これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~

黒鴉そら

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3 未婚女性ゼロを目指します

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 相思相愛の場合は手を出すことはなかったがそれ以外の獣人とソリティア国の婚約はひっそりと解消するように手を回した。
「まぁ! そうなんですの。残念なことですね。そうだ! 私が良い縁談をご用意致しますわ。あと、もし他にも困っている方がいたらご紹介願えますか? ありがとう。ええ、私が持てる全てを使って縁付けて差し上げますわ」
 『私が持てる全てを使って縁付けて差し上げますわ』とは最近のクリスティーヌがよく言う言葉である。
 続けて、一人残らず結婚させるという言葉も内々では多い。
 獣人国コゼには譲らない。強い意思を持っていた。
 なぜここまで執拗に獣人の結婚を邪魔して回るのか、それはひとえにイディナが受けた屈辱への報いの気持ちだった。
 イディナ本人はソリティア国で穏やかに暮らし、なんだか顔の良い護衛騎士と良い感じであることや心優しい性格のためやり返してやろう、復讐してやろうという気持ちは微塵もない。
 しかしクリスティーヌはその逆。執念深く、プライドが高かった。
 クリスティーヌにとってイディナは憧れの存在。彼女が受けた傷はクリスティーヌの傷のように感じていた。
 二人は年の近い王族で、何度か面識があった。
 今でこそ人並み以上になんでも器用にこなすクリスティーヌだが、幼少期は得意なことなど何一つなくひっそり泣くことも多かった。
 その頃のイディナはコゼとの縁談が結ばれて以降、自国のルメットから住居を移して王妃教育を受けていた。
 初めてあったイディナは綺麗なカーテシーを披露し、お茶会のマナーも完璧だった。
 イディナは16歳でクリスティーヌは14歳。もしクリスティーヌがイディナと同じ、あるいは早く生まれていたら立場は逆だったかもしれない。
 王女としての教育は厳しいけれど、兄二人がいるクリスティーヌは国を継ぐことはないため自国でぬくぬくと育っていた。
 一方でイディナは家族と引き離され、婚約者の国でクリスティーヌよりも厳しい教育を受けているのだ。
 そのことに気づいてからはクリスティーヌの勉強への意識は変わり、第一王女として恥じない女性へと成長していった。
 憧れ、感謝、そして勝手に自分の半身のような思いでいたクリスティーヌはイディナの境遇を自身のことのように思っていた。
 もしかしたらの人生。
 そして自分の憧れの女性を虐げた男を簡単に許せるほど慈悲深くはなかった。
 怒りはエリリックだけではない。エリリックの考えを肯定する、獣人の国すらもクリスティーヌにとっては怒りの対象だった。

 ……そんな彼女の元へ獣人貴族がやってきた。何度目かのパーティーを経ても婚約者ができず、その原因へと至らないまま、仲人の評判が高いクリスティーヌへ助けを求めに来たのだ。
 もしかして結婚できないのでは?と怯える獣人男子がアドバイスを求めるも「あら? 獣人には番がいらっしゃるでしょう?」とだけ言ってかわされた。
「わたくし、可哀想だと思いますの。番以外と結婚して、後に番が現れたときにあなた方獣人はどうしますの? 妻を切り捨てて番と再婚でもしますの?」
「そ、そんなことは!」
「ですがそれがありうる、と。私は殿下の誕生パーティーで確信いたしましたわ。責めているわけではありませんのよ? 種族として番を大事にするのは本能のようなものでしょうから、仕方がないのでしょう。浮気者を庇うという文化なのでしょうから」
「浮気などでは!」
「浮気、でしょう? 少なくとも私はそう感じましたわ。浮気をしておいて、婚約者が悪いと切り捨てるのが獣人なのだと、私は判断しました。殿下おひとりの意見なのかと思ったら獣人は基本的にそのような考えなのでしょう? 誰一人として会場では殿下を責める声も、イディナ様を慰める声も聞きませんでした」
 ──ですから。
「不幸を繰り返さないために、考えましたの。いわゆる棲み分けですわ」
「……棲み分け?」
「はい。獣人は獣人同士、あるいは番とのみ結婚をする。人間は人間同士、あるいは人間じゃなくとも獣人以外でしたら基本問題はないのでしょう。番というのは獣人独特の本能らしいですから。ああ、貴族以外に私は介入致しませんわ。……ですが貴族から噂が広がっているようで、平民にも獣人の恋人を振る人間が増えているとか、いないとか。大変ですわねぇ、結婚できるのかしら?」
 頬に手を当て、悲しそうに眉を下げるクリスティーヌ。表情だけ見れば同情する優しい女性に見える。けれどあまりにも棘のある言葉によって、さすがの彼らも気づいてしまった。
 ──クリスティーヌこそが、自分たちの結婚を邪魔している原因なのだと。
 ぐぬ、ぐぬぬ。怒りによって腕を振るわせる獣人たち。
 それを見ながら「あら」なんて楽しそうに笑うクリスティーヌ。
 もしこの場で暴力を振るわれたら、なんて微塵も考えていない表情。
 それもそのはず。彼女の婚約者でもあり、長年彼女の護衛騎士でもある青年がすぐ隣にいるのだから。
 彼女への危害は認められない。
 パーティーの参加者として武器を持ってはいないものの、素手でもクリスティーヌを守る自信がアランにはあった。
 それだけの実力と実績がある。
「ふーっ、ふーっ!」
「お、落ち着け! すみません、クリスティーヌ様、我々は失礼致します」
「ええ。ごきげんよう」
 いっそ穏やかな声色は煽っているようだ。仲間が興奮したことで却って冷静になった者が興奮状態の友人を抑え、外交問題にならないように会場を出た。
 理知的な獣人の頭には、早く国に帰ってこの問題を伝えなければという気持ちでいっぱいだった。
 これは自分たちだけの問題ではない。
 獣人の存続にも関わる、大きな問題だ。

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