職業・種付けプレス士ですが、貴方の奥さん寝取っても大丈夫ですか?

黒瀬るい

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 ――『妻との夫婦生活が上手くいっていません。俺は頑張っているんですが妻がマグロみたいなんです。どうにかセックスのテクニックをレクチャーお願いできませんか』。

 依頼人の話を聞きながらメールに記載されていた内容を思い返す。
 営業スマイルを浮かべつつも、内心、うーん、と首を捻った。

 ――『私も妻ももう30歳。そろそろ子供も欲しいですし、セックスの頻度も増やしたいんです。でも妻があまり乗り気じゃないように見えて……。マグロである妻に問題があると思っています。種付けプレス士である須藤さんからご指導あれば、妻も、自分のセックスについて考え直してくれるんじゃないかと思って……』

 メールの送り主。お名前は石井大樹。
 そしてその妻である椿。年齢は依頼人と同じ30歳。

 改めてメールを思い返して考える。
 『夫婦生活が上手くいかない』。
 まぁよくある話だ。俺ももう何十組とそんな夫婦をみてきた。
 とはいえ、ひとえに『セックスが上手くいかない』といっても、夫婦ごとに孕む問題は千差万別だ。だからこそ職業人(プロ)として――種付けプレス士としてこうも悩んでいるわけだけど。




「ええと……それでは石井さん。まずは夫婦の時間について詳しく話をお聞きしても?」

 今俺がいる場所はとあるホテルの一室。
 扉の向こうではシャワーの音がする。依頼人である石井大樹さんの妻、椿さんが今まさにシャワーを浴びている最中だった。

「あの……月に2回ぐらいで……」
「なるほどなるほど。では石井さんの主観で大丈夫なので、椿さんはセックスに満足されていると思いますか?」
「……うーん……、喘いでくれてはいて、……あとイってもいるんですけど……なんというか……マグロ、っぽくて……」
「……わ~かりました。マグロなのは確かに困りますねぇ。では石井さんとしては、奥様のマグロ具合をどうにかしてほしい、と」
「は、はい。俺は本当に頑張ってて……あとは椿が頑張るだけだと思うんですけど……なんか全然上手くいかないんです」
「あぁそう肩を落とさないでください。大丈夫です、先ほど資格証をお見せしましたが、俺は国家資格である種付けプレス士です。今夜一晩で、良い感じに問題解決してみせますよ」
「……よろしくお願いします。本当に、その、困ってて……」
「任せてください」

 そこまで話したところで、シャワーの音が止まった。
 ほどなくして聞こえてきたのは浴室の扉が開く音。さぁてもうそろそろで奥様である椿さんとご対面だ、と俺は胸を躍らせて――、

「……えっ……」

 ――バスローブ姿の石井椿さんの姿を見て――思わず俺は驚きの声をあげてしまった。





 ――種付けプレス士。

 嘘みたいな、でも本当のお仕事。
 なんでこんな仕事が生まれたか。
 理由は単純。
 悪化の一途を辿る少子化に終止符を打つべく、政府が新しく作った国家資格、かつ士業。それが種付けプレス士だった。

 仕事の内容は至ってシンプル。

 子供が欲しくてもできない夫婦に精子の提供。
 夫婦生活が上手くいってない人たちにセックスのレクチャー(それでセックスが上手くいって、子供までできればいいね、というのが政府の思惑らしい)。

 もっと言えばそういうセックスから、妊娠~子育てまでのあらゆる事象に対応。依頼があればなんでもこなす。それが俺たちの仕事だ。

 そして内容が内容だけに、資格を取るのはかなりの難易度を誇る。

 まずは身辺調査されるところから。後ろ暗いことがないか徹底的に調査され――それをクリアしたら今度は鬼のようなハードルの高さを誇る筆記試験だ。
 
 俺たちの仕事である種付けプレス士。
 その仕事内容のひとつであるセックスのレクチャー。レクチャーするためにはセックスのテクニックを学ばなければいけない。そしてテクニックを学ぶためには、男女の体の構造を徹底的に学ばねばならない。

 だから最初に学ぶことは男女の体のことから。
 部位から、ホルモンの放出のメカニズム、勃起から月経、着床妊娠悪阻更年期……と多岐に渡る。

 それが終われば今度はセックスのテクニック。なんだったらプレイの流行り廃りも必須科目だったりする。

 最後に法律関係。遺産相続から、果ては尊属殺人についてまで。絶対にイコールというわけではないが、セックス、といえば生殖行為。そして子供。だから子供が絡む法律や制度については頭に叩き込んでおかなければならなかった。

 ちなみにだが、自分が住む自治体の、子供関係の制度も知っておかなければならない。
 どういう手当があって、所得制限はどこらへんから引っかかるか、とか。あとはどこの保育園が人気か、とかも。

 とにもかくにも、ふざけた名前の割には学ぶこと考えることが多い――それが種付けプレス士の仕事だった。


 そうして今夜。
 俺はいつものように、依頼されるままホテルの一室に来ていた。
 本当は夫婦揃って顔合わせするところなのだが――俺が渋滞に巻き込まれて、ホテルに到着するのが遅れてしまったのだ。
 だから奥様は先にシャワーを浴びていて、であるならと、先に、依頼人である夫から話を聞いたところだった。
 さて次にヒアリングするのは奥様。色々聞かなきゃな。そう、思っていたのに。

「あ……、……こ、こんばんは。椿、と申します……」

 体からほんのり湯気をまとわせて、奥様、もとい椿さんが姿を表した。
 思わず驚きの声をあげて、再度その顔を見て、俺は絶句する。
 挨拶すら忘れて。その顔に、釘付けになった。

「……あの、妻がどうかしましたか?」
「えっ……、あ、いえ、すみません。少しぼんやりしていました。では奥様へのヒアリングを始めるので、石井さんはその間にシャワーをお願いできますか?」

 石井さんは黙って頷いて、椿さんと入れ替わるように部屋を出て行った。
 俺はといえば――困惑したように立ち尽くす椿さんから、目が離せずにいた。
 
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