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冒険者たちの衝撃 ※モルト視点①

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 俺たちは中堅冒険者だ。
 強い魔物の討伐やお偉いさんの依頼をたくさん引き受ける上級者たちとは違い、地域密着型っつーか、一般市民のために依頼を受けることが多い。

 実力が伴ってないってのももちろんあるが、それが俺たちに合っているやり方なんだよな。チームメンバーも上を目指したいって思ってるヤツはいないから、気楽にやらせてもらってる。

 自分達の実力に合った依頼を受けて、そこそこの報酬を得て、いい仕事が出来た時はみんなで飲みに行って。自由で最高の暮らしを満喫してるんだ。

 俺たちが故郷であるギャレック領を出て、この王都で活動し始めて五年ほどが経つ。
 見聞を広めるためにここに来たんだが、王都は色んな物や人で溢れていて毎日が刺激的だ。
 無茶をしない方針だったのと、それなりに実力もあったことから、大きな揉めごとに巻き込まれることもなくそれなりにやってこれた。

 だが。物価は高いし、嫌味な貴族は多いし、そもそも人が多くて日常に忙しなさは感じていた。ギャレック領より稼げるのは確かなんだが……そろそろ故郷が恋しくなってきたというか。

「ねぇ。そろそろギャレック領に帰らない?」

 だからメンバーの一人、魔法士のコレットが飲み屋でそう言い出した時、そう思ってたのは自分だけじゃなかったんだってわかって思わず笑っちまったんだよな。
 見ればローランドやリタも同じように笑っていたから全員が同じ気持ちだったんだろう。

「やっぱり、あの街が丁度いいね。ここも活気はあるけどセカセカしてて落ち着きがないから」
「だよね? だよね!? お洒落なお店もあるし、夜中までずっと楽しいのはあるんだけど、気が休まらないっていうかさー」

 最初にリタが頬杖をつきながらそう言うと、すぐにコレットが調子のいいことを言い出した。こいつはいつもこうなんだが、本人には悪気がない。

「……コレットは、どこででもすぐ寝れるくせによく言う」
「何よローランド! すぐに寝れるのと気が休まることとは別なのっ!」

 いや、コレット。ローランドの言うことはその通りだと思うぞ。
 だがそれを俺も言うとまたギャンギャン喚かれるので黙っておく。うちのパーティーは舌戦になると男の立場が少しだけ弱いんだ。
 ローランドと目が合ったので、肩をすくめて苦笑してみせる。

 ま、こんなやり取りも慣れたもの。俺たちは同郷ってだけじゃなく、ガキの頃から一緒のいわば幼馴染。
 一番年上の俺がリーダーってことになってるが、正直なところ年齢なんか関係ないくらい気心知れた仲だ。まぁ、コレットは一番年下で俺と六つも違うんだから少しは敬う心を持ってほしいけどな!

「うし。ともかく、みんなギャレック領に戻りたいっていうのは同じってことでいいな?」

 さて、本題に戻ろう。俺たちの話し合いは全員同意見か半々に分かれるっていうどっちかになりがちなんだが、今回は全員一致したようで何よりだ。半々に意見が割れるとバチバチにやり合うことになっちまうからな!

 全員が賛成、と声を上げたところで話題は故郷のことへと移っていく。

「陽気な街並みが恋しいーっ!」
「いつでも危険と隣り合わせなんだっていう緊張感もいいんだよね」
「髑髏領主がいるから、ほぼ危険はないようなものだがな」
「その髑髏領主が一番怖いっていう話なんだけどねー。すごい人だよね、ほんと」

 俺たちの故郷、ギャレック領を収めるのは髑髏領主と呼ばれる少し変わった人物だ。強さは王国一だって噂されているし、それは事実なんじゃないかって思う。

 ただ、そのあまりの強さゆえに人を寄せ付けないところがあるのだ。
 ……いや、柔らかく言いすぎた。恐ろしい髑髏の仮面を被って魔圧を撒き散らす、ガチで人を寄せ付けない領主様だ。

 とはいえ、コレットの言う通りすごい人ではある。領地を治める手腕はもちろん、辺境の地ということでやたらとやってくる他国からの軍隊、その全てを追い返してしまえる力も持っている。
 彼が率いる髑髏師団は強者揃いで、陸海空の三部隊と魔法部隊、防衛部隊の五つに分かれており、どこから敵襲や魔物の群れが来ても難なく追い払ってしまう。
 おかげで領民は安心して生活を送れているってわけだ。

 だからこそ、恐ろしすぎるっていうのが髑髏領主の唯一の欠点といえる。

「そういえば、その髑髏領主がついに婚約者を決めたって話だったね」
「ね! ビックリしたよねー! だからこそそろそろ帰りたいなって思ったんだけど」

 そんな人がついに身を固めるらしいという噂を聞いた時は、みんなして耳を疑ったな。思わずその話題に俺も口を挟んだ。

「どんな人なんだろうな? だって、あの髑髏領主だぞ? ……並の女性では恐怖で隣に立つことさえ無理だろ」
「それなりに魔力耐性のあるあたしだって直視出来ないさ」
「いやいや気配を感じるだけでやばいって! だからこそさぁ……お相手が気にならない?」

 鍛えている男でさえ怯むんだ。平気で動けるのはそれこそ側近や髑髏師団の隊長クラスくらいだろう。お相手が気にならないわけがなかった。

「そう考えると、ますます帰りたくなってくるね。ぜひお嫁さんを見たい」
「領主様の結婚式となると、盛大にパーティーとかするよね! 地元民としては絶対に参加でしょー!」

 リタとコレットの二人が特に盛り上がっている。やはり結婚という話題は女性にとって特別なイベントなのかもしれない。それが自分のことではなくても。

「よし。それならただ帰るだけなのもなんだし、ギャレック領方面での依頼を受けながら向かうとするか!」
「それがいいな。距離もあるし、複数受けられればいいんだが」
「オッケー! じゃ、ちょうど良い依頼がないか見てこようよ!」

 そうと決まれば即行動するのが俺たちだ。テーブルに残っていた飲み物を一気に飲み干し、四人揃ってギルドへと向かった。
 ま、そうは言ってもちょうどいい依頼なんかそうそう見つからないモンだけどな!

「いやぁ、まさかこんなにお誂え向きな依頼があるとはねぇ……」
「ギャレック領までの護衛依頼なんて、まずないもんね。驚きぃ」

 と思っていたものの。ビックリするくらい俺たちの目的に合致した依頼がつい先ほど貼り出されたらしい。リタとコレットが口をポカンと開けて驚いている。

「しかも、依頼人は男爵令嬢か」
「貴族様かぁ。あんまり無茶を言わない人だったらいいなぁ……」

 コレットが少し嫌そうな顔をするのも無理はない。ここ王都で貴族の依頼っていうと、無茶なものだったり冒険者に対して態度が悪かったりする依頼主が多いからな。報酬が高くなければ受ける気にもなれない。
 少し金に困っている時か、今みたいにちょうど条件にピッタリ合っているってことでもない限りは避ける系の依頼ではあった。

 だが今回は、そんな心配はいらなさそうだ。依頼主の名前はいい意味で知られているんだから。

「そこはあまり心配いらないぞ。ギルド職員もめちゃくちゃ薦めてくれたからな。俺も名前と噂くらいは知ってる。ウォルターズ家なら何も問題ないってな! しかもギルドから話を通しておくから、後は俺たちだけで屋敷に向かえばいいってよ」
「えっ、お貴族様がそんなあっさりと一介の冒険者を屋敷に招いていいの!?」

 コレットの驚きは最もだ。大体は使用人がギルドに足を運ぶからな。本人のご登場は依頼の時か、下手したら一度も顔を見せることはない。

 だが、ウォルターズ家は薬をメインに扱う商家。どちらかというと一般市民寄りの気さくな貴族家だから、俺らに対する偏見もないのだろう。

「じゃ、二日後にウォルターズ家だな」

 これは天が帰郷しろと言っているのかもしれないな。俺たちはそう四人で笑い合った。
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