【完結】王太子の裏切りを目撃して婚約破棄を自ら突きつけた令嬢が、再婚先の辺境伯に「二度目はさせない」と甘く誓われました

積野 読

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 二度目は、長かった。

 繋がったまま、ラシードの体が起き上がった。私の腰を抱えて、向き合う形に引き寄せた。ラシードの膝の上に座らされた。三日前と同じ——私が上。でも三日前とは違う。あの時は自分で動いた。今はラシードの右手が腰骨を掴んで、動きを決めている。

 ゆっくりと腰を持ち上げられて、降ろされた。奥まで入る。一度目の余韻が残っていて、体の中が敏感になっている。浅く引いて、深く入れる。同じ速度で。焦らない。一度目の乱暴さが嘘のように——丁寧だった。一突きごとに確かめるような動きだった。ここにいる、と。ここにいるのだ、と。

 体の奥が、もう一度甘く締まった。一度目で解けきった体が、二度目の刺激を余計に拾う。腰を落とすたびに、とろりとした熱が繋ぎ目から溢れて、ラシードの太ももを濡らしていく。

「あ……ん……」

 名前は——もう漏れなかった。噛み殺した。唇を噛んで、歯形がつくほどに。でも体は殺せなかった。腰が勝手にラシードの動きに合わせていた。二度目なのに。二度目だから。体が覚えていた。どの深さで、どの角度で、いちばん甘く溶ける場所に当たるかを。

 ラシードの額が私の胸に触れていた。息が荒い。傷が痛いはずだ。それでも腰を止めない。右手一本で私の体を支えて、動かして、奥を突き上げている。

 果てたとき、声も出なかった。声の代わりに涙が出た。なぜ泣いたのか分からない。痛くもない。悲しくもない。ただ、体の奥で何かが溢れて、止められなかった。ラシードも同時に果てた。二度目の熱が、体の奥に広がった。

 ラシードの指が、涙を拭った。

「……砂か」

 笑っていた。この人が笑うのを見るのは、数えるほどしかない。口の端が少しだけ上がって、目が細くなる。不器用な笑い方だった。

「砂です」

 四度目の嘘だった。もう嘘だと二人とも知っている。知っていて、嘘を受け入れている。

 繋がりが解けた。体から離れた瞬間、冷たい空気が入り込んだ。太ももを熱いものが伝った。恥ずかしかった。でも拭く気力がなかった。

 横たわったまま、天井を見ていた。ろうそくの灯が壁に長い影を作っている。ラシードの呼吸が、隣で落ち着いていくのが分かる。左肩の包帯が汗と——別のもので湿っている。替えなければ。

「……包帯」

「いい」

「よくありません。傷口が——」

「いい。動くな」

 右腕が伸びてきて、私の頭を引き寄せた。胸の上に。心臓の音が聞こえた。まだ少し速い。三日前の夜と同じ場所だった。あの時は私が上にいた。今は横に並んでいる。

 髪を梳く指が、ゆっくりと動いていた。

「……三つ」

 ラシードが言った。

「何がですか」

「名前だ。途中までだが——聞こえた」

「空耳です」

「耳はいい方だ」

 黙った。否定し続ける気力もなかった。この人の胸の上で、この人の心臓の音を聞きながら、嘘をつくのは——もう、疲れた。

 眠ったのか起きていたのか分からない。目を開けたとき、窓の外が白みかけていた。ラシードの腕の中にいた。裸のまま。毛布がかかっていた。いつかけたのだろう。私ではない。

 体を起こした。ラシードの腕が、一瞬きつくなった。離したくない、という力だった。3秒。4秒。——離した。

 服を拾った。着た。髪を手で整えた。鏡がなくても分かる。頬に涙の跡がある。首に、噛み痕がある。

「……おはようございます、辺境伯」

 丁寧語を、積み直した。

 ラシードは目を閉じたままだった。起きているのか寝ているのか分からない。返事がなかった。

 扉を開けた。廊下に出た。朝の光が、石の壁を白く照らしていた。春だった。雪解けの匂いがする。冬は終わりかけている。

 歩いた。自分の部屋に向かって。足音が、一人分だけ響く。

 ——呼んだ。

 呼んでしまった。三つの音が、あの人の耳に届いた。空耳ではない。砂でもない。私の喉から、私の唇から、あの人の名前が出た。

 否定した。空耳だと言った。でも。

 ——呼びたかったのだ、私は。

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