二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
453 / 475

手を繋いで

しおりを挟む
 そろそろ時間だと知らせてくれたマーガレットに頷くと、母親に抱きつき泣く少女に近寄っていく。
 
 「ヨナちゃん……」

 「っ、~~~っ」

 何を言われるのか察したのかイヤだと首を振る少女の頭を優しく撫でてやる。

 「寂しい、ですよね。一緒にいたいですよね」

 縁とて叶うならば一緒にいさせてやりたい。
 だが無理なのだ。彼女は生きているのだから。

 「きっとママたちもヨナちゃんと離れるのは寂しいと思います。けど……けど、たくさん頑張ったママたちをもう寝かせてあげましょう?」

 犯人はまだ分からないが、男たちに暴行され死ぬまでどれだけ痛く苦しかったことだろう。
 早く死んで楽になりたいと思ったかもしれない。

 「たくさん頑張ったパパもママも、お姉ちゃんもきっとすごく疲れているだろうからもう寝かせてあげましょう?」

 「…………」

 レイプなど人として最低な行いによって精神的を病んでしまった子もいると聞いたことがある。
 死にたいほどの苦痛に晒され、おかしくならない方がおかしいのだ。
 だからこそもう全て終わったのだと寝かせてやりたい。
 全ての苦痛はもう終わったのだと見送ってやりたい。

 「寂しいですね。でももう一緒にいることは出来ないから……お爺ちゃん」

 「ああ、用意してあるよ。言われた通り作ってみたけどこれでよかったかい?」

 差し出されたのは事前に作って欲しいとジンに頼んでおいた小さな袋。
 御守り袋のように小さな物で、首から下げられるよう紐も付けてもらった。
 礼を言い受け取ると、少女の首にかけてやる。
 何なのだと見上げてるくる瞳に微笑むと、申し訳ないが眠る3人の髪を一房ずつ切り落とした。
 それを紙に丁寧に包み少女にかけてやったばかりの袋に入れてやる。

 「みんなの代わりに。側にはいられませんけど……、ずっとヨナちゃんと一緒にいてくれます」

 涙や鼻水でぐしゃぐしゃな顔で袋を摑むと唇を震わせる。

 「だから、さよならしましょう?みんなを寝かせてあげましょう」

 時間だと告げるマーガレットに頷くと、少女の頬をそっと包み込む。

 「みんなにおやすみなさいはできますか?」

 「………っ」

 涙を流しながらも小さく頷いた少女に微笑むと、手を離す。
 全身を震わせ、それでもおやすみなさいと言うように家族1人1人の頬にキスをする少女を静かに見守る。
 そして悲しみを振り切るように駆け寄ってきた少女を抱き上げると、褒めるように頭を撫でてやった。

 「お願いします」

 縁の言葉によってマーガレットが火を投げ込む。
 ビクリと大きく揺れた少女の肩を撫でてやりながら燃え上がる炎を見つめる。
 同じ火葬とはいえ日本とは違い燃えていく瞬間を側でじっと眺めながら、人とはこうも儚いものなんだなと改めて感じ悲しくなる。

 「忘れないで、みんなと笑って過ごした毎日を。忘れないで、みんながヨナちゃんのことをどれだけ大好きだったかを。忘れないで
………姿は見えなくてもみんなが側にいてくれているということを」

 見えないからといって全てが消えて無くなったわけではない。
 目に見えなくとも彼女を想い育ててきた家族との日々は消えるものではなく、共に笑った思い出も消えはしない。
 だから忘れないでと少女の耳元で囁けば小さく頷いてくれた。
 
 「…………お疲れ様でした。ゆっくりお休み下さい」

 炎に包まれ黒く染まっていくのを頭を下げ見送ると、後はマーガレットたちに任せ少女を抱えたままギルドに戻るのだった。

 「……………」

 散々泣いて疲れたのだろう、目元を真っ赤にし眠る姿に本当にこれで良かったのだろうかと一瞬心が揺れた。
 何が正解だったかは分からないが、縁のこの行動によって少女の心は壊れ立ち直ることも出来なくなっていたらと不安になった。 
 離れたくないと抱き付いて離れない少女をそのままに、自身の両親は今どうしているかと考える。

 「天国……なんて信じてませんよ」

 地獄に行っているかもしれないというわけではなく、天国も地獄なんてものが本当にあるだなんて思ってない。
 なぜか?
 そんなものあるなら自分はとっくの間に両親に再会出来ているはずだから。

 「それとも、今の私という存在が異質なんですかね?」

 こうして新しい生を与えられたのもかなり特殊な状況だろう。
 本来なら有り得ないことだが、そのおかげで今自分は家族という幸せを手に入れることが出来た。
 だが時々ふと考える時がある。
 あの時死んだままだったら?もしかしたら両親に再び会えたのだろうか?
 もしなんて言ったところでどうしようもないと分かってはいても、もう一度、もう一目でいいから会いたいと思ってしまう。

 「でも………」

 そんなこと出来るはずないと分かっているから、今与えられた幸せを何より大切にしたい。

 「幸せなんて人それぞれですからね。あの2人ならどこへ行っても、なんだかんだで楽しんでそうです」

 ほら早く!と父の手を引く母の姿が目に浮かぶ。
 ならば自分も誰より幸せになってやらなければ。

 「ヨナちゃんも幸せを見つけられるといいですね」

 今すぐには無理でも、いつかきっと彼女にとっての幸せを見つけてほしいと願うのだった。
 
 



 

しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

処理中です...