契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

文字の大きさ
上 下
118 / 272
狭間の濃霧

35

しおりを挟む
 矢の刃は長く、手を伸ばしても刃の部分までしか届かずに断念したり、シャツを思いきり引きちぎろうとして引っ張れば、引っ張る方向を間違えてシャツで自分の首を絞めたりと、おかしな事になっていたのだ。

 かと言って立ち上がろうとすれば、鋭く長い矢に肩を切られてしまう。タカオ1人ではどうにもならなかった。

「紙一重でそんな刺さり方をするとは、さすがですね。シアの為に本当に申し訳ない。……あなたには、感謝しても感謝しきれないほどです」

 ライルは涙を拭うと真面目な顔で言う。けれど、タカオはライルの感謝の言葉など聞こえもしない。

「早く助けてください!」

 それだけ言うと疲れきったようにぐったりとしてしまった。

 あまりにもぐったりとするので、ライルは慌ててタカオを壁からようやく引き剥がした。タカオはぐったりとしながら、先程の感覚が消えずにいた。

 物音がよく聞こえて、それがなんだか違和感のする音になって聞こえてくる。遠くで聞こえた音がすぐ近くで聞こえているようだった。何かのフィルターを通したようなくぐもった音や、はっきりと聞こえる音もあった。

 タカオは頭がぐらぐらとして、気持ちが悪くなってしまった。そんな状態でも、ライルの声はよく聞こえる。

 けれどおかしい。ライルの声で何か他の事を言っているのだ。それは頭の中で重なるように響いている。

 いつかライルに言われた言葉が、出てきては消えて、そして実際のライルの声が聞こえて、タカオの頭の中はぐるぐるとライルの声がいくつも重なってく。

「金色の瞳を片目に持つ者は、精霊に認められ守られる者……」

 食事の時に聞いた言葉だ。

ーーどんなことがあっても、闇の者に攻め入られはしません。エントがいるかぎり安全です。ですから地下に……。

 初めて聞く話、けれどそれはライルの声だった。

「そうしてその者は……」

ーーグリフォン。あの子を助けられるのは、あなただけです……。

 さっき聞いたライルの声と、いつ聞いたのか分からないライルの声が重なっていく。

ーーエントはずっと悔やんで……たとえ偉大な力を失っても……彼は……。

「他の者を守る、精霊と共に」

 その言葉を最後に、暗闇が襲った。
しおりを挟む

処理中です...