契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

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旅のはじまり

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「なるほど。そうなると、どういう事なんだ?」

 タカオが結局分からないでいると、ジェフはがっかりしたように肩を落とした。

「だから、王家の地図を持っていたアレルさんは闇の者なんだよ!」

 ジェフは間違いないと豪語していた。

「グリフはどう思うんだ?」

 タカオは他の意見も聞きたくなって、グリフにも聞く。ついでに、ジェフの母にもらった紙袋に入っていた朝ご飯をグリフに渡した。

 グリフは紙袋から適当にパンを取って、「さあな」そう言っただけだった。タカオも食べようと思ったが、何故か食べる気がしなかった。

 ジェフが何やら食べたそうだったので、結局手にとったパンを紙袋に戻しそのまま渡す。ジェフはたった数秒で食べ終わると、満足そうにしていた。

 朝ご飯でさっきの話は中断され、アレルさんが闇の者だという説はうやむやになった。中断されたあと、その話が再開されたのは目的地に近づいた夕方になってからだった。

 というのも、呑気に世間話が出来ない状況にタカオは陥ってしまったのだ。舗装されていない道には草が生え、木の根が飛び出し、所々に大小様々な石が散らばる。硬い岩盤の上、ぬかるんだ泥の上。

 タカオはどうにも歩きづらくて、歩いているだけなのにすぐに疲れてしまった。グリフやイズナは何事もないように涼しい顔で、まるで競歩のようなスピードで歩いて行く。

 通勤する際の、しかも遅刻ぎりぎりの小走りだな。と、タカオは思いながら走っていた。

 グリフとイズナの後ろを、ジェフが鼻歌を口ずさみながら軽快なステップで歩いている。時折、タカオを気づかい後ろを振り返る。

 走るペースが遅いタカオと自分の距離を確認して、ジェフは自分のペースを落としてタカオを待ってくれる。くねくねと蛇のように曲がる道を、何度もグリフとイズナの姿を見失いながらタカオはジェフを目印に追いかけた。

 そんな風に歩き続け、太陽はもう頭の上まで昇っていた。タカオは額に汗をかき、着ていたコートも背広も脱ぎ、斜め掛けの鞄に引っ掛けて、シャツ一枚になっていた。

 グリフは少し開けた場所を見つけると、そこで休憩することにしたらしく、出発してから初めて足を止めた。

 タカオは息も絶えだえに遅れて追いつくと、その場に寝転んだ。

「もう、ダメだ」

ーー運動不足だな。

 こんなに体を動かしたのは久しぶりで、長時間走る事がこんなに大変な事だったなんて長らく忘れていた感覚だった。そして、自分はなんて無様なのだろうかとショックを受けていた。
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