スイートホームダイアリー

ゆりすみれ

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53【眞空+冬夜Diary】いじわる①

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「おいで」

 部屋にそっと入ってきた冬夜が、後ろ手でドアをぱたっと閉めたのを確認すると、ベッドに腰かけて待っていた眞空がやさしく弟を呼んだ。まだ乾き切っていない髪をふわっと揺らして、冬夜が眞空に近づく。

 あのあと、順番にシャワーを浴びた。これから大人の階段を上ろうとしているときに他の家族に会うのは気まずいと思っていた眞空だったが、運良く誰も部屋から出て来なかった。今日はもうみんな、それどころではないのかもしれない。それでも今日だからこそ自分たちは互いを深く知る必要があるのだと、眞空の心はもう揺らがなかった。冬夜をからだごと奪って、誰が冬夜をいちばん愛しているか、わからせてやりたかった。

「来て」

 ベッドのふちに座っている眞空の前に、冬夜が立つ。腕を力強く引き、眞空は冬夜をひざの上に導いた。向かい合う形で冬夜をひざの上にのせると、そのまま腰に両手を回し抱き寄せる。

「自分で言い出したのに、僕ちょっと緊張してる……かも」

 眞空の肩に手を置いた冬夜が、少し下にいる兄と目を合わせて言った。冬夜の目は、もうすでに少し潤んでいる。

「おれも緊張してる。……ごめんね、また大事なこと、おまえにきっかけ作ってもらって」

 キスして、とあの日シャワーの中で熱くねだられたことを、眞空はいつでも思い出せた。あの日のキスがなかったら、今頃どうなっていたかわからない。

「おれだってほんとはさ、冬夜とキス以上のことしたくて、ずっとうずうずしてたけど」

 緊張で目を潤ませている冬夜を安心させてやるように、眞空の手が冬夜の後頭部に伸びた。まだ湿っている髪に指を差し入れ、丁寧に撫でつけながら話をする。

「一回おまえを知っちゃったらもう絶対歯止め利かないだろうし、見境なくサカるの目に見えてたから、……言い出すの怖かった」

「見境……なくなっちゃうんだ?」

「絶対なくなる。同じ家に住んでるのをいいことに、毎日でもしたいって言っちゃいそう。……そんなの、冬夜に負担掛けるだけだろ」

 眞空の悩みが思いがけず健全な男子高校生のものだったことに顔が緩んで、強張っていた冬夜のからだから適度に力が抜けた。

「見境なくなってもいいよ?」

「……待って、そんな可愛いこと言わないで……本当にとまんなくなったらどうすんの……」

「とまんなくなる眞空、ちょっと見たいな。……僕のこと、眞空の好きなように使っていいからね」

「使うなんてひどい言葉言わないの。おれたち、一緒に気持ちよくなるんだよ」

 髪にうずめていた指を、冬夜の耳に移動させる。そのまま耳を少しいやらしく撫で、そのあとゆっくりと頬に滑らせた。

「はじめてだから、うまくできるかわかんないけど」

 眞空が、少し上にある冬夜の目を見上げる。

「一緒に、気持ちいいこと、覚えよ?」

「ん……」

 冬夜の返事は、そのまま眞空の口唇の奥で溶けた。





「ん……、ん、っ……」

 懸命に自分のキスに応えようとしてくれる弟が、眞空はいつもいとしくてたまらなかった。少し荒々しく口唇を合わせるときも、ゆっくり時間をかけて唾液をやり取りするときも、いつも冬夜は自分に合わせてくれる。今日は緊張と高揚で、眞空はどうしたって暴れる舌を制御できない。そんなはしたない自分も、冬夜は必死に受け止めてくれる。

「っ、……んんっ……は、ぁっ……」

「もっと舌出せる?」

「ん、……こう?」

 とろけた顔で、冬夜が薄く開けた口唇の隙間から紅い舌を見せた。半開きの口が、余計にいやらしさを増幅させる。

「そう……そのまま……冬夜から、して?」

「ん……」

 同じように出された眞空の舌に、冬夜は恥じらいながら自分のそれをゆっくりと下ろした。柔らかくねっとりとした熱い舌先を兄のそれに押しつけると、大事なものに触れるように、丁寧に絡ませていく。キスの仕方は、毎晩寝る前に眞空と回数を重ねていくうちに、少しずつ覚えた。

「ん、……ふぅっ、っ……んん」

 慣れないながらも一生懸命くちづけてくれる冬夜が可愛くて、眞空は薄目で最中の弟の顔を見る。長いまつげをしっとりと下ろし、夢中で自分の口唇を食んでいる恍惚の表情がたまらなくて、腰を抱いた指先が激しく疼く。

「キスだけでこんなえっちな顔するんだ?」

「……だって、眞空の舌、きもちい……」

 うっとりと、もうすでに息を乱して、冬夜が眞空にさらに寄りかかる。預けられたからだの重みに、眞空が幸いを噛みしめる。

「キスでこんなんじゃ、この先、おまえどうなっちゃうの……」

「わかんない……眞空が、ためして……」

「そのつもりだけど。……もっとえっちな顔、させたい」

 冬夜のTシャツの裾から背中に手を入れ、あまく執拗に撫で回す。それから両手で裾をつかみ、勢いよく頭をくぐらせてTシャツを剥ぎ取った。脱がせたシャツをベッドの下に落とすと、常夜灯だけの薄暗い部屋の中で、冬夜の白くなめらかな肌がぼんやりと浮かび上がる。

「綺麗だね」

 自分より小柄で華奢な冬夜の、少年と青年との間で彷徨うまだ未完成な肉体が、余計に眞空の情欲をかき立てた。まっさらな、弟のからだ。それを、これから、おれが。

「……ねぇ、誰もさわってない?」

 眞空が、冬夜の鎖骨をすうっと指で撫でながら訊いた。

「さわってないよ……僕ずっと眞空が好きだったんだよ? 他の人に、さわらせるはずない……」

「おれのために、とっておいてくれたの?」

 羞恥に目を細めながら、冬夜がコクリとうなずく。

「うれし……」

 男女問わず引く手あまたの弟が、これまで誰の好意にも流されず、静かに貞操を守ってくれていたことにぐっと来て、眞空は思わず冬夜の腰を荒く抱き寄せた。

「おれが、冬夜の、……初めての男?」

 男、と改めて告げられ、冬夜の耳朶じだにぶわっと熱がのる。声にならなくて、うんうんうんと思いきりうなずくと、眞空は満足そうに笑みをたたえた。

 あらわになった冬夜の上半身を、眞空が目でじっくりと堪能する。常夜灯の淡い橙色の中、暗さに慣れた目で改めて肌を凝視すると、気づきにくいところに数ヵ所また小さなあざのようなものを見つけた。眞空が子供の頃に気づけなかったのは本当に意識してなかったからで、冬夜は本当はずっとこのあざとともに生きていたのだ。眞空が首の後ろのあざについて尋ねたとき冬夜はわからないと言っていたが、さとい弟は、きっといつからか自分の過去にも密かに気づいていたのだろう。

 眞空の口唇が、迷いなくいびつなあざに吸いついた。

「……あっ」

 強く吸われて、冬夜が小さく声をもらす。脇腹、わきの下、鎖骨の近く、そして首の後ろ。順に、点在するあざに眞空が深くキスを落とす。首の後ろのいちばん大きな赤紫の痕には、特に念入りに口唇を這わせた。

「……眞空、……っ、そんなとこ、いい、から……」

 吸われている場所の意味に気づいて、冬夜がやめさせようとする。

「だめだよ。……言っただろ、あざも含めて、丸ごと冬夜が好きだって。……全部、おれのだから」

 そう言ってまた、首の後ろに噛みつくような強めのキスをする。

「やっ、ん……眞空、……だめ、痕ついちゃう」

 このあざにつきまとう冬夜のこれまでの孤独や苦悩を、全部わかってやることはできない。だったら、せめて。

「わざとそうしてる」

 口を開いているとき以外、眞空は冬夜の首筋をじゅるじゅると音を立てて吸った。きつく、やさしく。執着を刻みつけるように。

「あ、っ、……だめだよっ……僕、部室で、……みんなの前で、着替えるのに、っ……」

「……じゃあさ、愛されてるって、部室で見せびらかして?」

「……!? あ、あいされ……!?」

 虐げられた痕ではなく、愛された痕だと。

 そういう風に、冬夜のからだに教え込ませてやりたかった。

「おまえが今後このあざのこと思い出すとき、初めてのエッチでおれが痕つけてたなーって思い出してよ」

「!」

 からだに残るあざを消し去ってやることはできない。だったらせめて、少しでも明るい気持ちで共存していけるように。

「何度でも思い出して、その度にやらしい気持ちになったらいいよ」

「……っ、もう……ばか」

 眞空のやさしさが伝わって、冬夜はかすかに声を震わせた。本当はずっとコンプレックスのように思っていた醜いあざを、そして今日はっきりと知らされた真実を、眞空は簡単に受け入れて、簡単に上書きする。おれを思い出せと言う。

 やさしくて、頼もしい。兄で、恋人。

「んっ……思い出すよ、……眞空が、いっぱい、痕つけてくれた、っ、ことっ……あっ……やっ」

 眞空の暴れる舌はもうあざの有る無しに関わらず、冬夜のからだの至るところをあまく、きつく、吸い上げる。もちろん胸についている小さな二つの粒も器用に吸ってやると、冬夜は恥ずかしそうに身をよじって、熱い息を惜しげもなくまき散らした。

 これでもかというほど愛欲にまみれた痕をたくさんつけられ、どんどん力が入らなくなっている冬夜が、眞空のからだにもっとしがみつく。

「力入んなくなっちゃった? かわい……」

「眞空が、……いっぱい、吸うからぁ……」

 必死にしがみついてきた冬夜の顔をちらっと見上げ、眞空がふふっと笑う。

「……ねぇ、もちろんこっちも、……誰にもさわらせてないよね?」

「──っ!?」

 眞空は見上げた視線を冬夜の顔に張りつけたまま、右手をそっと、冬夜の股間へと滑らせた。内側から強く布を押し上げて張り出している箇所を、服の上からすうっと指でいじる。

「……あぁ、やっ」

「勃っちゃってるね、……見ていい?」

 羞恥にのぼせた目の冬夜が控えめにうなずくと、眞空は冬夜の下着ごとズボンをずらした。中からぶるっと勢いよく飛び出してきた弟のまっすぐな欲を見て、眞空がごくりと生唾を飲む。

「さわりたい……」

 ためらいなく伸びた眞空の手は、冬夜の張りつめた性器をやさしく握った。びくっと、冬夜のからだがわかりやすく震える。

「あっ……っ」

 誰にもさわらせたことのないものを、好きな人が、今。

 その事実だけで、冬夜の脳は溶けそうだった。ずっとずっと待ち望んでいた眞空の指が、たかぶりに触れてくれている。恥ずかしいのに、兄にめちゃくちゃに乱されたくて、目が潤む。

「どうやってさわったら、冬夜、気持ちよくなるかな」

「……あれ、したい……眞空のと、合わせるやつ」

「おれの?」

「僕だって眞空のこと、気持ちよくしたいんだよ」

「また可愛いこと言う……」

 困った顔をしながらも、眞空は服の下で最初からずっと窮屈だった自身の根を器用に取り出し、冬夜の目に堂々とさらした。初めて目にする兄の凶暴になったそれに、冬夜もまた息を呑む。

「おっきい……僕で興奮してるの……?」

「当たり前だろ? ……弟に、こんなに興奮してる……」

 裏筋と裏筋を合わせ、眞空がてのひらで包んだ。最初はゆっくり、徐々に速度を上げて、重ねた熱を規則的に振り動かす。

「……はぁ、っあ、……ん」

「……っ、……冬夜……」

 ひとりで慰めるときとはまるで違う新しい感覚に、ふたりで酔う。ふたりでしか、できないこと。ふたりだから、こうなれること。向かい合わせで、逃げ場はなく、快楽に溺れる互いの顔だけが薄闇に溶ける。

「あっ、まそらっ……、これ、……うら、こすれるの、気持ちい……、いい……っん、あっ……」

「……おれも、……っ、ちょっ、と、……やば……っ」

 やばいと片目をつむって焦りながらも、眞空の手は加減をまるで知らない。てのひらの中で、冬夜と自分をどんどん追い詰める。

「……や、……っ、うら、きもちいぃ、……あっ、やだぁ……」

「……冬夜、……キスしよ?」

「うんっ、……んっ……ん……」

 眞空に望まれたら抗えるはずもなく、冬夜はまたあっさりと口唇を差し出した。口の中に兄の舌を招き入れ、存分に暴れさせてやる。

「ん、んんぅ……、んっあ……」

 どこに意識を集中させればいいか、冬夜はもうわからなかった。眞空の舌で口内をかき回され、同時に眞空の手で陰茎をあやされている。どこに触れている眞空も雄々しく、普段の穏やかで少し気弱な兄の姿からはずいぶん遠い。自分のからだを前に男としての本性を剥き出しにしているのだと思うと、たまらなく、興奮する。

「んっ、……はぁっ、……僕、もぅ、……でちゃうっ、かも……」

 もっと、乱されたくて。もっと、愛されたくて。からだが、もっと、と眞空を呼ぶ。

「ん、……出したいね……いいよ、……冬夜のイクとこ、見せて」

 眞空の手に、力が入った。弟をいただきに連れていくために、己の裏筋をさらに強くこすり合わせる。

「っ、……やっ、……それだめぇ、それっ……いく、ぅ、……いっちゃう、……うぅ……っ、」

「イっていいよ、……あぁ……かわい……かわいいね、冬夜……」

「……ううっ、……あっ、まそらぁ、……んっ、いっ、……いっちゃ……、──うぅっ!」

 爆ぜた冬夜が、くたっと力の抜けた腕で眞空にしなだれかかる。冬夜の浅く熱い息が耳にかかり、眞空がくすっぐったそうに目を細めた。

「気持ちよかった? ……かわいい。おれの手でいっちゃう冬夜、かわいい……まだ手だけだよ?」

 手を濡らす冬夜のあたたかい体液を軽く拭き取りながら、眞空がうれしそうに笑む。

「ずるい……」

 眞空の首に甘ったるくしがみつく冬夜が、乱した息を整えながら、少し不服そうに頬を膨らませた。

「うん?」

「眞空、もしかして、ほんとは慣れてる……? 僕だけ最初からずっと余裕なくてさ……眞空はなんで、そんなに余裕なの……?」

 耐えられず、ひとりで先に達してしまった羞恥から、冬夜が不安そうに訊いた。兄は、さっきから何にも動じていないように見える。耳元に残す言葉も、肌を探る手つきも、すべてがスマートで隙がない。

「余裕なんてあるわけないだろ!? 初めてだって言ったじゃん」

 そんな風に見えていたのかと驚いて、眞空がからだを少し離して冬夜の顔を確認する。冬夜は熱に浮かされたとろんとした目で、眞空を責めるようにじっと見つめてきた。……疑われている。

 余裕なんて、あるはずがなかった。むしろ必死すぎて、呆れられてもおかしくないほどなのに。

「……あー、でも……」

 それでも、ふと思い当たる節はあって、眞空が少しバツの悪そうな顔をした。

「これ聞いて、引かない?」

 眞空が、冬夜に一応確認する。

「?」

 問われた冬夜は、眞空のひざの上で抱かれた体勢のまま、小首をかしげた。                
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