106 / 111
106.浮気の代償
しおりを挟む
○月〇日。
「ちゃうねん、ちゃうねん。」お決まりの台詞や。往生際の悪い奴の決め台詞。
浮気調査で、現場に踏み込んだら、大抵の男が言う。
そうでない場合は、もっと巧みに浮気をしているんやろう。
前に、倉持に質問されたことがある。
「思いつかへんねやろ。しょうもない。」
今回の場合も、その台詞で逃げようとした。
女房の剣幕に、男は窓から飛び降りた。
「倉持、ここ何階やったっけ?」
「三階です。」倉持はもう救急車を呼ぶ為にスマホを取り出してプッシュしていた。
ふと見ると、女房は、相手の女を投げ跳ばしていた。
事務所に帰って、所長に報告をした。
倉持は書類仕事をしている。
すっかり、いつもの倉持や。来月、式を挙げるから、気持ちの整理がついたか。
「で?入院したんか。」「入院手続きしたら、女房が『半年位泊めておいて』って言って、看護師長に怒られてましたわ。『ウチはホテルちゃう。』って。」
「そら、言うわなあ。花ヤンとこは?」
「学歴詐称。噂通りでした。政治家やあるまいし。そこの社長も堅い。」
「体裁悪いんかなあ。まあ、クビにしたら一緒やけどな。」
「その社員、訴えたる!って。どっちもどっち。アホ臭い。」
「はい。提出しますで、学歴詐称。」と、横ヤンが横から書類を出した。
横ヤンは、トシの割りに書類仕事が早い。
「ほな、素麺食べたら解散。暑いしな。芦屋さんがな、余ったから言うて配達してくれたんや。余った風な包装ちゃうけどな。」
総子が珍しく、素麺の鍋やらつゆやらを、狭い食堂に用意した。
今日は、パートの事務員は遅い盆休みや。
「お嬢。今日はEITOはええのん?」
「今日は訓練日。訓練ない人は休み。兄ちゃん自分専用のホバーバイク届いたから、乗り回して喜んでる。自転車に初めて乗った子供みたいに。」
「自転車、初めて乗れた時は感動やったなあ。ウチは一番遅かったから。」と、横ヤンが意外なことを言った。
「いつも友達のんを見学。寂しいもんやで。」
午後7時。俺の自宅の夕食も、冷や麦やった。
夏の定番やな。
「ウチも一番遅かったから、横山さんの気持ち分かるわ。大体、乗せてくれへんねん。持ってる子。」
「まあ、そんなもんかな。俺は姉ちゃんの『お下がり』やったからなあ。ようワコ乗せて走った。」
「あんた。本気で『浮気』してもええよ、ワコちゃんなら。ウチよう産まんし。」
「お前まで。怒るで、しかし。子供、『里子』でもええやん。お前はようやってるで。総子やないけど、『二足の草鞋』、オカミサンと女将さん。」
「日記につけとくわ。」
―完―
「ちゃうねん、ちゃうねん。」お決まりの台詞や。往生際の悪い奴の決め台詞。
浮気調査で、現場に踏み込んだら、大抵の男が言う。
そうでない場合は、もっと巧みに浮気をしているんやろう。
前に、倉持に質問されたことがある。
「思いつかへんねやろ。しょうもない。」
今回の場合も、その台詞で逃げようとした。
女房の剣幕に、男は窓から飛び降りた。
「倉持、ここ何階やったっけ?」
「三階です。」倉持はもう救急車を呼ぶ為にスマホを取り出してプッシュしていた。
ふと見ると、女房は、相手の女を投げ跳ばしていた。
事務所に帰って、所長に報告をした。
倉持は書類仕事をしている。
すっかり、いつもの倉持や。来月、式を挙げるから、気持ちの整理がついたか。
「で?入院したんか。」「入院手続きしたら、女房が『半年位泊めておいて』って言って、看護師長に怒られてましたわ。『ウチはホテルちゃう。』って。」
「そら、言うわなあ。花ヤンとこは?」
「学歴詐称。噂通りでした。政治家やあるまいし。そこの社長も堅い。」
「体裁悪いんかなあ。まあ、クビにしたら一緒やけどな。」
「その社員、訴えたる!って。どっちもどっち。アホ臭い。」
「はい。提出しますで、学歴詐称。」と、横ヤンが横から書類を出した。
横ヤンは、トシの割りに書類仕事が早い。
「ほな、素麺食べたら解散。暑いしな。芦屋さんがな、余ったから言うて配達してくれたんや。余った風な包装ちゃうけどな。」
総子が珍しく、素麺の鍋やらつゆやらを、狭い食堂に用意した。
今日は、パートの事務員は遅い盆休みや。
「お嬢。今日はEITOはええのん?」
「今日は訓練日。訓練ない人は休み。兄ちゃん自分専用のホバーバイク届いたから、乗り回して喜んでる。自転車に初めて乗った子供みたいに。」
「自転車、初めて乗れた時は感動やったなあ。ウチは一番遅かったから。」と、横ヤンが意外なことを言った。
「いつも友達のんを見学。寂しいもんやで。」
午後7時。俺の自宅の夕食も、冷や麦やった。
夏の定番やな。
「ウチも一番遅かったから、横山さんの気持ち分かるわ。大体、乗せてくれへんねん。持ってる子。」
「まあ、そんなもんかな。俺は姉ちゃんの『お下がり』やったからなあ。ようワコ乗せて走った。」
「あんた。本気で『浮気』してもええよ、ワコちゃんなら。ウチよう産まんし。」
「お前まで。怒るで、しかし。子供、『里子』でもええやん。お前はようやってるで。総子やないけど、『二足の草鞋』、オカミサンと女将さん。」
「日記につけとくわ。」
―完―
0
あなたにおすすめの小説
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる