スイートホームダイアリー

ゆりすみれ

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26【堂園家Diary】それぞれの土曜②

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 五人での朝食を終えると、亜楼はさっそくホームセンターへ椅子作りの材料を買いに行き、冬夜は少し億劫おっくうそうに例のデートに出掛けていった。眞空と秀春はシンクに並んで洗い物をし、海斗はリビングのソファで何故か姿勢を正しじっと固まっている。

 皿に泡を撫でつけながら、眞空は泡が弾けるのを思い詰めるようにして見つめていた。

「眞空! 今日暇なら、おじさんとどこかに出掛けようか!」

 やはり様子がおかしいと確信した養父はわざと調子よく眞空を誘うが、当の本人にはまったく聞こえていないようで返事もない。これは重症だと秀春が苦笑したとき、かろうじて働いていた眞空の手がとうとう止まった。眞空は皿を凝視しながらしばらくじっと考え込み、そして、

「秀春さんごめん、やっぱおれ出掛けてくる!」

 と叫ぶと、泡がついたままの皿を流しにがちゃんと置いて片付け放棄を選択した。バタバタと慌てて自室へ戻りあっという間に準備を済ませると、秀春が声を掛ける隙もなく家を飛び出していく。あまりの俊敏さに、実は眞空も運動部で活躍できるのではないかと、秀春は余計な息子自慢を思い描いてまた苦笑した。

「あーぁ……眞空行っちゃったよ。じゃあ海斗! おじさんと遊ぼう?」

「あ? オレは出掛けるってさっき言っただろ。っていうか、遊ぶってなんだよ。いい歳して親父と遊ぶって何すんだよ」

 話し相手を失った秀春が、まるで戦の出陣前のように仰々しく精神統一をしている海斗の背中に声を掛けるが、これもまたあっさりと一蹴されてしまう。気が立っているようでオレに構うなオーラ全開の海斗に、年頃の息子は難しいと秀春は笑った。数年前の亜楼にそっくりだと、秀春はこっそりと子育ての思い出を懐かしむ。

「みんな冷たいなぁ……しかもおじさん、片付け押しつけられてるし」

 やれやれと眞空が放棄した皿洗いの続きに取りかかると、秀春はふと思い出したように次男の名を呼んだ。

「……海斗、無理しないようにね」

「は!? ……な、なんのこと……?」

 脈絡なく案じられ、海斗は硬直させていたからだをびくんと跳ね上がらせた。秀春さんなんか知ってるんじゃねぇだろうな……!? と次男は慌てふためき振り返って秀春の表情を確認するが、養父は呑気に皿の泡を流しているだけだった。

「なんのことかは俺にもよくわからんが……なんだか最近のおまえ見てると必死そうでねぇ。一生懸命なのはいいことだけど、おまえの場合はまっすぐ過ぎて加減を知らないから。ほどほどにしなさいってことだよ」

 目聡めざとい……さすが父親とでも言うべきか、と海斗は素直に感心する。必死なのは、まったくその通りだ。

「……わかってるよ。ほどほどに、がんばる」

「おぅ、がんばれ」

 秀春さん、ホントに何もわかってなくて言ってんのか……? なんか怪しい……。

 それでも海斗は、自分をちゃんと見てくれて知ってくれている人の存在に救われる思いがした。神に見放されてふたりぼっちになったと思っていたけれど、分身以外にも自分を理解している人がいるという奇跡のような幸福に、胸の辺りがぎゅっと熱くなる。と同時に、秀春への罪悪感に苛まれた。かつて亜楼に言われた正論が脳裏をよぎり、熱かった胸が急に苦しくなる。

「……秀春さん、オレ、秀春さんの恩を仇で返すような真似してるかも……。せっかく作ってくれた、大切な家族なのにさ……」

 家族へ持つ感情以上のものを育ててしまい、家族とはしてはいけない行為を曖昧にくり返している。他の家族を裏切っている、と思う。

 突然ぼそぼそとわけのわからないことをこぼす海斗に、秀春はさも不思議なことを聞いたかのように驚いた。

「ん? 俺は別におまえたちに感謝をして欲しくておまえたちを息子にしたわけじゃないし。むしろ、こっちこそ勝手に息子にしちゃってごめんね、って感じだ」

「なんだそれ」

「とにかく、おまえが思うように信じる道を進みなさい。信念を持ってやってることなら、誰もおまえを責めたりしないから」

 いつも能天気で気まぐればかりの秀春が、珍しく真面目にきっぱりと言い放った。

 ……信念、か。確かに亜楼を想う気持ちはどうしたって揺るがない。何度虚しい思いをしたって想いは募るばかりだ、と海斗は苦笑する。

「ハハハ、そっか……さんきゅ。オレ、行ってくる」

 稀な親らしい助言に背中を押されたのか、海斗は心を決めたように勢いよくソファから立ち上がった。気合いのスイッチが入ったようで、いつもの海斗らしく元気いっぱいに家を出る。

「……息子たちは勝手にどんどん大きくなっちゃうし、父親って案外淋しいもんだね」

 と秀春はひとりごとをつぶやくものの、目元がほころぶのを抑えきれなかった。大丈夫、ちゃんと大人になっている、と幸いを噛みしめる。四人のみなしごの養父なんて無謀すぎると散々周りに反対された若き日を思い出し、秀春はざまぁみろと舌を出した。自分の信じた道はまちがっていなかったと、胸を張って言える。

 それから洗い物を終えた秀春は、新聞をまだ取ってきていないことに気づき急いで外に出た。新聞新聞、と唱えながらポストに向かうと、門の外に誰かがいる気配を感じた。

「どなた?」

 客人かと思い秀春が声を掛けると、気配は逃げるように去っていった。遠のく足音がヒールの音だと気づき、女性だとわかる。

「ん?」

 女性の訪問者に心当たりがなく、秀春は大きく首をかしげながら新聞を手に取り、腑に落ちないまま家の中に戻っていった。
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