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呪われた瞳
19
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「タカオ!大地の契約だよ!」
後ろでジェフが大きな声で叫んでいる。けれど、波打つ力は大きくなり、異常を察した鳥達は慌ただしく空を移動しはじめた。風は優しく撫でるように通りすぎていく。タカオを通りすぎ、ジェフ達にも辿り着いた時、タカオは地面に膝をついた。
頭が割れそうに痛み、すでに耐えきれなくなっていた。ジェフやイズナの呼ぶ声が、遠くに感じた。名前を呼ばなければと、頭では分かっていてもそれが出来なかった。
今では、上手く息をする事も難しかった。それなのに、と言うよりは、そのせいで、タカオの脳裏には無意識に関係のない記憶が慌ただしく現れては消えた。
何故だか、辺りにはドリュアスの果実の甘い香りが漂っていた。それが記憶がもたらした幻なのか、本当に今この辺りに果実があるのか、タカオには分からない。けれどその香りと共に記憶は一気に膨れ上がって、一気に散った。
それはタカオの体の隅々にまで行き渡る。タカオには、全ての時がゆっくりと動いているように思えた。葉を揺らす木々も、波打つ水面も、形のないウェンディーネも、ゆっくりと動いているように思えた。
――悲しい。
その中でタカオはそんな印象を持った。
ウェンディーネの怒号は波の音であり、葉のざわめきだ。けれどそれは、聞くのも辛い叫びだった。それは悲しく、痛々しい。
「ウェンディーネ……」
タカオはウェンディーネの叫びを聞いてしまった。その時、タカオは後ろから肩を掴まれた。
「ここは危険だ!逃げるぞ!」
そう言うのはタカオの知らない男だった。がっしりとした体格で、鍔のある帽子を深く被っている。男はタカオの顔を見ると、一瞬、掴んだ手を緩めた。
「嘘だろ」
そう小さく呟く声が聞こえ、けれどすぐに思い直したのか、タカオの腕を掴み、後ろのほうへ連れて行こうとした。タカオは急いでそれを振り払うと、ウェンディーネの前まで走った。
「何やってる!死ぬ気か?!」
男はタカオを追いかけてきたけれど、ウェンディーネを目の前にして言葉を失った。
ウェンディーネの後ろの水は、すでに球体になり空に浮いていた。その数は恐ろしいほど多く、攻撃の準備はすでに終わったようだった。逃げ場など、ありはしなかった。
「タカオ!大地の契約だよ!」
ジェフは懸命に後ろで叫んでいる。
「まさか、あんた……いや、まさかな」
男はタカオをかばうように立つと独り言のように呟いた。タカオは男を気にも止めず出来る限りの声で叫んだ。
「オンディーヌ!」
その名前はここにいる誰も知らない名前だった。
「タ、タカオ?名前間違ってるよ!ウェンディーネだってば!」
ジェフが後ろで、慌てている声がタカオには聞こえていた。イズナは今にも死にかけているグリフを見守っていた。グリフはかろうじて意識はあったが、体を動かす事が出来ないでいる。
タカオはまっすぐに前を見て、痛みに耐えた。けれど、事態は悪くなる一方だった。浮かんでいる水の球体はどんどん大きくなっていき、ウェンディーネはまるで息をするように上に下に揺れている。
後ろでジェフが大きな声で叫んでいる。けれど、波打つ力は大きくなり、異常を察した鳥達は慌ただしく空を移動しはじめた。風は優しく撫でるように通りすぎていく。タカオを通りすぎ、ジェフ達にも辿り着いた時、タカオは地面に膝をついた。
頭が割れそうに痛み、すでに耐えきれなくなっていた。ジェフやイズナの呼ぶ声が、遠くに感じた。名前を呼ばなければと、頭では分かっていてもそれが出来なかった。
今では、上手く息をする事も難しかった。それなのに、と言うよりは、そのせいで、タカオの脳裏には無意識に関係のない記憶が慌ただしく現れては消えた。
何故だか、辺りにはドリュアスの果実の甘い香りが漂っていた。それが記憶がもたらした幻なのか、本当に今この辺りに果実があるのか、タカオには分からない。けれどその香りと共に記憶は一気に膨れ上がって、一気に散った。
それはタカオの体の隅々にまで行き渡る。タカオには、全ての時がゆっくりと動いているように思えた。葉を揺らす木々も、波打つ水面も、形のないウェンディーネも、ゆっくりと動いているように思えた。
――悲しい。
その中でタカオはそんな印象を持った。
ウェンディーネの怒号は波の音であり、葉のざわめきだ。けれどそれは、聞くのも辛い叫びだった。それは悲しく、痛々しい。
「ウェンディーネ……」
タカオはウェンディーネの叫びを聞いてしまった。その時、タカオは後ろから肩を掴まれた。
「ここは危険だ!逃げるぞ!」
そう言うのはタカオの知らない男だった。がっしりとした体格で、鍔のある帽子を深く被っている。男はタカオの顔を見ると、一瞬、掴んだ手を緩めた。
「嘘だろ」
そう小さく呟く声が聞こえ、けれどすぐに思い直したのか、タカオの腕を掴み、後ろのほうへ連れて行こうとした。タカオは急いでそれを振り払うと、ウェンディーネの前まで走った。
「何やってる!死ぬ気か?!」
男はタカオを追いかけてきたけれど、ウェンディーネを目の前にして言葉を失った。
ウェンディーネの後ろの水は、すでに球体になり空に浮いていた。その数は恐ろしいほど多く、攻撃の準備はすでに終わったようだった。逃げ場など、ありはしなかった。
「タカオ!大地の契約だよ!」
ジェフは懸命に後ろで叫んでいる。
「まさか、あんた……いや、まさかな」
男はタカオをかばうように立つと独り言のように呟いた。タカオは男を気にも止めず出来る限りの声で叫んだ。
「オンディーヌ!」
その名前はここにいる誰も知らない名前だった。
「タ、タカオ?名前間違ってるよ!ウェンディーネだってば!」
ジェフが後ろで、慌てている声がタカオには聞こえていた。イズナは今にも死にかけているグリフを見守っていた。グリフはかろうじて意識はあったが、体を動かす事が出来ないでいる。
タカオはまっすぐに前を見て、痛みに耐えた。けれど、事態は悪くなる一方だった。浮かんでいる水の球体はどんどん大きくなっていき、ウェンディーネはまるで息をするように上に下に揺れている。
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