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後編
しおりを挟む酷い頭痛に苛まれながら、クラウディアはゆっくりと体を起こした。
こんなに頭が痛いのは、冬の一番寒い日に床で眠ったとき以来だ。だけれど、今はびっくりするぐらいふかふかのベッドの上にいて……? ここまで考えたところで、クラウディアの意識は一気に引き戻された。
「……あれ……?」
霞む目を擦り、クラウディアは周囲を見渡す。クラウディアが寝かされていたのは、見たこともない大きなベッド。クラウディアのいる部屋は、男爵家など比較にもならない豪華絢爛な部屋。
クラウディアは、自身の置かれた状況を理解できなかった。
「……ここは……」
「……あぁクラウディア。目を覚ましたのかい」
と、そのときだった。重苦しい扉が開き、ヴィルヘルムが顔を覗かせたのは。
「……ヴィルヘルム様……!?」
普段男爵家で会う時ととは違う、白いシャツに黒のスラックスといったラフな格好のヴィルヘルム。クラウディアの姿を目にするなり、ヴィルヘルムは柔らかな笑みを浮かべた。
「おはよう。体の調子はどうだ?痛いところは?」
笑みをたたえたヴィルヘルムが、クラウディアのベッドに腰掛けた。戸惑うクラウディアを労わるように、そっと頬を撫でてくる。
しかしクラウディアは、ヴィルヘルムが投げかけた疑問に答えるより先に、聞かなければならないことがあった。
「あ、あの、ヴィルヘルム様、確か私は伯爵様の元に嫁ぐ予定で、馬車に乗っていたはずで……。どうしてヴィルヘルム様がいらっしゃるのですか……?」
「……クラウディア、……その話なんだがね」
クラウディアの頬を撫でていた手が止まる。ヴィルヘルムの黒い瞳が、痛ましげに伏せられた。
「……教えるべきか迷ったんだが……、その話は嘘だったんだよ」
瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃がクラウディアを襲った。
「結論から言えば、……君のことを用無しと判断したペテルセン男爵が、伯爵との結婚だなんて嘘をついて君を捨て去る予定だったんだ」
「……なぜ、どうして……、用無し、だなんて……」
「……理由はわからない。ただ、……本当にたまたまだったんだが、今度開かれる狩猟会の練習のために山へ行っていたんだが……、その道すがら、事故にあった馬車を見つけて……、……慌てて駆け寄ってみれば、クラウディア、君が乗っていたんだよ」
ヴィルヘルムは、本当に残念だと言いたげな声色で、ぽつぽつと話を続ける。
「おかしいと思ったよ。たいした荷物もなく、君もいつもと変わらない格好。すぐ男爵に問い合わせると、『クラウディアは用無しになったから捨てた』と……。もうクラウディアはいらないから好きにしてくれ、と言われてしまってね、……事故の拍子に頭を打ったのか、君は意識を失っていたし、やむを得ず私の屋敷に連れて来たんだ」
「そんな……」
父の言葉は嘘だった。それに、父に捨てられてしまった。衝撃と絶望で、クラウディアの体はわなわなと震えだす。
私は一体これからどうなるのだろう。学もなければ、これといった特技もない。今はヴィルヘルムの屋敷に囲われているが、きっとそれも長くは続かない。これから、どうやって生きて行けばいいのか。突如として襲った絶望が、クラウディアの顔色をみるみる悪くさせる。
「ヴィ、ヴィルヘルム、様、」
「……本当に残念な話だ。だが安心してくれ、君の身は、」
「わ、私は学も、特技も、なにもありません。っ、……は、母のように、娼婦になるしかないのでしょうか」
混乱するクラウディアは、思わずそう口走ってしまった。途端、
「……娼婦?」
「……、わ、私の母も娼婦だったと聞かされています。やはり私も母のように生きるしか、」
「クラウディア」
言葉を遮るように名前を呼ばれた。はっと顔を上げると、今まで見たことないぐらいに怒気を孕んだヴィルヘルムが、じっとクラウディアのことを見ていた。
「娼婦だと?なぜ君が娼婦になる必要がある?それともなんだ、……そこまで言い訳して私の手から離れたいのか?」
「ヴィ、ヴィルヘルム、様……?」
「もしくは他に男でもいるのか?娼婦になると嘘をついてその男の元にでもいくつもりか?……おかしいな、そんな情報はなかったはすだが」
「あの……」
「クラウディア。やっと手に入ったと思ったのに。どうして君はそう逃げたがるんだ」
ヴィルヘルムが立ち上がる。
どこに隠し持っていたのだろう、絹の布を握りしめて、クラウディアににじり寄った。
「もしものためにと学んでおいて良かったよ。さぁクラウディア、両腕を上に上げてごらん」
混乱したままのクラウディアは、言葉の意味を理解する前に両腕を上げた。ヴィルヘルムがにたりと笑い、クラウディアの両手首を、そのまま布で縛ってしまった。
「ヴィルヘルム様っ……!?」
抵抗する間もなく縛られたクラウディアは、そのままベッドに寝かされてしまった。手付きは優しいのに、ヴィルヘルムの黒い瞳は妖しい光を孕んでいる。
「この部屋には誰にも入ってくるなと命じてある。泣き叫んだところで誰も助けに来ない。だから——観念するんだな、クラウディア」
ぎしり、と音を立てながら、ヴィルヘルムがベッドに乗った。2人の重さ分沈んだベッドの上で、クラウディアは混乱したままヴィルヘルムを見上げていた。
*
「……んっ、……ん、ぅっ……」
観念するんだ、などと言われたものだから、拷問か、それに近いことをされるのだとクラウディアは思っていた。
だが実際は——ヴィルヘルムはクラウディアの服を引き裂きはしたが、クラウディアを丸肌にしてからは、丹念に、執拗に、丁寧に、念入りに、クラウディアの肌に舌を這わせていた。
首筋から始まったそれは、鎖骨をなぞり、肩を噛み、腋の窪みを愛で、胸にむしゃぶりついた。頂を吸われたときは、そのあまりの衝撃にどうにかなると思ったが、ヴィルヘルムは胸に固執することなく下へ下へと移動していった。
「んっ、んん、」
ヴィルヘルムは今、臍あたりを舐めている。くすぐったくて足を擦り合わせると、くちゅりと、聞いたことのない湿った水音が聞こえた。それがどういうことを意味するか、閨教育を受けていないクラウディアにはわからない。
腹周りを吸っていた唇が、やがてクラウディアの下生えあたりまで差し掛かった。されるがままだったクラウディアも、さすがに抵抗の意思を見せる。
「ヴィルヘルム様、そこは汚いところですからっ……」
「君の体に汚いところなんてないよ」
言いながら、ヴィルヘルムがクラウディアの薄い下生えに口付けを落とす。
「熟れた女のように毛深かろうが、こうやって少女のように薄かろうが、君の体であればどれも好ましいよ。あぁでも、毛は薄い方が、君の胎(はら)を近くまで感じられるね」
クラウディアはヴィルヘルムの言葉が理解できない。クラウディアの下生えをさらさらと指で撫でたヴィルヘルムは、すでに濡れているクラウディアのそこに顔を埋めた。
「っ、ヴィルヘルム様っ……!おやめになってください……!そこは本当に汚いところ、でっ……!?」
抵抗するクラウディアを嘲笑うように、ヴィルヘルムがそこを啜った。クラウディアの体が大きく跳ねる。これまで経験したことのない感覚が、クラウディアを襲った。
「あっ、……ぁあっ……!?」
「感じていてくれて嬉しいよ。けれどねクラウディア、私はまだ君の体を堪能しきっていない」
名残惜しそうにそこをヴィルヘルムが再び吸い、今度は太ももに歯を立てた。噛まれてしまう。甘噛みだったが、どうしようもなく秘部が疼いてしまった。
「ひっ、ぅ、」
宣言した通り、ヴィルヘルムはクラウディアの下肢を堪能し始める。膝裏を舐められ、ふくらはぎを吸われて、足首を噛まれた。それから足の指一本一本丁寧に舐められて、クラウディアは、もう本当に訳がわからず混乱しきりだった。
「ヴィルヘルム様ぁっ、本当に、どうなされたのですか……っ……」
右足の小指を舐められたところで、ついにクラウディアは泣き出してしまった。
「ヴィルヘルム様、どうして私の体を舐めるのですか、どうして、どうして、」
父に捨てられたということも解消できないまま、今度はヴィルヘルムにいいようにされていたクラウディアは、もういっぱいいっぱいだった。ここに至るまでに、何度も何度も、なぜこんなことをするのですか、と必死に問いかけたが、ヴィルヘルムはクラウディアの言葉に答えることはしなかったのだ。
限界を迎えたクラウディアが、しゃくりを上げて泣いていると、ようやくヴィルヘルムの愛撫の手が止まった。
井戸の底のような真っ暗な瞳が細くなる。ヴィルヘルムはいつだってクラウディアに優しかったが、今日だけは違う男に見えた。クラウディアは怖くなって、思わずヴィルヘルムから顔を逸らす。
「なぜ私の方を見ない?」
ヴィルヘルムの手が、クラウディアの顎へ伸びる。顎を掴まれ、無理やりヴィルヘルムの方を向かされた。
「……っ」
「泣かせたいわけじゃないんだ」
クラウディアはなんと答えるべきかわからない。けれどヴィルヘルムを睨みつけることすらできず、はらはらと涙を流すばかりだ。
ヴィルヘルムの目はクラウディアを見つめて逸らさない。クラウディアは怖かった。ヴィルヘルムがなにを考えているのかわからなかった。しばらく沈黙が続いて、ヴィルヘルムがなにかを諦めたように、しかしクラウディアを見つめながら静かに告げた。
「クラウディア、私はね、君を愛しているんだ」
思ってもいなかった言葉を投げられ、クラウディアは言葉を失う。
「他のなにより、誰より、君を愛しているんだ。君と会うのがなにより楽しくて仕方なかったのに。私は君だけが欲しかったのに。それなのにクラウディア、君ときたら娼婦になろうだなんて言うじゃないか。戯言を。他に男がいるのかもしれないが私はもう君を逃しはしない」
捲し立てるようにヴィルヘルムが話すものだから、クラウディアは一層混乱してしまう。言葉を失った口を何度かぱくぱく開け閉めして、ようやくクラウディアは疑問を投げかけることができた。
「待って、待ってください、ヴィルヘルム様は、私を、す、好きなのですか……?」
「愛していると言っただろう。それともなんだ、愛している、より、好きだと言われる方が好みなのか?」
「そうじゃなくて……!」
「ではなんだ?私の愛が受け入れられないと?それは聞き入れられないな。私はね、君の全てを愛しているんだ。君の髪も、目も、鼻も、口も、耳も、全てを、」
「——ヴィルヘルム様っ!」
クラウディアが叫んだところで、ようやくヴィルヘルムはそのお喋りな口を閉ざした。
「わ、私は、お付き合いしている殿方などいません!娼婦になる、というのも、学も特技もない私にはそれ以外に働き口がないと思ったからで……!それに、っ、それに、ヴィルヘルム様が私のことを好きだなんて、考えたこともなくて……!」
一思いに叫んで、クラウディアは肩で息をする。呆気に取られたようにヴィルヘルムはしばらく沈黙していた。
「………………私があんなにアプローチしていたのに?」
長い長い沈黙を経て、ヴィルヘルムは蚊の鳴くような声で、クラウディアに問いかけた。
「………いや、自分では度が過ぎているとは思っていたんだよ?婚外子とはいえ、未婚の女性に無闇に触れるものではない。だがそれら全てを無視して君に触れ、気にかけてきたというのに、……君は気付いてなかった?」
じり、じり、とヴィルヘルムがクラウディアの顔ににじりよる。黒い瞳には、困惑しきったクラウディアの顔が映っていた。
「ヴィルヘルム様は侯爵ですからっ……きちんとした婚約者の方がいると思っていましたし……!婚外子の私のどこにヴィルヘルム様に好かれる要素があるというのです……!」
ヴィルヘルムの圧に慄きながらも、クラウディアは必死に反論する。そうとも、ヴィルヘルムはやけに自分と物理的に接触するなとは思ってはいたし、それを悪くも思ってはいなかった。だが所詮は、高位貴族による戯れなのだと、その程度にしか思っていなかったのだ。
「……へぇ?」
一連のクラウディアの反論を聞いたヴィルヘルムは、面白いものでも見つけたように、薄く笑った。
「確かに君の言うことは理解できる。君は男爵令嬢で、私は侯爵。身分の違いもあるし、君は婚外子だ」
けれどね、とヴィルヘルムは続ける。声は弾んでいた。
「そんなもの全てどうでもよくなるぐらい、私は君を愛しているんだ。理解出来ていなかったというのならば、わからせてあげようか」
*
窓の外が暗くなっていることに気付いて、クラウディアは思わず息を飲んだ。
自分が目を覚ましたときは確か昼だったはずなのに。窓の外を見つめていると、ヴィルヘルムの指が、クラウディアのしとどに濡れた秘部を撫であげた。
「ひ、ぁっ……!」
「……今、私以外のことを考えていただろう。なにを考えていた?」
「……もう夜なんだな、って……」
「あぁ、まだ時間を気にする余裕があったのか。それはいけないね。君は、私のことだけを考えていれば良いんだから」
いたずらに秘部を弄んでいた中指が、クラウディアの中に挿入される。散々愛撫されてとろとろに蕩けきったそこは、簡単に男の指を飲み込んだ。
「んんぅっ……」
「私以外のことなど考えられないようにしないとな。……ほぅらクラウディア、確か、ここを圧迫されるのが好きだろう?」
ヴィルヘルムの中指の腹が、クラウディアの中のある一点をとんとん、と小気味よく叩いた。つい先刻、初めて触れられたときは妙な圧迫感を感じていただけのそこ。しかし今は、快楽を生み出し、作り出し、クラウディアの体を苛む箇所になっていた。
「あっ……!あっ、あっ、や、ぁっ……」
とんとん。とんとん。と、叩かれるたびに腰が勝手に浮いた。落ち着きを取り戻しつつあった下っ腹の熱が、それだけの刺激で一気に熱くなる。
「やだぁっ……ヴィルヘルムさま、そこはいやぁっ……」
しかしクラウディアの言葉など聞こえていないように、ヴィルヘルムは、クラウディアのそこを刺激し続ける。クラウディアは体が熱くてたまらなかった。じわじわと快楽が降り積もり、視界すらも霞ががっていく。
「ここも触ってほしそうにしているね?」
どこが、と言いかけたクラウディアの言葉は、自分自身の嬌声の中に消えた。ヴィルヘルムが、クラウディアのぷっくり膨れた陰核に吸い付いたからだ。
「ぁあっ……!?あっ、やっ、」
びりびりと電撃のような痺れがクラウディアを襲う。一気に腰が重くなって、腹の奥がむず痒くなって仕方なくなる。
「や、っ、あっ、ヴィルヘルムさまっ……」
むず痒い腹の奥。もどかしさすら感じる。じりじりと焼かれるような、焦らされるような快楽。陰核を吸われるのも、指でノックされるのも気持ちいい、のに、クラウディアの胎(はら)はそれ以上の刺激を欲していた。
「あっ、や、っ、あぁっ、」
ヴィルヘルムの動きに合わせてクラウディアは鳴く。気持ちいいのが止まらなかった。腰が勝手にうねって、ヴィルヘルムから逃げようと動くのに、ヴィルヘルムの指は、口は、絶対にクラウディアから離れなかった。
「ヴィルヘルムさま、ぁっ……いく、いっちゃいます、……っ……」
これも、つい先ほど初めて絶頂に達したときにヴィルヘルムに教えられたことだ。イきそうになったのなら必ず自分に教えろ、と。従順なクラウディアは、ヴィルヘルムの教えを遵守するために、快楽のせいで回らない舌を必死で回した。
「いく、いくいくいくっ、っ、あっ、やぁ、いっ、~~~っ、………」
呼吸を忘れたようにクラウディアが息を詰めた。同時に快楽が体の中で弾ける。は、とようやく息を吐くと、同時に体が一気に重くなり、汗が吹き出した。
「偉いねクラウディア。ちゃんと私との約束を守れたね」
しかしそれだけ言って、ヴィルヘルムは再びクラウディアの秘部を舐め出した。今度は指ではなく、舌先を秘部の中に挿入させる形で。
「あぁあっ……!?」
ぞわぞわっ、とクラウディアの背中に悪寒めいたものが走り抜ける。イったばかりで敏感になっている秘部にはあまりに強い刺激で、は、は、とクラウディアは浅く息を吐くことしかできない。
ヴィルヘルムの柔らかく滑る舌が、クラウディアの中へ入っていく。粘膜同士の接触。とろとろに溶けた中を、熱い舌が這い回り、クラウディアは喉をのけ反らせながら嬌声をあげた。
「あっ、あっ、や、っ、あっぁあっ……!」
むず痒い腹の奥がさらにむず痒くなる。もどかしい。掻きむしりたくなるむず痒さ。同時に、再び絶頂の気配が顔を覗かせ、クラウディアはきつく目を瞑った。
「ヴィルヘルムさまっ、いく、またいく、っ、あっ、あぁあっ……!?」
クラウディアの体が大きく跳ねた。それから不規則に下半身が痙攣し、ヴィルヘルムの舌を締め付ける。そこまできたところで、ヴィルヘルムはようやく愛撫の手を止めてくれた。
目を瞑ったまま、クラウディアは快楽の波が収まるのをじっと待っていた。だが散々愛撫し尽くされた体からは、なかなか熱が引いてくれない。荒い呼吸を繰り返しながら、どうしよう、と思っていると、ぬちゅり、と秘部に、何かが触れた。
「……ぁ……?」
指でもない。かといって舌でもない。クラウディアが恐る恐る目を開けると、あろうことか、ヴィルヘルムが、起立した自身のそれをクラウディアの秘部に擦り付けていたのだ。
「っ、あっ、ヴィルヘルム様、それはっ……」
「君の痴態を見ていたらここまで立ち上がってしまってね。いや、だいぶ前にこうなってはいたんだが……、……だが、そろそろ我慢の限界だ」
クラウディアは閨教育を受けていない。だが、あれを入れてしまえば、子供ができてしまうのでは、ということは直感で理解してしまった。
赤黒いヴィルヘルムのそれが、蜜をまとわりつかせるように、クラウディアのそこを何度も往復する。硬く熱いものに秘部の入り口を割開かれて、クラウディアの腹がきゅうんと鳴いた。
「そ、っ、それを入れてしまったら子供ができるのでは……っ?」
「そうだとも。これを入れて、君の腹の奥で精を出せば、子を孕む可能性がある」
「待ってくださいっ……!ヴィルヘルム様は婚約者様がいるのでしょう……!なのに、」
「いいや?いないよ?散々言ったじゃないか。私は君だけが欲しいと。もちろん昔は婚約者もいたがね、君を愛してしまったから婚約なんてとうに解消済みだ」
「っ、あ、」
「クラウディア、子供は何人ほしい?君と私の子ならどんな子だって可愛いだろうな。男の子であれば剣を習わせるのも良い。いや、女の子だって、その子が望むのであれば剣も習わせよう。君と私の子なんだ、なにをさせたって様になるだろう」
「ヴィルヘルム様っ……」
「あぁでも、子を成す前に2人きりの時間も欲しいね。もっとたくさん君を愛したい。君をたくさん抱きたい。口付けだってもっとたくさんしたい。浴室で愛を確かめ合うのも良いな。私の屋敷の庭は広いから、東屋で愛し合っても良い。とにかく、私がどれだけ君を愛しているか、きちんとわからせたい」
ヴィルヘルムがクラウディアに体重をかけた。同時に、ヴィルヘルムの先端が、クラウディアの中へ、ゆっくり沈んでいく。
「やっ、あっ、」
「愛しているよ、クラウディア」
「っ、あ、ヴィルヘルム様、待って、」
「待たない。君が嫌だと泣き叫んでも今回ばかりはやめられない。クラウディア、君は私の、私だけのものだ」
ヴィルヘルムから口付けが降ってくる。その間にもヴィルヘルムはじわじわと体重をかけ、狭いクラウディアの中を押し広げていく。
「……痛いか?」
酷く掠れた声だった。口付けの合間に、心配するようにヴィルヘルムが聞いてくる。その声を聞いて、クラウディアこの日初めて、——義母と義妹に虐げられ、静かな絶望の日々を過ごす中で、ヴィルヘルムだけが救いだったということを、思い出した。
「いっ、……痛くはありません」
「……なら良いが、」
「っ、……でも、ヴィルヘルム様は、いつもこうして私を心配してくださいましたね」
「……うん?」
話が見えなかったのだろう。挿入する動きが止まり、ヴィルヘルムが不思議そうにクラウディアを見つめる。
「私がお義母様や妹にいじめられていたとき、ヴィルヘルム様は、いつだって私の味方だった」
「……言っただろう、私は君を愛していると。味方になるのは当たり前だ」
「私、月に一度、ヴィルヘルム様にお会いできることだけが楽しみだったんです。ヴィルヘルム様だけが、私を心配してくれて、私のためにお土産を持ってきてくれて」
クラウディアの心がじんわり熱くなる。今日のヴィルヘルムは知らない人間のような気がして怖かったが、ヴィルヘルムはヴィルヘルムなのだ。いつだってクラウディアを気にかけ、心配してくれた、たった1人の人物。それを思い出して、クラウディアの秘部がきゅんと締まった。
「……っ、」
ヴィルヘルムが顔を顰めた。
「……クラウディア、なにが言いたい?思い出話をしてこの行為をやめさせたいのか」
「……いいえ、違います。ただ、気付いたんです。私、きっと、ヴィルヘルム様のことが好きなんだって」
クラウディアの言葉に、ヴィルヘルムの瞳が見開いた。
「……ヴィルヘルム様。私との子を望むということは、私をヴィルヘルム様の妻にしてくださるのですか?」
「もとよりそのつもりだ。私の妻は、クラウディア以外考えられない」
「……嬉しい、です」
その日初めてクラウディアが笑った。ヴィルヘルムはなにかを堪えるような表情を浮かべている。少し間があった後、止まっていた抽送がゆっくりと再開された。
「っ、あっ、ヴィルヘルム様……」
「私も嬉しいよ、クラウディア。でも、君の言葉を疑うわけではないが、……実感が湧かないな」
しかし言葉とは裏腹に、ヴィルヘルムの目は喜びで満ちていた。クラウディアの細腰を抱き、更に奥へ奥へと挿入していく。
やがて、こつん、とヴィルヘルムの先端が腹の奥に届いた。クラウディアの体が悦びでぶるりと震えた。
「あっ、っ、ヴィルヘルム様のものがっ……」
むず痒くて、もどかしくて堪らなかったそこを、ヴィルヘルムのそれが刺激した。あぁ、これが欲しかったんだと、クラウディアは自覚して、軽く達してしまった。
「……今、私に教えずイってしまったね?」
「っ、あ、ちが、今のは予想してなくてっ……」
「悪い子だね、クラウディア」
ヴィルヘルムは決して怒ってはいない。それどころか少し楽しそうですらある。
「ヴィルヘルムさま、……ごめんなさい……」
「……怒っているわけじゃないんだ。ただ、君があんまり可愛いから意地悪したくなっただけだ」
ヴィルヘルムの黒い目がぎらぎらと光っていて、クラウディアの背中がぞくりと熱くなる。男の昏い欲望をつぶさに感じてしまって、その拍子にまた達しそうになった。クラウディアは、ぐ、と喉を詰める。
「っ、ヴィルヘルムさま、また、イ、っく……」
今度は宣言してからイくことができた。足の爪を丸くさせ、きゅうう、とクラウディアの中が締まる。ヴィルヘルムが小さな呻き声をあげた。
「……偉いね、今度はちゃんと私に教えてからイけたね。……それじゃあクラウディア、これも、解いてあげようか」
ヴィルヘルムが、クラウディアを拘束していた布をようやく解いてくれた。自由の身となったクラウディアは、解放された両腕を、おずおずとヴィルヘルムの体に回した。
「あぁ、クラウディア。私は今、とても幸せだ」
声色に嘘はなかった。うっとり告げるヴィルヘルムに、クラウディアも嬉しくなる。
「……私もです、ヴィルヘルム様」
またクラウディアの中が締まった。クラウディア自身も、自分のそこが、ヴィルヘルムのそれを締め付けていることを理解していた。
「……クラウディア、君の体を思うならもう少し待つべきだとは思うんだが、もうそろそろ動いても構わないだろうか」
クラウディアが締め付けるたびにヴィルヘルムは顔を顰めていた。きっと我慢の限界なのだろう、クラウディアは、頷いてみせた。
「痛かったらすぐに言うんだよ」
言葉通り、クラウディアが痛いと言えば、ヴィルヘルムはすぐに動くのを止めてくれるだろう。だからクラウディアは安心して、ヴィルヘルムに体を預けることができるのだ。
*
「あっ……!やっ、あっ、ぁっ、ああっ……!」
あれからヴィルヘルムはすぐにクラウディアの中で果ててしまった。しかしそんなことなんのその、ヴィルヘルムのそれはすぐに硬度を取り戻した。2回目も真正面から抱き、クラウディアの中で果てた。しかしそれでもヴィルヘルムのそれは衰えない。今度は後ろからクラウディアを犯していた。
「あっ、ヴィルヘルムさまっ、あっ、ぁっ、あっ」
クラウディアの蜜と、ヴィルヘルムの精が混じり、結合部はどろどろになっていた。それが更に滑りを良くし、一層快楽を引き立たせる。先程まで処女だったはずのクラウディアは、男のそれによがり狂っていた。
「っ、あっ、イきますっ、ヴィルヘルムさま、いくいくっ、ぅぅっ……」
最奥を突かれ、クラウディアが絶頂に達した。きゅううう、と中が締まり、クラウディアの体は硬く硬直する。腹の奥が震えて、快楽が弾けて、けれどヴィルヘルムは、クラウディアを翻弄するように、震える腹の奥に自身の陰茎をぐりぐりと押し付けた。
「あっ……!やだっ、やだぁ、ヴィルヘルムさまぁっ……今ぐりぐりするのやめてぇっ……」
快楽の波が引かない。目の前でちかちかと光が弾けては消えていく。過ぎた快楽が怖くて、逃げたくなって、クラウディアは必死に腕を伸ばしてヴィルヘルムから逃れようと足掻く。
「……逃げるな」
しかしヴィルヘルムがそれを見逃すはずもない。
大きな手がぬっと伸びて、空を掻くクラウディアの手を絡め取ってしまう。逃げるな。その言葉を体現するように、クラウディアの小さな手に指を絡めて、きつく握りしめた。
「……なぁクラウディア、君は不思議に思わないか」
なにを思ったのか。ぐりぐりとクラウディアの最奥を犯し続けながら、ヴィルヘルムはゆったりと言葉を紡ぎ始めた。
「これだけ君を愛する私が、なぜ君の目を潰さないと思う?君の瞳に私以外の男が映るなんて、考えただけで腑(はらわた)が煮え繰り返る。もちろん君の父とて例外ではない。そうまで君を想っているのに、なぜ目を潰さないと思う?」
しかしクラウディアにはもう、ヴィルヘルムの言葉を理解する理性は残されていなかった。絶頂がいつまでも引かず、ヴィルヘルムに囚われたまま、体を痙攣させることしかできない。
「君の瞳がそうして快楽で蕩けているところを見たいからだよ。では、なぜ私が君の腕や足の腱を切らないかはわかるか?舌を引き抜かない理由がわかるか?」
ヴィルヘルムは器用な男だ、空いた片手をクラウディアとシーツの間に滑りこませて、ぴんと立つクラウディアの陰核を優しく撫でた。声にならない悲鳴をあげて、クラウディアがシーツに顔を埋めた。いやいや、と首を振っているが、ヴィルヘルムはお構いなしにクラウディアを犯し続ける。
「君が私を求めて必死に腕を伸ばすのを見るのが、君が私の姿を見て駆けつけるのが、君の可愛らしい声が私の名を呼ぶのが、なによりも好きだからだ」
ヴィルヘルムは笑う。
「でも、そうだな、その瞳が私以外の男を映して、その足が私以外の男に向けて駆け出し、その腕が私以外の男を求め、その舌が私以外の男の名を紡いだらどうしようか」
悩ましげに、けれどどこか楽しげにヴィルヘルムは笑う。
「……、……なぁ、クラウディア。私からしてみればね、君の目を潰すことも、足と腕の腱を切るのも舌を引き抜くのも、別に造作もないことなんだよ。だからクラウディア、……五体満足でいたいと思うのなら……もう私から逃げられると思うなよ」
ヴィルヘルムが、クラウディアの柔らかな耳たぶを前歯で噛んだ。それから耳の形をなぞるように舌先でなぞりあげる。クラウディアの細い体が跳ねた。散々暴かれた体は、それっぽっちの刺激すら快楽へと変換してしまうのだ。
「逃げると言うのなら、地の果てまで追ってやる。君がどこに隠れていようと必ず見つけ出す。どんな手を使ってでも君を奪い返す。君がどんなに嫌だと言っても、君を必ず捕らえてみせる」
イきっぱなしのクラウディアの中は、精を求めるようにずっとうねり続けている。さすがのヴィルヘルムも限界が近く、射精したい衝動を堪えながら、万感の思いでクラウディアに囁いた。
「愛しているよ、クラウディア」
*
独身を貫いていたヴィルヘルム・リヒター侯爵が結婚した。その知らせは、すぐに社交界を轟かせた。
相手は誰だとすぐに探りが入った。が、ほとんどの貴族がクラウディアのことを知らなかった。振興の男爵家出身だから、名が知れていなかったんだろう。大部分の貴族はそれで納得したが、一部の貴族は、ヴィルヘルムの妻の名前を聞いてなぜだか顔を真っ青にさせたという。
侯爵が男爵令嬢を嫁にするなんて、という声も上がったが、それもすぐに収まった。
ヴィルヘルムが初めてクラウディアと共に出席した夜会。その夜会で、ヴィルヘルムの、クラウディアに対する溺愛ぶりを目の当たりにしてしまったからだ。
貴族達の揃う夜会だというのに、暇さえあれば、ヴィルヘルムは蕩けそうな顔でクラウディアを見つめていた。黒曜石の瞳はチョコレートのように甘く、優しく、それでいてどこか色気を孕んでいて、見ている方が恥ずかしくなるほどだった。常にクラウディアの腰を抱き、クラウディアが視線を動かせば、ヴィルヘルムも同じ方向を見る。クラウディアがなにかを話し始めれば、その長身を降り、本当に嬉しそうな様子で話に耳を傾ける。周囲の人間なんていないような素振りで、誰も見たことがない、とろけるような笑顔をクラウディアに向けていたのだ。
更に、クラウディアに挨拶する男がいたのなら、蕩けそうな瞳などどこへいったやら、肉食獣のような獰猛さを秘めて男と対峙する。逆に令嬢や夫人がヴィルヘルムへ近づけば、足蹴にすることこそなかったが、クラウディアに対するそれとは明らかに違う、温度の低い対応をされてしまった。
ああも見せつけられてしまっては、誰も文句は言えまい。身分差が、なんていう声も、瞬く間に無くなってしまった。
時を同じくして、社交界において影響力を持っていたヤコビ侯爵が隠居してしまった。持病が悪化し、やむを得ず侯爵の立場を引退……ということらしかった。
ヤコビ侯爵の名は長男が継いだ。しばらくヤコビ侯爵家は不安定だな、と方々が囁いていると、一体なにがあったのか、あれだけ敵対していたリヒター侯爵と関係を改善したいとの申し出まで出してきたのだ。
息子はともかく、あの、先代のヤコビ侯爵がそんなことを許すなど有り得るのだろうか。侯爵は持病の悪化などではなく、気が狂ったのかもしれない。まことしやかに囁かれたが、真相は闇の中だった。
その裏で、クラウディアの生家たるペテルセン男爵家が事業に失敗。ひっそりと取り潰されたが、ヤコビ侯爵の話題に負け、噂話にすらならなかった。
時折、ヴィルヘルムの屋敷の地下からは、若い女と、それに、男女の悲鳴が聞こえてくる。
だが、ヴィルヘルムに溺愛され、ヴィルヘルムという籠に囚われたクラウディアは気付かない。それに、クラウディアは念願の第一子を授かっていたのだ。思いの外つわりが酷かったクラウディアは、他のことに目をかける余力がなかったともいえる。
しかし今日のクラウディアは調子が良かった。ベッドに腰掛けて、大きくなってきた腹をさすっていると、ヴィルヘルムに後ろから抱きしめられた。クラウディアの手に、ヴィルヘルムの手が重なる。
「一体どんな子が産まれるのでしょうね」
「言っただろう、私と君の子であれば、どんな子だって可愛いと」
地下から誰かの悲鳴が上がった。
だがクラウディアの耳には届かない。
悲鳴など聞こえないクラウディアは、少し振り向いて、愛おしそうに自身を見つめるヴィルヘルムに、優しく笑ってみせた。
「……愛しています、ヴィルヘルム様」
「私もだよ。——愛しているよ、クラウディア」
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