契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

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新たなる風

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「シアが、どうして風を……」

 シアが屋根の上にふわりと降り立つと、ライルがそう呟きながらタカオ達をすり抜けて行く。

 シアは得気になって風を操るけれど、近づいてきたライルは少しも嬉しそうではなかった。

「すごいでしょ!」

 ライルの様子が何かおかしいと思いながらも、この力を使いこなせていることを褒めてほしくてそう言う。

 コダは身動きを取らずに目を凝らした。

「何がどうなってるんだ。シアは精霊の瞳もないのに……あ、もしかしてあれか?」

 そして何か思い出したように、空を見上げた。グリフはコダの言っていることが分かっているようだった。

「あれでこんな力を使えるものなのか」

 ルースはその2人の間で、わけが分からず顔をしかめながらその会話を止める。

「あれって何?……あ、もしかして、あれのこと?」

 ルースがそう聞いている間に、はしごから男が現れ、そこから大声を出した。

「ルース!無事かぁああ!」

 タカオは大きな声にびくりとして、はしごを見る。真っ黒な髪とヒゲを伸ばした、まるでライオンのような男がいた。

「父ちゃん」

 ルースは身構えたようにはっとする。タカオはサーカス墓場の地下にいた時、ルースが父親の話をしていたことを思いだす。あの時は、仲が良さそうな印象だった。けれど、今のルースは違うようだった。

 ルースは何も言わずにコダの影に隠れる。コダは父親とルースを交互に見ると、思いついたことを口にする。

「ウィル、もしかしてルースに何かしたのか?」

 遠慮のないコダの言葉がルースの父親に向かう。コダにしては、遠慮して言葉を濁している。

 ウィルは屋根に上がると、コダに近づく。目は鋭く、今にも噛みちぎろうとするのを抑えているように鼻息は荒い。ウィルはルースを力強く掴みながら、顔はコダに近づける。今にも唾が飛んできそうだ。

「こいつは、ウッドエルフとしての自覚が無さ過ぎるんだ。まぁ、お前には到底、関係のない話だ」

 ルースは父親の手を力任せに振り払う。コダは嫌そうな顔をして、ライルに怒鳴る。

「おい!ライル!どうにかしろよ!なんでこいつ切れてんだよ」

 ウィルはコダをさらに睨むと、ライルの元へ行く。ライルはウィルを落ち着かせるほどの余裕はなかった。

「何か大変なことがあったのかもしれないが、こっちもわけが分からないんだ」

 それでもウィルはライルの横に立つ。

「ああ、向こうで見てた。問題続きだな。どうなってんだ」

 ウィルはため息をつき、頭を掻きむしる。その後ろで、ルースを守ろうとタカオが駆け寄り、コダが小声で説明している。

「ウィルは理由もなく、子供を殴ったりしない。まぁ、切れるとまるで別人だけどな。息くせーのにぎりぎりまで寄ってきたら、もう手もつけられないくらいブチ切れてるから気を付けろ」

 それにはルースも微かに頷く。コダはルースの肩を掴むと、静かに聞いた。

「あいつがあんな風になるのを、最後に見たのはガキの頃だ。それとも、最近じゃずっとああなのか?」

 ルースはウィルを見つめて首を振った。

「俺も最後に見たのは、ずっと昔だよ。今あんなに怒ってるのは、俺が本当のことを言わないからだ」

 コダは何をしたのか聞こうと口を開く。けれどその前にルースがコダを見上げて言った。

「父ちゃんの言ってることは正しい。俺にはウッドエルフの自覚がないのかも。それでも、これでよかったんだ」

 恐怖と困惑を抱えながらも、ルースの瞳は輝いている。

「今日のシアを見て、やっぱりそう思う」


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