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しおりを挟む「ロック様とずいぶん仲が良いんだね」
その夜のこと。客間のソファで紅茶を嗜んでいると、レナードからそう話を振られた。
「?……えぇ、幼少期の頃から交流がありましたし……」
「愛称で名前を呼ぶのを許すぐらいに?」
「……昔の名残ですわ。わたくしも、幼い頃はロック様のことは呼び捨てにしていましたし」
「幼い頃の名残ねぇ」
「そうでなければなんですの?……というかレナード様。一体どうしたのです。なぜそうまでわたくしとロック様のことが気になるのです?」
誓って、エリザベスとロックにやましい事実はなにもない。ロックは婚約者であるエセル嬢にベタ惚れだと有名だったし、そんなロックのことをエリザベスは微笑ましく思っているぐらいだ。
「ロック様が婚約者を大切にしているのはレナード様もご存じでしょう?わたくしは、他人(ひと)の婚約者を略奪する趣味はありませんことよ」
「……いや、そうだな。私が大人げなかったよ」
気まずそうにレナードが視線を逸らす。
「……構いませんわ。それに、わたくしからも聞きたいことがありましてよ。なぜレナード様は、わたくしの婚約破棄の話をしたがるのです?」
音もなくティーカップをソーサーに置き、エリザベスがレナードに向き直る。依然としてレナードは気まずそうに視線を逸らしたままだ。
「王家と侯爵令嬢による婚約破棄など王国の恥。そう吹聴するものではないと思うのです。同じく婚約破棄されたレナード様であれば理解していると思っておりましたのに」
最後の方は、少し八つ当たりの感情も混じっていた。
いくら自分に非がないと言い切れるとはいえ、三行半を突きつけられたのは少なからずショックではあったのだ。 更に、繰り返しにはなるが、王家と侯爵家の婚約破棄などあってはならない酷い醜聞だ。とても他国の王族においそれと話して良い話題ではない。
レナード様であれば理解していると思っていたのに。そんな八つ当たりだ。
「……いや、うん……そうだね、君の言う通りだ。これはもっと早くに話すべきだったかもしれない」
珍しくレナードが言葉を濁した。なにを、とエリザベスが言いかけて、
「……エリザベス嬢。端的に言えば、私は、兄を玉座から引き摺り下ろし、マークを廃嫡に追い込む計画を立てている。そして計画が成功した暁には——君を私の妻として迎え入れたい」
視線を逸らしていたレナードが。
いつの間にやらしっかりエリザベスを見据え、静かに、そう言い切った。
*
「……は、」
突然のことにエリザベスは言葉を失う。
「細かいことは追い追い話すが……兄とマークでは国を傾けてしまう……いや、現に私たちの国は傾きかけている。そうなれば民はどうなる?これまで培ってきた文化は?産業は?……私はそれを阻止したい。そのためには君が必要なんだ」
「な、なにを言って……」
狼狽えるエリザベスとは対照的に、レナードは動揺する素振りさせ見せない。まるでそれが、ずっと前から決めていたことだったと言わんばかりに。
ふいにレナードが立ち上がった。ソファに座るエリザベスにゆっくり近付いてくる。エリザベスはどうすることもできず、ソファの上で固まっている。
「レ、レナード、様、」
レナードがエリザベスの前に跪いた。それからエリザベスの小さな白い手を、そっと手に取った。
「エリザベス嬢。……いや、君が嫌でなければ、私も、君のことをリジーと呼びたい」
「え、ぁ、それは、構いませんが……」
「ではリジー。国のためでもあるが……王妃教育に折れず、腐らず、淑女として美しく立ち続ける君を、私は愛している。……婚約破棄を言い渡された今、君に特定の相手はいない。だから」
そう言われ手の甲に優しく口付けされ——、
「私を選んではくれないだろうか」
——エリザベスは、今度こそ、言葉を失ってしまった。
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