41 / 71
41【海斗Diary】気づき①
しおりを挟む
『好きな人いないならさ、私とお試しで付き合ってみない?』
高校二年生も終わりがけの三月半ばに、海斗は別のクラスの松田莉奈にそう言われた。莉奈に告白され、少し返事に困っていた海斗に、大きな黒目をくりくりとさせた莉奈はどこか楽しそうにそう提案した。
中学生の頃から海斗は時々女子から告白をされていて、その度に部活や男友達と天秤にかけては告白を断ってきた。告白してくる女子はサッカー部での海斗の活躍を見たファンのような存在が多く、一度も話したこともないような子たちばかりだったので、海斗はいつもあまり深く考えずに遠慮なく振っていた。たまたま自分のポジションがフォワードで派手なプレイをすることが多く目立つだけだと海斗も自覚していたし、よく知らない女子とどうにかなりたいなど、本当に微塵も思っていなかった。
『は? お試しってなんだよ……』
『しばらく恋人ごっこで過ごして、私のことどう思うか検証するの。万が一好きになってもらえたらそのまま正式に付き合うし、なんとも思わなかったら、そのときは遠慮なく振ってくれていいから』
今までのよく知らない女子とは違い、莉奈とは一年のとき同じクラスだった。特別親しいわけではなかったが、顔を合わせれば廊下でくだらない雑談くらいはする仲で、いつもと同じように無感情でばっさりと告白を断るには少し勇気のいる相手だった。
『……そんなことしたって、多分、オレ……』
『そんなに重く考えないでいいよ、軽いノリでいいの。海斗に好きな人いるならすっぱりあきらめるけど、そうじゃないなら』
『好きなやつは……いない……けど』
『じゃあちょっとだけ、やってみない? 私のこと嫌になったら、すぐやめてくれていいから』
なんだか丸め込まれたような気もしたが、莉奈がそのお試しで気が済むのならと、海斗は本当に深く考えずに承諾した。莉奈のことを好きになれる自信はまったくなかったが、海斗にも、この機に少し確かめたいと思っていることがあった。
ひと月と期間を決めて、海斗は莉奈とお試しの恋人ごっこを始めた。ちょうど春休みのタイミングだったので、部活のない日は二人で遊びに出掛けたり、図書館へ課題をしに行ったり、夜には電話で少し話したりした。一応眞空にも言っておこうかと思ったが、結果がわかっていることをわざわざ言う必要もないかと、聞かれでもしない限りは黙っておくことにした。莉奈と過ごす時間はそれなりに楽しかったが、やはりそれだけだった。
『莉奈ごめん。オレ、やっぱおまえとは付き合えない』
お試しの期限が来た四月の金曜に、海斗は莉奈にきっぱりとそう告げた。放課後の部活のあと、同じく軟式テニス部の練習で学校に残っていた莉奈と、グラウンドの隅で落ち合った。
『あー、やっぱそっかぁ……。うん、まぁ、薄々勘づいてはいたから』
勘づいていたというわりには弱々しい目を隠さず、それでも莉奈は笑って海斗に向き合ってくれる。
『ごめんね、私のわがままに付き合わせて』
『オレの方こそごめん』
『気持ちないのに嘘ついて付き合ってもらうより、潔く振ってもらう方が全然いいよ。次、いけるしね』
傷つけてしまったのにまだちゃんと笑ってくれる莉奈に甘えて、海斗が今の気持ちを吐露する。
『……オレさ、好きって、正直よくわかんねぇんだ』
かわいいとか、綺麗だなとか、女子に対して思うことはあっても、そこにそれ以上の感情はのらない。人並みにエロいことはしてみたいとは思うが、じゃあ誰と? となるとその誰かは思い浮かばない。
『人、好きになったことないの?』
莉奈が少し驚いて、海斗を見つめる。彼女がいないことはもちろん知っていたが、今までにそういう感情さえも抱いたことがないのかと、モテるのにどうりで手強いわけだと苦笑するしかない。
『ない、はず……』
正確には怪しい存在がいるのだが、そんなわけないと激しく否定してくる自分もいる。否定してくる自分は、その感情をとても悪いもののように扱ってくる。
『なにそれ。迷ってる感じ』
『ほんとにわかんねぇんだよ。……おまえに訊くのもまじでおかしいけど、好きって、なんだ?』
悪気なく純粋な目で訊いてくる海斗に呆れて、莉奈は本気で笑ってしまう。振った相手にそれを訊くかぁと苦い顔をしつつも、その海斗らしさに口元はふと緩んでしまった。何かに迷っているような海斗に、莉奈は仕方なく肩を貸す。
『もう、しょうがないなぁ。……これは持論だけど、いちばんの要素は……嫉妬、って思ってる』
『嫉妬……』
『他の人にとられたり、他の人と幸せになるのが、すっごく嫌だって思う』
『とられるのが、嫌……?』
『そう。人を好きって思うのって、もっとふわふわして、あったかい感情のイメージあるけど、私は結構重たくて苦しくて、ぐちゃぐちゃな気持ちになることの方が多いかな。ずっと余裕なくて、みっともない感じ。そういうの、わかる?』
振られた相手に何を教えているのかと馬鹿らしくもなるが、あまりにも素直に言葉を吸収しようとしてくれている海斗に、莉奈は静かに悟ってしまった。自分には到底越えられない存在が、きっともうすでに海斗の心を占めている。本人が認めていないだけで。
『その人が自分以外の誰かのものになるの、許せないの。誰にもとられたくない。とられたら哀しくてつらくて、自分を保っていられなくなる』
『……』
海斗はいつの間にか、うつむいていた。グラウンドのよく見慣れた土をじっと見つめている。
『……海斗にも、ほんとはいるんじゃないの? そういう人』
悔しかったが、莉奈はそう口にした。はっきり教えてもらった方が、自分の想いを供養できる気がした。
『それってさ』
『?』
『家族を大事に思う気持ちとは、全然違う気持ちだよな?』
海斗は顔を上げ、きょとんとしている莉奈の顔を見た。
『え?』
海斗にとって、とられて嫌だと思う人は、ずっと昔からひとりしかいない。
高校二年生も終わりがけの三月半ばに、海斗は別のクラスの松田莉奈にそう言われた。莉奈に告白され、少し返事に困っていた海斗に、大きな黒目をくりくりとさせた莉奈はどこか楽しそうにそう提案した。
中学生の頃から海斗は時々女子から告白をされていて、その度に部活や男友達と天秤にかけては告白を断ってきた。告白してくる女子はサッカー部での海斗の活躍を見たファンのような存在が多く、一度も話したこともないような子たちばかりだったので、海斗はいつもあまり深く考えずに遠慮なく振っていた。たまたま自分のポジションがフォワードで派手なプレイをすることが多く目立つだけだと海斗も自覚していたし、よく知らない女子とどうにかなりたいなど、本当に微塵も思っていなかった。
『は? お試しってなんだよ……』
『しばらく恋人ごっこで過ごして、私のことどう思うか検証するの。万が一好きになってもらえたらそのまま正式に付き合うし、なんとも思わなかったら、そのときは遠慮なく振ってくれていいから』
今までのよく知らない女子とは違い、莉奈とは一年のとき同じクラスだった。特別親しいわけではなかったが、顔を合わせれば廊下でくだらない雑談くらいはする仲で、いつもと同じように無感情でばっさりと告白を断るには少し勇気のいる相手だった。
『……そんなことしたって、多分、オレ……』
『そんなに重く考えないでいいよ、軽いノリでいいの。海斗に好きな人いるならすっぱりあきらめるけど、そうじゃないなら』
『好きなやつは……いない……けど』
『じゃあちょっとだけ、やってみない? 私のこと嫌になったら、すぐやめてくれていいから』
なんだか丸め込まれたような気もしたが、莉奈がそのお試しで気が済むのならと、海斗は本当に深く考えずに承諾した。莉奈のことを好きになれる自信はまったくなかったが、海斗にも、この機に少し確かめたいと思っていることがあった。
ひと月と期間を決めて、海斗は莉奈とお試しの恋人ごっこを始めた。ちょうど春休みのタイミングだったので、部活のない日は二人で遊びに出掛けたり、図書館へ課題をしに行ったり、夜には電話で少し話したりした。一応眞空にも言っておこうかと思ったが、結果がわかっていることをわざわざ言う必要もないかと、聞かれでもしない限りは黙っておくことにした。莉奈と過ごす時間はそれなりに楽しかったが、やはりそれだけだった。
『莉奈ごめん。オレ、やっぱおまえとは付き合えない』
お試しの期限が来た四月の金曜に、海斗は莉奈にきっぱりとそう告げた。放課後の部活のあと、同じく軟式テニス部の練習で学校に残っていた莉奈と、グラウンドの隅で落ち合った。
『あー、やっぱそっかぁ……。うん、まぁ、薄々勘づいてはいたから』
勘づいていたというわりには弱々しい目を隠さず、それでも莉奈は笑って海斗に向き合ってくれる。
『ごめんね、私のわがままに付き合わせて』
『オレの方こそごめん』
『気持ちないのに嘘ついて付き合ってもらうより、潔く振ってもらう方が全然いいよ。次、いけるしね』
傷つけてしまったのにまだちゃんと笑ってくれる莉奈に甘えて、海斗が今の気持ちを吐露する。
『……オレさ、好きって、正直よくわかんねぇんだ』
かわいいとか、綺麗だなとか、女子に対して思うことはあっても、そこにそれ以上の感情はのらない。人並みにエロいことはしてみたいとは思うが、じゃあ誰と? となるとその誰かは思い浮かばない。
『人、好きになったことないの?』
莉奈が少し驚いて、海斗を見つめる。彼女がいないことはもちろん知っていたが、今までにそういう感情さえも抱いたことがないのかと、モテるのにどうりで手強いわけだと苦笑するしかない。
『ない、はず……』
正確には怪しい存在がいるのだが、そんなわけないと激しく否定してくる自分もいる。否定してくる自分は、その感情をとても悪いもののように扱ってくる。
『なにそれ。迷ってる感じ』
『ほんとにわかんねぇんだよ。……おまえに訊くのもまじでおかしいけど、好きって、なんだ?』
悪気なく純粋な目で訊いてくる海斗に呆れて、莉奈は本気で笑ってしまう。振った相手にそれを訊くかぁと苦い顔をしつつも、その海斗らしさに口元はふと緩んでしまった。何かに迷っているような海斗に、莉奈は仕方なく肩を貸す。
『もう、しょうがないなぁ。……これは持論だけど、いちばんの要素は……嫉妬、って思ってる』
『嫉妬……』
『他の人にとられたり、他の人と幸せになるのが、すっごく嫌だって思う』
『とられるのが、嫌……?』
『そう。人を好きって思うのって、もっとふわふわして、あったかい感情のイメージあるけど、私は結構重たくて苦しくて、ぐちゃぐちゃな気持ちになることの方が多いかな。ずっと余裕なくて、みっともない感じ。そういうの、わかる?』
振られた相手に何を教えているのかと馬鹿らしくもなるが、あまりにも素直に言葉を吸収しようとしてくれている海斗に、莉奈は静かに悟ってしまった。自分には到底越えられない存在が、きっともうすでに海斗の心を占めている。本人が認めていないだけで。
『その人が自分以外の誰かのものになるの、許せないの。誰にもとられたくない。とられたら哀しくてつらくて、自分を保っていられなくなる』
『……』
海斗はいつの間にか、うつむいていた。グラウンドのよく見慣れた土をじっと見つめている。
『……海斗にも、ほんとはいるんじゃないの? そういう人』
悔しかったが、莉奈はそう口にした。はっきり教えてもらった方が、自分の想いを供養できる気がした。
『それってさ』
『?』
『家族を大事に思う気持ちとは、全然違う気持ちだよな?』
海斗は顔を上げ、きょとんとしている莉奈の顔を見た。
『え?』
海斗にとって、とられて嫌だと思う人は、ずっと昔からひとりしかいない。
12
あなたにおすすめの小説
夢の続きの話をしよう
木原あざみ
BL
歯止めのきかなくなる前に離れようと思った。
隣になんていたくないと思った。
**
サッカー選手×大学生。すれ違い過多の両方向片思いなお話です。他サイトにて完結済みの作品を転載しています。本編総文字数25万字強。
表紙は同人誌にした際に木久劇美和さまに描いていただいたものを使用しています(※こちらに載せている本文は同人誌用に改稿する前のものになります)。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる