異世界ハーレムに入るのがオレって聞いてない

No.26

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「やったー! マジで宮廷画家になっちゃった!」

 王城の敷地内の芝にごろごろと寝転がり、三回転半した後。雲ひとつない青い空を見上げる。
 そこには、薄っすらと桃色がかった月が浮かんでいた。

『――まずセキさんを、アルコステラの中のヴェルメーリという国に送るわ。そこで、女神のお告げその一。国についたら、国王にこの絵を見せて。彼は宮廷画家を欲しがっているから、迎え入れてくれるはずよ』

 桃月郷で絵を描き上げた後、フラルーナはそう教えてくれた。そして言うとおりにして、少し前の事態に至る。
 さっきの城も人の恰好も、まるで昔のイタリアみたいなんだけど、空を見るとこの『桃色の月』だ。
 この月を見ると、ここは本当に地球じゃないんだってハッとする。

 この星――アルコステラの常識については、絵を描いている間にフラルーナからだいたい教わった。
 アルコステラの大陸は、三日月みたいな形をした、縦に長いのが一つだけ。そこに五つの国が縦に並んである。
 このヴェルメーリはちょうど真ん中。気候は日本の関東くらいらしい。四季はあって、今は春。
 言語は世界共通だけど、文化は国によって様々で、このヴェルメーリはイタリアによく似ていた。

 あと、転生したといっても、オレの身体は目と髪の色以外はマジでそのままだった。
 髪だって、染めてた色をそのまま地毛にしてくれただけだ。
 それは普通に嬉しいんだけど、目は何でピンク色っぽくされたのかはわからない。
 けど、0歳からやり直すメリットが思い浮かばないし、身体が別人になったら絵の技術や手癖諸々がリセットされそうだし、この選択は正解だと思う。まあ、不細工ではないと自負しているし。

「にしても、宮廷画家かあ……」

 言われた言葉を繰り返して、にやにやする。
 元々宗教画って、雑に言えば“宗教萌えの二次創作”のようなものだ。
 このまま、フラルーナの絵をいっぱい描くように頼まれないかなあ。好きなものだけ描いて食っていける世界なんて、最高じゃん。天職じゃん。

「ついでに超一流画家として名を馳せて、女の子にめちゃくちゃちやほやされてハーレムになったりしないかなあーフフフ」
「おい、そこの小僧!」

 ニヤニヤしていたそのとき。高い声が上から降ってきた。
 起き上がると、そこには女の子が一人、腕を組み仁王立ちしていた。
 動きやすそうな服に、セーラー服みたいな襟の赤色のマント。くるくるした赤い髪を、お団子つきのサイドテールにしている。
 つり目で、なんとなく猫っぽい印象の華奢な女の子だ。可愛い。顔面偏差値めちゃくちゃ高い。
 しかし、その紫の瞳がオレを見ていることに気づき、慌てて聞き返した。

「は?! 小僧?! オレ?!」
「他に誰がいる? ほら、さっさと立て!」
「は、はい! ……って!!!」

 気押されて思わず立ち上がったけど、ハッとして反論した。

「ちょちょちょい待て! キミいくつだよ?! オレより年下だよね?!」
「私は十七歳だ。オマエより年上だろう?」
「オレ十九だけど?!」

 すぐさま言い返す。
 女の子は目を見開いた。
 間。

「……まあ、年齢は関係ない。私の方が先輩だ」
「いやいやいくつだと思ってたのか教えてよ! 凹み方に差が出るから!!」
「うるさーい! とにかく新入りの画家とやら、さっさと来るのだ! 国王様がお呼びである!」
「え? 一体何の話……って待ってよ!!」

 そう言って女の子はマントを翻して歩き始めたので、慌ててあとを追った。
 どうやらこの子も、お城の人らしい。
 女の子に追いつき、横に並んでから、聞いた。

「キミも画家なの?」
「違う。私はヴェルメーリ王国騎士団第三部隊副隊長、ロゼ・アメーリア」

 ロゼはオレを見上げ、はっきりとそう言った。
 見上げる、と言っても、身長差はあまりないけど。いや別にロゼが特別高いわけじゃないんだけどね。……まあそこは察しろ。
 今更、転生するなら身長十センチくらい伸ばしてもらえればよかったなと後悔した。

「ロゼちゃんね、把握~。けど、騎士団に入ってるの? 女の子なのに?」

 聞き返した、その瞬間。オレの目の前に鋭い何かがあった。
 それは日差しを反射してギラリと光る、銀色の――

「……うわああっっ?!?!」

 ロゼが向けたレイピアの先端だと気がつき、慌てて後ずさった。
 3メートルほど離れて、一息ついてから、ロゼを見た。

「なんだよいきなり!? 物騒だな!!!」
「次それを口にしたら、お前の命はないと思え」

 低い声で、そう放たれる。とんでもない殺気を感じた。
 ロゼはそれだけ言って、レイピアを仕舞い、城に向かって歩き出した。
 な、なに? どれが気に障ったの? 騎士団イコール男、って勝手に決めつけたから?
 いや、待てよ、若しくは……。
 思い当たる節があり、ロゼに向かって駆けながら言った。

「ごめん! ロゼって、女の子じゃなくて男だった? 言われてみれば確かに胸とか真っ平らで」

 言い終わる前に、顔面に回し蹴りが飛んできた。


 ◇◇◇


「セキ君、早速だが……って、その顔は一体どうしたのかね?!」
「なんれもありまへん」

 鼻血が止まらないオレに、国王が仰天して声を上げた。

「セキ様なら、先ほど一人で無様に転びました」

 ロゼは涼しい顔でそう告げる。む、ムカつく……いやオレの自業自得だけど。

「そ、そうなのかい……? ともかく案内ありがとう、アメーリア君。しかしもう一つ頼みたいことがあるから、まだここに残ってくれ」
「承知いたしました」

 ロゼはこくりと頷き、部屋の端に寄った。
 国王はオレに視線を戻し、

「それで、本題であるが……セキ君には、この城の三階にあるアトリエを使ってもらおうと考えている」

 国王は、従者がクッションの上に乗せて持ってきた金色の鍵を手に取り、にこやかに言葉を続ける。

「しかし、そこを最後に使われたのが三年前なのだ。仕事を頼む前に先に備品を確認してもらって、補充の手配をした方がいいと考えている」
「了解れす」

 確かに、そうしてもらえるとありがたい。三年放置されているなら、画材が使えるか怪しいし。
 そう鼻から血を流しながら思っていると、国王は心配そうにオレを見た。

「しかし、顔、本当に大丈夫かい……? 先に医務室へ案内させようか?」
「そうひてもらえると、嬉ひいれす」



 医務室の優しいおばちゃんに止血してもらった後、優しくないロゼに案内されて、三階のアトリエを見せてもらった。
 この世界は、まだチューブの絵の具なんてものは開発されていないらしい。油彩用の道具が乾いて全然使い物にならないことがわかったから、いろいろと必要なものをピックアップした。
 ロゼは、オレが画材や絵に詳しいことがわかって、ただの失礼なチビではないことをようやくわかってくれたらしい。

 そうして、大方備品の注文が終わり、お掃除係さんにアトリエの掃除を任せた後、ロゼの案内で王城をまわることになった。

 三階にはアトリエの他に、宮廷楽団や劇団の練習室がある。
 つまりは、三階には芸術系の職業の人たちの部屋が集まっているみたい。
 防音にはなっているらしいが、ドアの近くを歩くと管楽器の音が少し聞こえた。あと、廊下で大晦日歌番組のラスボスみたいなドレス着た人とすれ違った。どんな劇なんだろうな。

「次は、王立研究所の方へ案内する」

 王族の住居や騎士団の拠点などは、別棟にある。その王立研究所というのも城の外にあるそうだ。
 ロゼについて、城の外に出る。夕方になってきたようで、空はオレンジ色に染まっていた。
 そこでふと、気になっていることを尋ねた。

「ロゼは、オレにつきっきりで大丈夫なの? 騎士の任務とかないの?」
「その任務が、セキの案内だ。私だって好きでお前についているわけじゃない」

 なんだ、仕事か。けどこんなかわいい子に護ってもらえてラッキー。
 騎士って言ったら大体ムキムキのおっさんとかなのに、このラノベ展開。これはこのままロゼがオレのヒロインになるフラグだなきっと!!!
 ロゼは廊下を姿勢良く歩きながら、真面目な表情で話を続けた。

「私の属する第三部隊は、城の客人のもてなしおよび監視する役目を負っている。客人が変な動きを見せたら、手足を縛って獄守に引き渡す判断も任されている」

 ロゼの前ではおとなしくしようと心に誓った。

「じゃあ、他の部隊はまた違うの?」
「ああ。第一部隊は国王様や王城の護衛、第二部隊は城下の治安の維持に務めている」

 つまり現代風に言えば、第一が城のガードマンで、第二が警察か。

「場合によっては、担当の仕事の他に、遠征に抜擢されるときもある。例えば、田舎で住民の手に負えない獣が出たとか……王国の決まりで、武器の所持を許可されているのは、我々騎士のみだからな」

 ロゼはそう言って、腰に下げたレイピアに触れた。

「セキの出身地も、いのししに畑を荒らされたりして、騎士団へ通報しなかったか? 察するに、セキは相当なド田舎から来たのだろう?」
「う~ん、オレの村、平和だったからな~」

 適当に答えて、ごまかした。
 東京区内にいのししが出るような畑はないよ。たぬきはわりと出るけど。



「ここが王立研究所だ」

 ロゼは、目の前のドーム状の建物を指さして言った。
 白い壁の、二階建ての頑丈そうな建物だ。窓は閉め切っている。

 そのドームの入り口の扉の前で、何やら人が話しているのが見えた。女性が三人と、ロゼと同じマントを羽織った男が一人。
 女性は全員、焦げ茶の丈の長いワンピースに白いエプロンをかけていた。たぶんメイドさんだ。ここに来るまでもそれっぽい人が同じ格好をしているの、よく見かけたし。

「なんかメイドさんがいるけど、メイドさんたちもここで研究してるの?」
「いや、そんなはずはないと思うけれど……」

 ロゼの声に、メイドさんの中で一番背の高い人がこちらを振り返った。
 長い金色の髪の美人だ。おっとりした雰囲気をしている。

「あら、ロゼさん」
「メイド長。何かあったのか?」

 メイド長、と呼ばれた女性は、にこやかにロゼに言った。

「またまた。ロゼさんも、ルイ様に会いに来たのでしょう?」
「ルイ様? 誰だそれは」
「あら、まだ聞いていませんこと? 王城内で噂になってるの!」

 首を傾げたロゼに、他の二人の、オレと同い年くらいの若いメイドが身を乗り出して、熱く語り始めた。

「この国最難関と言われるあの王立研究所の入所試験を、史上初の満点で合格した方よ!」
「つまり超エリート! 素敵!」
「しかも容姿端麗な方なのですって!」
「だからひと目見たくって、仕事の合間に来ちゃった」

 ねー! と同調するメイド三人。他学科のイケメン見に来た女子大生のノリに似てる。
 メイドたちは、扉の前に立つ男と向き合った。

「ねえお願い騎士様、入れてくださらない?」
「駄目だ駄目だ、何度も言っているだろう! ここは関係者以外立入禁止だ!」

 三十代前後のその男は、しっしと手で払いのける動作をする。
 この人も騎士なのか。さっきロゼが言ってた、第一部隊のメンバーかな? 守備の人だから。
 頑なに動かない騎士に、メイドたちはいっせいに不満の声をあげた。

「えー、けちー」
「少しぐらいいいじゃないの」
「だからこの歳でも結婚できないのよ」
「それは関係ないだろう! ……はあ、第三副長、なんとかしてください」

 疲れ切った顔で、騎士はロゼに助けを求めた。
 ロゼも困ったように、口ごもる。

「ううん、そう言われても……」
「さっきから騒がしいな、何かあったのか?」

 そんなとき、扉が開き、一人の青年が出てきた。

 少し跳ねた黒髪。きりっとした目は、水色の瞳。白衣のような服から覗く腕は白く、背は高い。
 全体的にクールな雰囲気。歳はオレとそう変わらなさそうなのだが。

(かっこいい! 雑誌のモデルみたい)

 同性でも、思わず感心してしまう。顔良し、スタイル良し。イケメン……というか美人で、絵のモデルにさせてもらいたいくらいだった。
 彼を見て、メイドたちはきゃーっ! と黄色い声をあげた。

「貴方がルイ様ね!」
「城のメイドです。差し入れを持ってきましたわ!」
「よかったらお食べになって!」

 そう言って、メイド長が代表して、可愛いバスケットを渡した。
 ルイというその青年は、バスケットをちらりと見て、

「はあ……じゃあ所長に渡しておきます」

 それだけ言って、真顔で受けとった。
 拍子抜けるメイドたちに、ルイは首を傾げた。

「用はそれだけですか?」
「えっと……」

 メイドたちは、顔を見合わせる。
 ルイはちょっとため息をつき、

「そうですか。じゃあ帰ってださい。忙しいんで」

 そう言って、バタンと扉を閉めた。
 ………………沈黙。

「……うーん、頭と見た目は良くても、性格まで良いとは限らないわよねー」
「研究者に多いわよね、ああいう淡白なお方」

 メイドたちは勝手なことを言って、早々にその場を去っていった。
 騎士の男は、安堵した顔で持ち場につく。しかし残されたオレは、不平不満でいっぱいだ。

「なにあのルイってヤツ、態度悪!」

 好意を寄せられてるのに、あんなに冷たい態度取るなんて、あり得ない!
オレだったらもっと歓迎するし、絶対突き放したりしないのに。

「ちょっと背が高くて、イケメンで、あと背が高いからって調子に乗りやがって! なあ?」

 同意を求めるように、ロゼを振り返る。
 しかしロゼは扉を見つめて、目を輝かせていた。

「かっこいい……」
「……ロゼ?」
「はっ! ……なんでもない。次の場所へ向かうぞ」

 いやいやいや、今かっこいいって言ってたよね?! いや、あのルイって人がかっこいいことは認めるけど……!!

「ちょっと、ロゼ~! オレのヒロインじゃなかったの~?!」

 思わずそう叫びながら、さくさくと芝生を歩いていくロゼの背中を追いかけた。



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