中年探偵幸田の日記

クライングフリーマン

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49.情報弱者

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 ○月〇日。
 俺と倉持と澄子は、知り合いの中山に依頼されて、スーパーにやってきた。
 中山は、澄子同様「水商売」をやっている。と言っても居酒屋だ。
 開店直前のスーパーは、黒山の人だかりだった。
 案の定、目的はミネラルウォーターだ。
 昔のトイレットペーパー騒ぎを思い出す、と、電話で花ヤンが言っていた。
 マスコミが「不足するぞ」とデマを拡散したからだ。
 当時から、トイレットペーパーは、殆どが国産だ。「根も葉もないデマ」だ。
 石油精製品は、トイレットペーパーだけではない。オイルショックとは言え、まだまだ打つ手はあった。
 だが、群集心理で殺到したのだ。今回も同じ構図だ。宮崎県で起きた地震の後、気象庁が「余計な」発表をした。
「南海トラフ地震情報」というものだ。知ってる人は知っている。
 マスコミは、パリ五輪が終るから、待ってましたとばかりに、まるで「予想海域」に「余震」があるかのような報道をした。
 地震があったのは、宮崎県である。宮崎県や熊本県に一時余震があったのは事実だが、あの「ソーセージみたいな形」からは離れている。
 備蓄や日頃の心構えは大事だ。しかし、まるで、台風の進路予想みたいな報道は行き過ぎだろう。各地で「買い占め・買いだめ」が始まった。
 宮崎県に送るモノ優先で品不足なら理解出来るが、四国からこっちは確実に「余震が起る」なんて考えられないことなのに、自称専門家は騒ぎ出す。
 すると、所謂「団塊の世代」が動きだす。所謂「情報弱者」だ。
 コロニーの時もそうだった。「立ち直り」が遅れた人達が、無知蒙昧のマスコミの煽動に乗ってしまったからだ。
 絶えず、横並びを意識してきた人達は、煽動・洗脳にかかりやすい。
 隣の人を殺さないと自分が殺される。そんなパニック症候群になりやすいのだ。
 苦労して、1人2ケースずつ買って、中山の店に運んだ時、澄子は言った。
「ウチは1ケースでいいわ。足りんようになったら、店閉めるし。」
 さすが、我が恋女房や。ハナから水不足は信じていない。
「えらい、すんませんなあ。」別れ際、中山は言った。
「先輩。いつ来るんです、トラフグ地震。」
 倉持の問いに、俺は簡単に答えた。
「知らんがな。来たら、死んだらええやんけ。」
 ―完―

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