契約の森 精霊の瞳を持つ者

呪われた瞳

24

「ウェンディーネ、もしかしてタカオは、もしかして」

　グリフは地面を見つめながら、その答えを聞きたいような、聞きたくないようなどちらともとれない様子だった。

「最初から、あなたも分かっていたはずでしょう。私もサラも、心をどんなに失っても気がついたのだから」

　ウェンディーネはとても遠くを見ていた。

「じぁあ、タカオはやっぱり……」

　ウェンディーネとグリフの会話はジェフには理解の出来ないものだった。当のタカオさえも、ぐったりとしながら聞いてはいたけれど理解は出来なかった。

　ウェンディーネやサラが心を失っても気がついた事。それが何を意味するのか分からなかった。

「それはどういう意味なんだ？グリフは何か知って……」

　タカオは腕を支えにして起き上がりながらそう聞いた。なんとか地面に座ったタカオにウェンディーネは近づき、頬に触れた。タカオは戸惑いながらも見つめ返した。

「湖の中であなたが言った事、覚えていますか」

　タカオは両の目を左右に動かして思い出しているようだった。

「息ができなくて、苦しかった。それ以外は、何も」

　ウェンディーネは残念そうに手を離した。

「そうですか」

　それだけ言うと、背を向けて湖へ向かった。湖の中に入ると、ウェンディーネは背を向けたまま言った。

「大地の契約は結ばれました。呪いを解いて欲しければ、使命を果たしなさい。ノームの居場所はシルフが知っているでしょう」

　それだけ言うと、ウェンディーネの姿は一瞬で水になった。ジェフの驚きの"あ"という言葉だけがはっきりと全員の耳に残っただけだった。





「先に向かっていてくれないか。すぐに追いつくから」

　ウェンディーネが消えてしまった後、街に向かおうとしていた時だった。タカオが湖を見つめながらそう言ったのは。誰も理由は聞かなかった。

　グリフはあの後、傷はウェンディーネによって治っていたものの、やはり体力の消耗は激しく、気を失ってしまった。今はあの大柄な男に担がれている。

　イズナもジェフも、誰もが疲れ果てていた。

「早く来てね！」

　そう言うと来た時と同じ洞窟へ消えた。