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5(ヒーロー視点)
しおりを挟む端的に言うなら、暇。その一言に尽きる。
なんせ自分は最強の魔術師。数百年生きようが自分より強い魔術師は現れず、身に孕む魔力が膨大すぎるせいで死ぬこともできなかった。
暇。だったのだ。
だから時代が移り変わり、貴族社会になった折。適当な貴族に扮して適当に暇を潰していた。
そんなときだった。
アリスに出会ったのは。
アリスの姿を初めて見たとき、――それは、もう、言葉にできない衝撃が、体を襲ったのだ。
アリスは美しい子供だった。齢3歳の彼女。子供のできない伯爵家に養子として貰われたらしい。
あれが欲しいと思った。
あれを私の手元に起きたい。
あれを愛でたい。
あれを女にしたい。
あれを――アリスを、私だけのものにしたい。
女なんて星の数ほど見てきたのに、アリスは別格だった。きっとこれが運命というものなのだろう。
それからは毎日が充実していた。
まずはアリスを引き取った伯爵家の親戚になるよう理を弄った。なにかあるごとにアリスが私の屋敷に訪れるように周囲の人間ごと催眠をかけた。理を捻じ曲げて、子を成せない伯爵夫婦に、子を成させた。
伯爵夫婦がアリスを虐げたのは少し想定外だったが、これも利用することにした。もちろんアリスを虐待しないようすることもできたが、あまりにも術をかけすぎると、壊れてしまう可能性があった。それは困る。いくらクズでろくでもない親であろうと、アリスに親は必要だったからだ。アリスと私は距離を置く必要があったからだ。もし今私が彼女を手に入れたのなら――きっと私は彼女を愛するあまり、彼女の全てを壊して、貪り尽くすだろうな、という確信があったからだ。
アリスを私のものにすることは決定事項だった。
だがアリスはただの人間だ。
だからこそ、壊れないように、私と同じ体にするために、ことあるごとにアリスに私の魔力を流し続けた。
擦り傷ができたと言われれば、その傷を舐めて、傷口を介して魔力を流し込んだ。
悲しいと泣かれれば、言葉を介して魔力を注いだ。
抱きしめてくれと言われれば、触れた皮膚から魔力を染み込ませた。
そうして彼女の体は、18歳間近のある日、ついに私と同じものになった。
外から見ればただの人間。しかし内側は違う。そうしてさらに私はアリスに術をかけた。私から与えられる以外の痛みで流血しない、という。そんな術を。
これも私自身が行ったことではあるが――アリスは気色悪いじじいの元に嫁ぐはめになった。そして私の術が上手く作用し、破瓜の血が流れなかった。
あとは別に魔術なんて必要なかった。
予想通り私の元に現れたアリス。そこでようやく流血の術を解いた。そうして今度は別の術をかけた。私と接触することで性的興奮を覚えるように、という術を。
――なぜこうもまどろっこしいことをしているのか。
単純な話だ。魔術師が術を使うときに詠唱するように、言葉には魔力が宿る。それは人間が使っても同じだ。
アリスを手にするのは容易い。だが私の術だけで縛り付けるのは不安だ。絶対ないとは思うが、私の魔力を注いだからこそ、解術される不安が付き纏う。だからこそ、アリスの口から、アリス自身を縛る本心からの言葉を、術を、言わせなければならなかった。
――『おじさま、……私、おじさまと結婚したい……』
アリスを未来永劫私に縛り付ける、この言葉を。
疲れ切って眠るアリスの頭を撫でながら、全てが上手くいったという充足感で満たされていた。
計画を始めてから15年。これまで生きてきた数百年よりよっぽど楽しくやり甲斐のある15年だった。
私にしては少し頑張りすぎた。ここから先の数百年は、アリスと、ただゆっくりと過ごしたかった。
――あぁそれにしても。
出会ったときから変わらない、純真無垢な姿。穢れを知らない銀の髪。新雪を思わせる白い肌。自慰、という言葉すら知らない無知。無垢。純粋。清浄。純真な、私のアリス。
彼女をそういうふうに仕立てたのは他でもない私だ。余計な知識を入れ込まないよう術をかけたもの私だ。だが実際目にすると、浮かぶ感慨はまったく違う。私の願ったように育ったこと。それはなにより私を満たし、このうえなく興奮させてくれた。
シーツに滲む赤い血を眺める。
あれは私の血。魔力の流れる血。
だがアリスに流れる血も、もう、その全てに私の魔力が通っている。だから私とアリスには同じ血が流れているのだ。であれば、――あれこそが、本当の、アリスの破瓜の血なのだ。
さて。とアリスの隣で横になる。
特に眠る必要なんてなかったが、まぁこういうときぐらいはいいだろう。小さなアリスの体を抱き寄せて、私は、目を閉じることにした。
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