アオソラ診察室

No.26

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episode3 それはきっと依存症

02

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 そう言って手を振ると、宙はこちらに気付いて、テーブルに寄ってきた。
「わー!君が宙くん?!」
 兄貴はそう言って、宙に笑顔と手を向ける。
「ボクが、蒼の兄の翠(みどり)です!」
 すると宙は、驚いた顔をして、おずおずと兄貴の手を取った。
「え、蒼のお兄さん?! すごくかっこいい……!」
 ……は?
 一方の兄貴は、ニヤニヤしながら、
「いやあ、それはわかってるけど、改めて言われると照れるなあ! ていうか宙くん、本当にかわいいね? 肌めっちゃ綺麗!」
 ……は?
 そうして二人は握手をする。
 宙は照れ笑いを浮かべ、
「いや、そんなことないです……というか、あの、翠さんの服、もしかしてギャラクシーのですか?」
「え? そうだよ! 宙くんもギャラクシー好きなの?」
「好きですよ! よく行ってるんです! オレその紫の方買おうかなって悩んでたんですよ」
「あーっ、紫もいいよね! ボクもめちゃくちゃ迷ったんだよ~! てか、宙くんのその服めっちゃ可愛くない? ブランドどこ?」
 二人は俺を蚊帳の外に置いて、楽しそうに会話を続ける。
 呆然としていたが、まだ宙が何も注文していなかったことに気がついて、話の途中で宙に聞いた。
「俺、宙の飲み物買ってくるよ。何がいい?」
 そう聞くと、宙は初めて俺の方を振り返って、
「え、いいの? じゃあキャラメルマキアートがいい」
「へえ、宙くん、随分可愛いの頼むね?」
 兄貴はニヤッと笑って、そうからかう。
 宙は照れたようにほおをかき、
「翠さん、可愛いって言い過ぎですよ」
 ………………。
 何となく疎外感を感じながら、カウンターの方へ向かった。

 ドリンクを買って戻ってくると、宙は俺がいた席の隣に座っていて、兄貴とまだ楽しそうに服の話を続けていた。
 俺が宙の前にドリンクを置くと、宙は俺の方を見て「あっ、ありがと」と微笑む。
 俺も元の席に着くと、兄貴はニヤニヤしながら、
「ねえ宙くん、蒼のどこが好きになったの?」
 うちの兄は一体なんてことを聞いてるんだ。けどそれは俺も気になるな。
 宙は、ドリンクを飲もうとした手を止めて、俺のことをちらちら見ながら、
「え、えっと……性格、かなあ?」
「へえ、性格?」
「優しいとことか、真面目なとこ、とか……ていうか、蒼の前で話すの恥ずかしいからやめてよ!」
「あはは、ごめんごめん!!」
 宙はそこまで言って、そう兄貴に語気を強める。兄貴はへらへら笑っていた。
 ……いつの間にタメ口を聞く仲になったんだ?
 そう思っていると、兄貴が俺の方を見て、ニヤーっと笑みを浮かべた。
「蒼、もしかしてボクと宙くんが仲良くしてること、嫉妬してる?」
「してない」
 即座に否定する。
 いや、別に、実の兄と宙が仲良くできてるのは、喜ばしいことだし。
 嫉妬とかしてないし、別に。
 けれど兄貴はまだニヤニヤ笑いを浮かべたまま、
「あはっ、可愛いとこあんなお前も」
「してないって言ってるだろ?」
「あはは!」
 俺は語気を強めるけど、兄貴はそう笑って、そして席を立った。
「じゃあ、宙くんにも会えたことだしボクそろそろ帰るよ。ご飯作んないといけないから」
「え、もう帰っちゃうの?」
「またいつでも会えるって。今度は飲み行こ!」
 名残惜しそうな宙に、兄貴は笑って手を振った。

 俺が宙の向かい側に座り直して、宙と向き合う。
「ごめんな、うちの兄貴うるさくて」
「そんなことないよ。楽しいお兄さんでいいじゃん」
 宙はそう言って、オレに笑いかける。
 その次に、ドリンクのカップを握り直しながら、少し目を伏せて、俺にこう言った。
「あのさ、このあと蒼の家行っていい?」
「え? 良いけど……」
 そういえば、最初にそういう用件でラインが来ていたな。
「何の要件?」
「…………」
 宙はなぜかもじもじしたまま、キャラメルマキアートを見つめて、黙り込んでしまった。
 ……なるほど。
「俺は全然いいけど、途中で夕飯買って行ってもいいか?」
「あ、それなら、オレ蒼ん家で夕飯作るよ」
「えっ、宙の手料理?! いいのか?!」
「うん、そんなに上手じゃないかもしれないけど……」
 そう遠慮がちに言う宙に、オレは首を振った。
「それなら、宙にしてほしいことがあるんだ」
「え? 何、何か食べたいものがあるの?」
「いや。家に着いたら教える」
 そう答えると、宙は不思議そうにうなずいた。
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