4 / 7
3 未婚女性ゼロを目指します
しおりを挟む
相思相愛の場合は手を出すことはなかったがそれ以外の獣人とソリティア国の婚約はひっそりと解消するように手を回した。
「まぁ! そうなんですの。残念なことですね。そうだ! 私が良い縁談をご用意致しますわ。あと、もし他にも困っている方がいたらご紹介願えますか? ありがとう。ええ、私が持てる全てを使って縁付けて差し上げますわ」
『私が持てる全てを使って縁付けて差し上げますわ』とは最近のクリスティーヌがよく言う言葉である。
続けて、一人残らず結婚させるという言葉も内々では多い。
獣人国コゼには譲らない。強い意思を持っていた。
なぜここまで執拗に獣人の結婚を邪魔して回るのか、それはひとえにイディナが受けた屈辱への報いの気持ちだった。
イディナ本人はソリティア国で穏やかに暮らし、なんだか顔の良い護衛騎士と良い感じであることや心優しい性格のためやり返してやろう、復讐してやろうという気持ちは微塵もない。
しかしクリスティーヌはその逆。執念深く、プライドが高かった。
クリスティーヌにとってイディナは憧れの存在。彼女が受けた傷はクリスティーヌの傷のように感じていた。
二人は年の近い王族で、何度か面識があった。
今でこそ人並み以上になんでも器用にこなすクリスティーヌだが、幼少期は得意なことなど何一つなくひっそり泣くことも多かった。
その頃のイディナはコゼとの縁談が結ばれて以降、自国のルメットから住居を移して王妃教育を受けていた。
初めてあったイディナは綺麗なカーテシーを披露し、お茶会のマナーも完璧だった。
イディナは16歳でクリスティーヌは14歳。もしクリスティーヌがイディナと同じ、あるいは早く生まれていたら立場は逆だったかもしれない。
王女としての教育は厳しいけれど、兄二人がいるクリスティーヌは国を継ぐことはないため自国でぬくぬくと育っていた。
一方でイディナは家族と引き離され、婚約者の国でクリスティーヌよりも厳しい教育を受けているのだ。
そのことに気づいてからはクリスティーヌの勉強への意識は変わり、第一王女として恥じない女性へと成長していった。
憧れ、感謝、そして勝手に自分の半身のような思いでいたクリスティーヌはイディナの境遇を自身のことのように思っていた。
もしかしたらの人生。
そして自分の憧れの女性を虐げた男を簡単に許せるほど慈悲深くはなかった。
怒りはエリリックだけではない。エリリックの考えを肯定する、獣人の国すらもクリスティーヌにとっては怒りの対象だった。
……そんな彼女の元へ獣人貴族がやってきた。何度目かのパーティーを経ても婚約者ができず、その原因へと至らないまま、仲人の評判が高いクリスティーヌへ助けを求めに来たのだ。
もしかして結婚できないのでは?と怯える獣人男子がアドバイスを求めるも「あら? 獣人には番がいらっしゃるでしょう?」とだけ言ってかわされた。
「わたくし、可哀想だと思いますの。番以外と結婚して、後に番が現れたときにあなた方獣人はどうしますの? 妻を切り捨てて番と再婚でもしますの?」
「そ、そんなことは!」
「ですがそれがありうる、と。私は殿下の誕生パーティーで確信いたしましたわ。責めているわけではありませんのよ? 種族として番を大事にするのは本能のようなものでしょうから、仕方がないのでしょう。浮気者を庇うという文化なのでしょうから」
「浮気などでは!」
「浮気、でしょう? 少なくとも私はそう感じましたわ。浮気をしておいて、婚約者が悪いと切り捨てるのが獣人なのだと、私は判断しました。殿下おひとりの意見なのかと思ったら獣人は基本的にそのような考えなのでしょう? 誰一人として会場では殿下を責める声も、イディナ様を慰める声も聞きませんでした」
──ですから。
「不幸を繰り返さないために、考えましたの。いわゆる棲み分けですわ」
「……棲み分け?」
「はい。獣人は獣人同士、あるいは番とのみ結婚をする。人間は人間同士、あるいは人間じゃなくとも獣人以外でしたら基本問題はないのでしょう。番というのは獣人独特の本能らしいですから。ああ、貴族以外に私は介入致しませんわ。……ですが貴族から噂が広がっているようで、平民にも獣人の恋人を振る人間が増えているとか、いないとか。大変ですわねぇ、結婚できるのかしら?」
頬に手を当て、悲しそうに眉を下げるクリスティーヌ。表情だけ見れば同情する優しい女性に見える。けれどあまりにも棘のある言葉によって、さすがの彼らも気づいてしまった。
──クリスティーヌこそが、自分たちの結婚を邪魔している原因なのだと。
ぐぬ、ぐぬぬ。怒りによって腕を振るわせる獣人たち。
それを見ながら「あら」なんて楽しそうに笑うクリスティーヌ。
もしこの場で暴力を振るわれたら、なんて微塵も考えていない表情。
それもそのはず。彼女の婚約者でもあり、長年彼女の護衛騎士でもある青年がすぐ隣にいるのだから。
彼女への危害は認められない。
パーティーの参加者として武器を持ってはいないものの、素手でもクリスティーヌを守る自信がアランにはあった。
それだけの実力と実績がある。
「ふーっ、ふーっ!」
「お、落ち着け! すみません、クリスティーヌ様、我々は失礼致します」
「ええ。ごきげんよう」
いっそ穏やかな声色は煽っているようだ。仲間が興奮したことで却って冷静になった者が興奮状態の友人を抑え、外交問題にならないように会場を出た。
理知的な獣人の頭には、早く国に帰ってこの問題を伝えなければという気持ちでいっぱいだった。
これは自分たちだけの問題ではない。
獣人の存続にも関わる、大きな問題だ。
「まぁ! そうなんですの。残念なことですね。そうだ! 私が良い縁談をご用意致しますわ。あと、もし他にも困っている方がいたらご紹介願えますか? ありがとう。ええ、私が持てる全てを使って縁付けて差し上げますわ」
『私が持てる全てを使って縁付けて差し上げますわ』とは最近のクリスティーヌがよく言う言葉である。
続けて、一人残らず結婚させるという言葉も内々では多い。
獣人国コゼには譲らない。強い意思を持っていた。
なぜここまで執拗に獣人の結婚を邪魔して回るのか、それはひとえにイディナが受けた屈辱への報いの気持ちだった。
イディナ本人はソリティア国で穏やかに暮らし、なんだか顔の良い護衛騎士と良い感じであることや心優しい性格のためやり返してやろう、復讐してやろうという気持ちは微塵もない。
しかしクリスティーヌはその逆。執念深く、プライドが高かった。
クリスティーヌにとってイディナは憧れの存在。彼女が受けた傷はクリスティーヌの傷のように感じていた。
二人は年の近い王族で、何度か面識があった。
今でこそ人並み以上になんでも器用にこなすクリスティーヌだが、幼少期は得意なことなど何一つなくひっそり泣くことも多かった。
その頃のイディナはコゼとの縁談が結ばれて以降、自国のルメットから住居を移して王妃教育を受けていた。
初めてあったイディナは綺麗なカーテシーを披露し、お茶会のマナーも完璧だった。
イディナは16歳でクリスティーヌは14歳。もしクリスティーヌがイディナと同じ、あるいは早く生まれていたら立場は逆だったかもしれない。
王女としての教育は厳しいけれど、兄二人がいるクリスティーヌは国を継ぐことはないため自国でぬくぬくと育っていた。
一方でイディナは家族と引き離され、婚約者の国でクリスティーヌよりも厳しい教育を受けているのだ。
そのことに気づいてからはクリスティーヌの勉強への意識は変わり、第一王女として恥じない女性へと成長していった。
憧れ、感謝、そして勝手に自分の半身のような思いでいたクリスティーヌはイディナの境遇を自身のことのように思っていた。
もしかしたらの人生。
そして自分の憧れの女性を虐げた男を簡単に許せるほど慈悲深くはなかった。
怒りはエリリックだけではない。エリリックの考えを肯定する、獣人の国すらもクリスティーヌにとっては怒りの対象だった。
……そんな彼女の元へ獣人貴族がやってきた。何度目かのパーティーを経ても婚約者ができず、その原因へと至らないまま、仲人の評判が高いクリスティーヌへ助けを求めに来たのだ。
もしかして結婚できないのでは?と怯える獣人男子がアドバイスを求めるも「あら? 獣人には番がいらっしゃるでしょう?」とだけ言ってかわされた。
「わたくし、可哀想だと思いますの。番以外と結婚して、後に番が現れたときにあなた方獣人はどうしますの? 妻を切り捨てて番と再婚でもしますの?」
「そ、そんなことは!」
「ですがそれがありうる、と。私は殿下の誕生パーティーで確信いたしましたわ。責めているわけではありませんのよ? 種族として番を大事にするのは本能のようなものでしょうから、仕方がないのでしょう。浮気者を庇うという文化なのでしょうから」
「浮気などでは!」
「浮気、でしょう? 少なくとも私はそう感じましたわ。浮気をしておいて、婚約者が悪いと切り捨てるのが獣人なのだと、私は判断しました。殿下おひとりの意見なのかと思ったら獣人は基本的にそのような考えなのでしょう? 誰一人として会場では殿下を責める声も、イディナ様を慰める声も聞きませんでした」
──ですから。
「不幸を繰り返さないために、考えましたの。いわゆる棲み分けですわ」
「……棲み分け?」
「はい。獣人は獣人同士、あるいは番とのみ結婚をする。人間は人間同士、あるいは人間じゃなくとも獣人以外でしたら基本問題はないのでしょう。番というのは獣人独特の本能らしいですから。ああ、貴族以外に私は介入致しませんわ。……ですが貴族から噂が広がっているようで、平民にも獣人の恋人を振る人間が増えているとか、いないとか。大変ですわねぇ、結婚できるのかしら?」
頬に手を当て、悲しそうに眉を下げるクリスティーヌ。表情だけ見れば同情する優しい女性に見える。けれどあまりにも棘のある言葉によって、さすがの彼らも気づいてしまった。
──クリスティーヌこそが、自分たちの結婚を邪魔している原因なのだと。
ぐぬ、ぐぬぬ。怒りによって腕を振るわせる獣人たち。
それを見ながら「あら」なんて楽しそうに笑うクリスティーヌ。
もしこの場で暴力を振るわれたら、なんて微塵も考えていない表情。
それもそのはず。彼女の婚約者でもあり、長年彼女の護衛騎士でもある青年がすぐ隣にいるのだから。
彼女への危害は認められない。
パーティーの参加者として武器を持ってはいないものの、素手でもクリスティーヌを守る自信がアランにはあった。
それだけの実力と実績がある。
「ふーっ、ふーっ!」
「お、落ち着け! すみません、クリスティーヌ様、我々は失礼致します」
「ええ。ごきげんよう」
いっそ穏やかな声色は煽っているようだ。仲間が興奮したことで却って冷静になった者が興奮状態の友人を抑え、外交問題にならないように会場を出た。
理知的な獣人の頭には、早く国に帰ってこの問題を伝えなければという気持ちでいっぱいだった。
これは自分たちだけの問題ではない。
獣人の存続にも関わる、大きな問題だ。
1,091
あなたにおすすめの小説
番など、御免こうむる
池家乃あひる
ファンタジー
「運命の番」の第一研究者であるセリカは、やんごとなき事情により獣人が暮らすルガリア国に派遣されている。
だが、来日した日から第二王子が助手を「運命の番」だと言い張り、どれだけ否定しようとも聞き入れない有様。
むしろ運命の番を引き裂く大罪人だとセリカを処刑すると言い張る始末。
無事に役目を果たし、帰国しようとするセリカたちだったが、当然のように第二王子が妨害してきて……?
※リハビリがてら、書きたいところだけ書いた話です
※設定はふんわりとしています
※ジャンルが分からなかったため、ひとまずキャラ文芸で設定しております
※小説家になろうにも投稿しております
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
婚約を解消されたし恋もしないけど、楽しく魔道具作ってます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「君との婚約を解消したい」
「え? ああ、そうなんですね。わかりました」
サラは孤児で、大人の男であるジャストの世話になるため、体面を考えて婚約していただけだ。これからも変わらず、彼と魔道具を作っていける……そう思っていたのに、サラは職場を追われてしまった。
「甘やかされた婚約者って立場は終わったの。サラ先輩、あなたはただの雇われ人なんだから、上司の指示通り、利益になるものを作らなきゃいけなかったのよ」
魔道具バカなのがいけなかったのだろうか。けれどサラは、これからも魔道具が作りたい。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる