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136.パウダースノウからの挑戦(3)

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。
 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。
 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からのEITO出向。
 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁からのEITO出向。
 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
 草薙あきら・・・警視庁からのEITO出向。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
 渡伸也一曹・・・空自からのEITO出向。GPSほか自衛隊のシステム担当。
 夏目警視正・・・EITO副司令官。表向きは、夏目リサーチ社長。
 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。EITOに出向。
 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。喫茶店アテロゴのマスター。
 大文字綾子・・・伝子の母。時々、伝子に「クソババア」と呼ばれている。
 藤井康子・・・伝子達の隣人。料理教室を開いている。
 河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。
 久保田嘉三・・・管理官。久保田警部補の伯父。EITO前司令官。
 馬淵悦夫・・・マトリ捜査官。筒井が一時配属されていた時に一緒に捜査していた。
 市橋総理・・・現在の内閣総理大臣。伝子は個人的にSPを依頼されることがある。
 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==

 午後5時。伝子のマンション。
 高遠が、ため息をついていると、伝子が帰って来た。
 TVのニュースに、伝子はフリーズした。
「何だって?」伝子は、バイクのキーを台所に置くと、TVのニュースに釘付けになった。
 高遠は、横から解説した。「杉並区の工場社長が殺された。強盗殺人だ。例のリストに載っている。火はもうすぐ鎮火あるかも。ほぼ全焼だな。」
 言いながら、高遠は、例の「殺人予告リスト」を持って来て、赤く丸印をつけた。
 EITO用のPCが起動した。2人がディスプレイの前に移動すると、藤井が入って来て、2人の横に並んだ。
「お。藤井準隊員。仕事熱心だな。ニュースを見たかね?大文字君。」
 理事官が言うと、「今、見たところです。マスコミは五月蠅く言うでしょうね。」と伝子は応えた。
「初めての犠牲者だからな。6時から夏目君が、オンライン記者会見をしてくれる。私だと、つい反発してしまうかも知れないからな。先生から血圧硬化剤は処方して貰っているが。」
「無難ですね、理事官。ニュースでは鉄工所社長って言ってましたが。」と、伝子は言った。
「杉並区。亡くなったのは、磯村鉄工所の磯村任三郎。消防隊員が消火作業中に発見した。鑑識の結果を見ないと詳細は分からないが、頭部に殴られた形跡があり、凶器と思しき『狸の置物』が転がっていた。火の周りの速いことから、火を点けた後、殺害したのかも知れない、と消防は言っている。燃えやすい火種を使っているらしい。プロの仕業だな。警察と消防に任せて、今夜は本部に来なくていい。明日9時に会議を行う。警察は、3人の議員との接点を調査する方針だが、恐らく出ないだろう。リストが送られた時、知ってる人は、と情報提供を呼びかけたが、応答は無かった。今度は電話やメールだけでなく、Atwitter、Linen、Base book、New tubeでも情報提供を呼びかける。リストの該当者は、警察で必ず保護する、と約束をして。警察の方は、久保田管理官が午後7時にオンライン記者会見をしてくれる。」
「理事官。お願いが1つあるのですが・・・。」と、高遠は言った。
 午後6時。あるシネコン映画館。
 EITOのオンライン記者会見。記者達は、予め決められた席にインカムを着けて着席している。
 ステージのスクリーンには、夏目副司令官が映っている。
「臨時ニュースで既にご存じの通り、『殺人予告リスト』に載っている方が残虐な犯罪の犠牲者が出ました。誠に遺憾です。何故防げなかったとお怒りの方のお便りも多数伺っております。テロを防ぐのは、我々の仕事ではありますが、今までは何らかの『情報』を取得して上で対処しておりましたが、今回は情報が少なくお手上げ状態でした。言い訳になりますが、残念な結果になりました。そこで、伏してお願いがございます。後ほど、警察の情報窓口の連絡先を発表しますので、どうか情報をお寄せ下さい。リストの該当者の場合、警察が保護してくれます。また、お知り合いに似ているという情報であれば、警察が保護してくれるとお伝え下さい。よろしくお願いします。」
 質疑応答は簡単なものだった。多くは、『守れなかった』という非難だったが、まともな質問は『シンキチ』事件との関連だけだった。
『シンキチ』事件とは、当時の幹部、『幹』がシンキチという名前の人物に拘って、お名前カードのデータを元に人々を恐怖に陥れたものだった。
 今回は、『シンキチ』事件のような共通点が見当たらない。いや、まだ発見出来ていないのかも知れない。
 その『共通点』を発見した方は、やはり警察に連絡して欲しい、と夏目は頭を下げた。
 午後7時。シネコン映画館。
 今度は警察のオンライン記者会見。記者達は、予め決められた席にインカムを着けて着席している。
 ステージのスクリーンには、久保田管理官が映っている。
「まず、今回の被害者の情報ですが、今の所、ニュースで発表した通りです。司法解剖が済めば、詳しい情報が得られると思いますので逐次お知らせします。EITOの副司令官からの話にあったように、皆様の情報は、警察の方に一本化します。記者の方々の会社に情報が寄せられた場合、警察の『テロ対策室』の方にお知らせ下さい。また、各社に協力をお願いしたいのは、昨今TVを見ない人達もおられるので、お配りする連絡先を紙面に載せて頂きたい、と思います。今回、電話やメールだけでなく、SNSでの情報提供も受け付けております。また、リストの該当者の場合は、警察が責任を持って保護させて頂きます。どうか、ご協力頂きたい。それから、既に『怨恨とかは調べないのか?』と、お叱りのお便りも頂いておりますが、ダークレインボーと関係無く怨恨の犠牲になった場合も考えて捜査を進めて参ります。よろしくお願いします。」
 ここでも、大した質疑応答はなかった。犠牲者に関すること以外、情報がないのだ。当て推量で発言する者には、参考にさせて頂きます、とだけ久保田管理官は言った。
 午後8時。シネコン映画館。
 今度は総理が、総理官邸からオンライン記者会見を行った。
「亡くなった方には、お悔やみを申し上げます。既に対テロリスト会社のEITOからも、また、警視庁からも発表がありました通り、国民の皆様の幅広い情報と、お知恵が必要です。どうかご協力下さい。マフィアは、あの殺人予告リスト以外、動きがあまりありませんでした。今回のことを踏まえると、周到な準備の上、行動を起すのかも知れません。国民の皆様も、重ねて申し上げます。どうかご協力をお願い致します。」
 記者達は、映画館から引き上げて行った。
 その記者の1人を尾行する者がいた。筒井である。
 筒井は、ふいに肩を叩かれた。「馬淵か。脅かすなよ。」
「どうやら、ターゲットは同じようだな。一緒にやろう。」「いいだろう。」
 2人は、その記者を尾行し始めた。
 翌日。午前9時。伝子のマンション。
 チャイムがなったので、高遠が出ると、編集長が立っていた。編集長山村は、伝子の翻訳の仕事、高遠の小説の仕事を担当してくれている出版社の編集長で、今やDDファミリーの一員と言える人物だ。
 編集長が入って来ると、高遠のスマホが鳴動した。物部からのテレビ電話だ。
 高遠は、スピーカーをオンにした。「おはようございます、副部長。」
「高遠、単刀直入に言うよ。知り合いの社長が、あのリストに載っている。言われてよく見ると、似ている。悩んでいたが、昨日の記者会見を見て思い直したそうだ。10年位前の写真が使われたようだ。勿論、警察に連絡して、保護するように依頼した。」
「マスター。マスターの知り合いにもいたのね。実はね、私の知り合いもなの。それも、5人よ。」
「おはようございます、編集長。5人ですか、凄いなあ。」
「家でブルブル震えてて、私に相談してきたの。勿論、警察に電話して保護して貰ったわ。」
「決まりですね、2番目のキーワードは『社長』。中小企業の社長さんは、国会議員のように有名人じゃない。だから、リストを見てももしやとは思いにくい。パズルのようだ、とも言われたから、グループがあるんじゃないかと、僕は思うんです。」と、高遠は乾燥を言った。
「ああ、クロスワードパズルみたいな感じでね。最終的に文字を繋げると、答かヒントが出てくる。」
「その通りです。さすが、編集長。」「いや、さすが高遠だ。謎を解いて、EITOに貢献してやれ。もう準隊員なんだからな。それじゃな。」
 電話は切れた。「準隊員って?」「亡くなった副島さんの推薦で準隊員になりました。」
「そうよねえ、アナグラムとか解いて敵の裏かかせたものねえ。後は任せるわ。はい、宿題。どっちの仕事も急がないからね。まずは『人助け』よ。」
「ふうん。」綾子と藤井が顔を出して、頷いた。
 編集長は笑いながら帰って行った。
 午前9時半。EITO会議室。
「理事官。今、学からメールが入りました。物部の知り合いに1人、山村編集長の知り合いに5人、リストに載っている『社長』がいて、警察に届けて保護して貰ったそうです。」と、伝子が照れながら言った。夫である高遠の名前を下の名前で言うのは、初めてだった。
「河野事務官、後で問い合わせてくれ。国会議員が3人、亡くなった社長が1人、保護された社長が6人か。50人の内、10人を消し込めるな。」
「やっぱり50人全員が共通しているのは、『誰かが殺したいと思った人』だけで、職業や立場で共通点がない、ということになりますね。」と、草薙が言った。
「案外、街の社長さんが多いのかも。でも、殺したいと思う理由は大きくはなさそうね。」と、あつこが言った。
「あのう・・・。」と、新人の下條が手を挙げた。
「どうした、下條。言ってみろ。」と、理事官は言った。
「殺された社長って、何で恨まれてたんでしょう?殺したいって言う人がいた訳ですよね。ダークレインボーが殺したのなら、アリバイがあるのかも知れないけど。」
「いい質問だ。さっき、資料が届いた。磯村任三郎は、飲み屋のママを巡って、80歳の奥村耕史と揉めている。磯村は先月初め、常連である飲み屋「上弦の月」で、ママの中道淳子と冗談を言って笑っていると、後から来た、常連の奥村耕史が『お前、ママと出来ているのか』と言って、磯村に殴りかかってきた。喧嘩は他の客が仲裁に入って納めたが、磯村は左手首に怪我を負った。詰まり、磯村殺しは、奥村が一番の被疑者だ。ところが、今下條が言った通り、火災発生時、町内の班長会議があって、出席している。闇サイト『身代わり殺人』で知った相手に磯村の個人情報を渡した可能性がある、と警察では見ている。」と、理事官は応えた。
「草薙さん、奥村の金の動きは?」と、伝子が尋ねると、「資料のデータによると、預金に目立った入金出金はないそうです。尤も、『成功報酬』みたいな契約がないとは言い切れません。」と草薙は応えた。
「そんな、お爺ちゃんが・・・老いらくの恋?インターネット使えるのかしら?」
 あかりに対して、渡が「新町さん。男は死ぬまで性欲に支配・・・いや、恋をするものですよ。それに、スマホの普及で、高齢者のIT利用は増えてます。パソコンなくても、アプリと入力に慣れればいい話です。」と、注意した。
「つまり、渡辺が言った通り、50人中誰もが大きな復讐のターゲットとは限らないということだ。磯村の件のように痴話喧嘩程度のこともあり得る。休憩しよう。」と、理事官は閉めた。
 午前11時。休憩を挟んで、『国会議員』や『社長』以外の要素はないか、ブレーンストーミングをしたが、成果は芳しくなかった。
 午後1時。伝子のマンション。
 帰って来た伝子は高遠と綾子とで、ざるそばを食べていた。
「ねえ、婿殿。あのリストの写真。全員今の状態の写真とは限らないのよね。」「ええ。副部長の知り合いの社長さんも、10年位前の写真だから、似ている程度に思っていたとか。」
「指名手配の写真、変装しているかも、ってこの頃はこんな顔かもって、追加の写真を発表したりするわよね。ああ言うの出来ないの?」
「人数が限られて来たら、出来るかもね。たまには、いいこと言いますね、お義母さん。」
「たまには?酷い言い方。」「たまには、だよ。クソババア。でも、理事官に言っておくよ。」
「素直じゃない夫婦ねえ。」
 午後3時。綾子は帰って行った。久保田管理官用のPCが起動した。
「大文字君。今、EITOの方にも連絡を入れたが、大文字君の知り合いの知り合いの社長さん達。やはり、些細なことでもめ事が起きている。奥村耕史の行方はまだ分からないが、こちらの6人の相手は、軽い気持ちで闇サイトに投稿したそうだ。チェックボックスが幾つかと名前と電話番号を記入するだけで完了したと言っている。New tubeのバナー広告で一時的にリンクしていたそうだ。」
「善良な市民の素直な気持ちを利用した訳ですよね。敵のタイムリミットが分からないから、まだ犠牲者が出そうですね。」
「うむ。保護して危険から回避出来た人もいるから、記者会見の『突っ込み』には、そこを強調するさ。高遠君、まだ、いい知恵は出ないかね?」
「申し訳ありません。まだ糸口は見つかりません。あのリストに期限他のヒントが埋まっているのではないかと思うと、悔しい限りです。」
「まあ、焦って違う方向に向かってもいかんしなあ。ところで、記者会見で見付けた怪しい新聞記者だが、社員証は偽造されていた。そして、筒井からまだ連絡はない。高遠君が予期した、記者会見に現れた『枝』だということだ。」
 翌日。深夜1時。
 伝子は、揺り動かされて目が覚めた。目の前に、なぎさがいた。高遠も、びっくりして起きた。
「おねえさま。おにいさま。大変です。筒井さんが大怪我をしました。夜中に出動するのも大変なので、ジープでお迎えに上がりました。」
「まあ。」藤井がパジャマのまま、玄関に立っている。
 伝子と高遠は、急いで支度をした。藤井は、引き返した。2人が支度を終えて玄関まで来ると、藤井は黙って、おにぎりを出した。「戸締まりはしておくわ。」
「お願いします。」正しく藤井は家族同様だった。3人は、急いで駐車場に向かった。
 ―完―

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