AR Chronicle

黒鳥カラス

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第1章―放課後のログイン―

森の異常

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 森は、ただの森ではなかった。
 朝の光が差し込んでいるはずなのに、枝葉の間からこぼれる陽射しはどこか濁って見える。霧が漂い、視界は徐々に曖昧になり、木々の影は生き物のように揺れ動いた。

 陽斗は剣を腰に下げながら、足音を殺して進む。耳の奥で血の音が響き、息が荒い。
(落ち着け……これはただの“ゲーム”だ。そう思わなきゃ……でも——)

 胸の奥でざわつく感覚を否定できなかった。
 先ほどの村人たちの視線が、棘のように心に刺さっている。
「災厄を呼ぶ者」——その言葉が、頭から離れない。

 背後から、美咲のか細い声が届いた。
「……ねえ、本当に大丈夫かな。この先に行って……戻ってこられるのかな」

 振り返ると、美咲は不安げに唇を噛んでいた。
 彼女の手は杖を握りしめているが、指先が白くなるほど力が入っている。
 その姿に、陽斗は胸が締め付けられる。
(俺が引っ張ってやらなきゃいけないのに……不安にさせてどうするんだよ)

「大丈夫だ」
 声が少し震えたのを悟られまいと、陽斗は真っ直ぐ彼女を見つめた。
「俺たちが一緒なら、きっと……どんな敵だって倒せる」

 美咲は一瞬目を丸くし、そして小さく笑った。
 だが、その笑みはすぐに曇る。
「……でも、現実で死ぬかもしれないんでしょ? もし陽斗や蓮くんに何かあったら……」

 言葉はそこで途切れた。
 彼女の心に広がる恐怖は、言葉以上に痛いほど伝わってくる。

「甘えるなよ」
 鋭い声が横から割り込んだ。蓮が冷たく言い放ち、前を歩き続ける。
「死ぬかもしれない? そんなの最初からわかってたことだ。怖いからって足を止めたら、本当に死ぬだけだ」

 陽斗は眉をひそめる。
「蓮……少し言いすぎだろ」

 しかし蓮は振り返らず、低く呟いた。
「——俺はな、もう迷わない。ここで強さを掴まなきゃ、俺の居場所なんてどこにもないんだ」

 その声には、焦燥と決意が入り混じっていた。
 陽斗は胸の奥がざわつくのを覚える。
(蓮……お前も不安なんだろ。それを隠すために強がって……)

 ふいに、森の奥から低い唸り声が響いた。
 霧の中に、異様な影が揺らめく。獣のような形だが、その輪郭は溶けるように不鮮明で、まるで幻影のようだった。

「来るぞ!」
 陽斗が叫び、剣を構える。

 次の瞬間、影が飛び出した。
 獣とも幽霊ともつかない、歪んだ存在。
 その眼窩の奥には炎が揺らぎ、視線を合わせた瞬間、背筋を氷の刃で撫でられたような感覚が走る。

「ひっ……!」
 美咲が声を詰まらせ、杖を構える。

 蓮は槍を低く構え、目を細めた。
「……やっと来たな。恐怖を押し付けてくる化け物か……上等だ」

 陽斗は唇を噛みしめ、仲間の前に立つ。
 恐怖に足がすくみそうになるが、心の奥で小さな声が囁いた。

(俺が守らなきゃ。——この二人を、絶対に)

 森の異常は、ただの罠ではない。
 それは仲間たちの心を削り、信頼を試す試練そのものだった。
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