してあげた方がいいのではと考えもし、だが心ない人間たちに襲われ傷付けられはしないかと考える。
「………こんなことを言っていいか分からぬが、人の一生など我らの長い一生と比べればほんの一瞬の出来事だ。契約主が死ねば契約も消えてなくなる。ならばその一瞬を契約とは言え大切な家族と話し過ごすことはとても幸せなことだと我は思うぞ」
大切な家族。
家族として、母としてスノーにしてやれることを考えるのだった。
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