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“花火の夜に”
【オマケDiary④】夢
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「無事にお母さん見つかってよかったね」
隣でそう言った冬夜に、眞空が微笑みかける。
「ほっとしたー。せっかくの楽しい花火大会が、迷子の記憶だけになったら可哀想だもんね」
結局メイン会場である大きな広場に行くのはやめ、さっき歩いたひと気のない細い道に戻り、その片隅で花火を見ることにした。建物と建物の間にちょうどひらけたところがあり、そこから空がよく見える。花火を見るだけならここで充分だと、二人の気持ちが自然と一致した。
今は、人込みの中の一部に戻る気には、なれなくて。誰にも気づかれない、喧騒から切り離されたようなところで、二人きりになることを互いに強く望む。
ハルトを交番に連れていくと、中ではちょうど、子供を抱いた女性が青ざめた表情で、もう一人の子供が迷子になった状況を細かく警官に説明しているところだった。母親を確認したハルトが眞空の手をぱっと離し、ママ! と駆け寄ると、母親は慌てて弟を一旦下ろし、飛び込んできたハルトを力いっぱい抱きしめた。母親はごめんね、ごめんねとハルトにくり返し、ありがとうございます、ありがとうございますと、何度も何度も眞空と冬夜に頭を下げた。
満面の笑みを浮かべるハルトに全力でバイバイされ、二人もハルトに思いっきりバイバイを返してから交番を後にした。
「……っていうか、さっき。……子供相手になんであんなこと。あんな小さい子に言ったって、意味わかるわけないでしょ」
肩を並べて、もうまもなく始まる花火をひっそりと待っている時間に、冬夜が改めて眞空に尋ねる。
「言っただろ、冬夜のこと見せびらかしたいって」
眞空は悪びれる様子もなく、真面目な顔を見せた。
「おれが冬夜を自慢するのに、子供とか大人とか関係ないし。世界中に言って回ったっていいんだから」
一旦は得意気にそう言って、それでもすぐに違うと気づくと、眞空は自嘲気味にふっと口元を緩ませる。
「……なんて、口ではかっこいいこといくらでも言えるけど、実際に自慢できたのってまだ純一だけだし、さっきあの子に言ったことと同じことをクラスのやつらに言うのって多分無理だし……ごめん、やっぱ子供相手に気が大きくなってただけなのかも」
結局意気地なしで気弱なところはそう簡単に変えられるものじゃないんだよな、と眞空が苦笑してみせた。
「ううん、眞空はいつだってかっこいいよ。僕の思いつかないようなこと、いつもしてくれる」
そんな眞空に、いつも驚かされてばかりだと。最初に難しい折り紙を折って見せてくれたあの頃から、それは変わらない。
「まぁ、たとえあの子が意味わかってなくても……、恋人だって紹介してもらえて、ほんとはすっごくうれしかったけどね」
「……うん、おれも、……言えてうれしかった」
二人で瞳を合わせて、くすっと笑い合った。踏み出すことのできたささいな一歩が、きっと光ある未来につながる。
「……にしても、眞空ってすごく子供慣れしてるよね。保育士とか、そういうのに向いてそう」
自身はあまり子供が得意ではない冬夜が、しみじみと言う。
「えっと……うん、保育士もいいなぁって思ってたんだけど……」
眞空が、まだ彩られていない空を仰いで、ゆっくりと告げた。
「おれ、いつか、ひばり園を継ぎたいなって思ってて」
「!?」
初めて聞かされた眞空の思いに、冬夜が驚いて言葉を失う。
「まだ誰にも言ってなくて……秀春さんにすら言ってないんだけど」
この沸き上がった決意を最初に教えるのは冬夜にすると、眞空は前から決めていた。
「子供も好きだし、昔から小さい子の面倒見るのも好きだったし」
そういえばひばりに在園していたときから、自分以外の年下の子供たちの面倒もよく見ていた記憶があって、冬夜がその点はすんなりと納得する。
「でも本気で考え出したのは、おまえのこと、深く知ってから」
そう言って眞空は、冬夜の背にそっと指先を伸ばした。何度もくちづけを落としたから、場所は完全に把握している。浴衣の下に隠しているいびつな傷痕に、布越しにあまく触れる。
「哀しいけど世の中には、……理不尽に痛めつけられたり、苦しんだりしてる子が、たくさんいるよね?」
本当はその言葉を口に出すのも嫌なほど、冬夜を傷つけられた怒りに、眞空は狂いそうになる。
「もしそういう子が、部屋の隅で、折り紙ばっかして塞ぎ込んでるなら、」
あのとき、冬夜を見つけたように。大事にしたいと、思えたように。
「その子が、少しでも明るい気持ちになれるように、手助けしてあげたいなって」
誰かの哀しみに、そっと寄り添ってあげられるような人間になりたいのだと。哀しみを見逃さない、やさしい自分でいたいのだと。
「そうなりたいって思えたのは、冬夜に出会ったからだよ」
「……っ」
冬夜が口唇をきゅっと噛んだ。じんと、胸がただ熱い。自分の存在が、誰かの心を動かしている事実に、胸の辺りを掻き乱される。
またそうやって、思いもよらないことで、僕を驚かせるんだから──。
「……ほら、やっぱり眞空かっこいい、……ずるい」
「ずるくはないでしょ。……大学は社会福祉部めざして、受験終わったら、ひばりで手伝いさせてもらえないか頼んでみるつもり」
秘めていた夢を夜空に放つ兄の頼もしい横顔を、冬夜はうっとりと眺めた。
「応援してね」
「応援するけど……、眞空がひばりの先生になったら、絶対人気者になっちゃう……。僕みたいに本気で好きになっちゃう子が出てきたらどうするの……」
眞空が夢を叶える未来はうれしいが、同時に冬夜の中でどうしようもない独占欲が芽生えた。子供相手だって、油断はならない。小さな子供だけでなく、中学生や高校生で在園している子だっている。
「大丈夫。……おれをこんなに夢中にさせるの、おまえだけだから」
「……絶対に、よそ見しないで?」
色香を撒き散らす声でそう言う冬夜に、眞空が息を呑んだ。冬夜の妖艶さに、危うく吸い込まれそうになる。
「……っ、……するわけ、ないじゃん……」
そのとき、地面を揺らすような轟音のあと、空がぱぁっと明るく輝いた。最初に大きな輪がどんっと咲くと、続いてパンッ、パンッと軽快な音を立てて次々と夜空が華やかに彩られる。
花火が、はじまった。
「冬夜、花火ちゃんと見てる……?」
横からのねっとりとした熱い視線をひしひしと感じて、眞空は苦笑しながら冬夜に訊いた。あまりにも弟にじっと見られているので、さすがに照れてしまう。
「んー……? あんまり」
冬夜は、眞空の横顔に落ちるかすかな花火の光を見ていた。花火に行きたいとは言ったが、本当は花火などどうでもいい。眞空と一緒にいたかっただけだ。
「離れて暮らしてみたらね、改めて、思い知らされちゃったからさ」
毎晩ビデオ通話もするし、夏休みは外で待ち合わせをしてたくさん出掛けた。それでも通話を切ったあとのベッドの中や、別々の電車に乗った帰り道で、強く強く、眞空を思い浮かべてしまう。秒で、会いたくなる。
「会えない時間がね、好きをいっぱいにするみたい」
好きな気持ちが毎日更新されて、蓄積されて、どこまで大きくなるのか冬夜自身にもわからない。
「たくさん溜まった僕の好きを、定期的に眞空に受け取ってもらわないと、どうにかなりそう……」
そうこぼした冬夜は、眞空の肩にころんと自身の頭を預けてすり寄った。
「さっきの続き……しよっか」
先程一瞬しか恋人を抱きしめられなかった後悔は眞空にも強くあって、そのまま冬夜の肩を抱き、自分の胸にいざなう。
胸に顔を埋めてきた冬夜を両腕でぎゅっと抱きしめて、眞空はしばらく花火の音だけを聞いた。
「……冬夜、顔上げて?」
花火よりも見たいものができたと、眞空が少しだけからだを離し、冬夜の顔を見る。
「キス、……しちゃおっかな……」
「していいよ……、……ん……っ」
早速落ちてきた性急な眞空の口唇を、冬夜がやさしく受け止めた。触れるだけのもどかしいキスを、何度も、何度も。それは眞空の気が済むまで、執拗にくり返される。
「冬夜はちょっとさぁ……、おれに甘すぎじゃない?」
ようやくくちづけを解いた眞空が、複雑そうな顔で冬夜の瞳をのぞいた。いつもなんでも許してくれる冬夜が、本当は自分に合わせて無理をしているのではないかと、時々少し不安になる。
「眞空のしたいことが、僕のされたいことだから。……僕だって、眞空と、いっぱいキスしたいよ……」
甘い声でそれを教えて、冬夜は眞空の頬を両手で包むように固定すると、今度は自分から口唇を合わせにいった。
「っ、……あー、もう……っ、……うーん……」
冬夜からキスしてくれたことにぐっと来て、眞空が突然うなり始める。見えない何かと闘い、葛藤しているようだ。
「眞空? どうしたの?」
「せっかく由夏さんに着付けしてもらったのに……、こんなに早く脱がせたら怒られちゃうかな!?」
「脱がせたくなっちゃったの?」
「脱がせたくなった……」
花火、浴衣、理性、祭り、欲望……、いろいろなものを天秤にかけた眞空が、欲望の一人勝ちを冬夜に報告する。
「もう、おれ……最近ほんと、忍耐が仕事しないから。……がっつき過ぎだって、頭ではわかってるけどさ……」
シュンとした犬のようになってしまった眞空に、
「あ、……ねぇ眞空、じゃあ、こういうのはどう? あのね……」
と、冬夜が兄に耳打ちした。
「──っ!?」
それを聞いた眞空の耳たぶに、一気に熱が駆け抜ける。じわっと、熱く、赤く染まったのが、自分でもわかる。
「どうかな? 嫌……?」
クールそうに見えて、実は兄弟の中でいちばん好奇心旺盛な末っ子の提案に、眞空が降参して笑った。嫌なわけないと、首をぶんぶんと大きく横に振る。
「冬夜のしたいことは、おれが全部してやりたい。……その提案、最高かも」
「眞空……好き」
「うん、おれも好き。一緒だね」
抱き合いながら伝えると、空に一際まぶしい大輪の花が咲いた。第一部の、フィナーレが始まったようだ。
「あと3分だけ花火見たら、行こっか」
次々と打ち上がる花火を、ようやく冬夜がちゃんと見る。
夜空に浮かんだ光の群れが思った以上に美しく、儚くも力強くて、冬夜は少しだけ泣きそうになった。
隣でそう言った冬夜に、眞空が微笑みかける。
「ほっとしたー。せっかくの楽しい花火大会が、迷子の記憶だけになったら可哀想だもんね」
結局メイン会場である大きな広場に行くのはやめ、さっき歩いたひと気のない細い道に戻り、その片隅で花火を見ることにした。建物と建物の間にちょうどひらけたところがあり、そこから空がよく見える。花火を見るだけならここで充分だと、二人の気持ちが自然と一致した。
今は、人込みの中の一部に戻る気には、なれなくて。誰にも気づかれない、喧騒から切り離されたようなところで、二人きりになることを互いに強く望む。
ハルトを交番に連れていくと、中ではちょうど、子供を抱いた女性が青ざめた表情で、もう一人の子供が迷子になった状況を細かく警官に説明しているところだった。母親を確認したハルトが眞空の手をぱっと離し、ママ! と駆け寄ると、母親は慌てて弟を一旦下ろし、飛び込んできたハルトを力いっぱい抱きしめた。母親はごめんね、ごめんねとハルトにくり返し、ありがとうございます、ありがとうございますと、何度も何度も眞空と冬夜に頭を下げた。
満面の笑みを浮かべるハルトに全力でバイバイされ、二人もハルトに思いっきりバイバイを返してから交番を後にした。
「……っていうか、さっき。……子供相手になんであんなこと。あんな小さい子に言ったって、意味わかるわけないでしょ」
肩を並べて、もうまもなく始まる花火をひっそりと待っている時間に、冬夜が改めて眞空に尋ねる。
「言っただろ、冬夜のこと見せびらかしたいって」
眞空は悪びれる様子もなく、真面目な顔を見せた。
「おれが冬夜を自慢するのに、子供とか大人とか関係ないし。世界中に言って回ったっていいんだから」
一旦は得意気にそう言って、それでもすぐに違うと気づくと、眞空は自嘲気味にふっと口元を緩ませる。
「……なんて、口ではかっこいいこといくらでも言えるけど、実際に自慢できたのってまだ純一だけだし、さっきあの子に言ったことと同じことをクラスのやつらに言うのって多分無理だし……ごめん、やっぱ子供相手に気が大きくなってただけなのかも」
結局意気地なしで気弱なところはそう簡単に変えられるものじゃないんだよな、と眞空が苦笑してみせた。
「ううん、眞空はいつだってかっこいいよ。僕の思いつかないようなこと、いつもしてくれる」
そんな眞空に、いつも驚かされてばかりだと。最初に難しい折り紙を折って見せてくれたあの頃から、それは変わらない。
「まぁ、たとえあの子が意味わかってなくても……、恋人だって紹介してもらえて、ほんとはすっごくうれしかったけどね」
「……うん、おれも、……言えてうれしかった」
二人で瞳を合わせて、くすっと笑い合った。踏み出すことのできたささいな一歩が、きっと光ある未来につながる。
「……にしても、眞空ってすごく子供慣れしてるよね。保育士とか、そういうのに向いてそう」
自身はあまり子供が得意ではない冬夜が、しみじみと言う。
「えっと……うん、保育士もいいなぁって思ってたんだけど……」
眞空が、まだ彩られていない空を仰いで、ゆっくりと告げた。
「おれ、いつか、ひばり園を継ぎたいなって思ってて」
「!?」
初めて聞かされた眞空の思いに、冬夜が驚いて言葉を失う。
「まだ誰にも言ってなくて……秀春さんにすら言ってないんだけど」
この沸き上がった決意を最初に教えるのは冬夜にすると、眞空は前から決めていた。
「子供も好きだし、昔から小さい子の面倒見るのも好きだったし」
そういえばひばりに在園していたときから、自分以外の年下の子供たちの面倒もよく見ていた記憶があって、冬夜がその点はすんなりと納得する。
「でも本気で考え出したのは、おまえのこと、深く知ってから」
そう言って眞空は、冬夜の背にそっと指先を伸ばした。何度もくちづけを落としたから、場所は完全に把握している。浴衣の下に隠しているいびつな傷痕に、布越しにあまく触れる。
「哀しいけど世の中には、……理不尽に痛めつけられたり、苦しんだりしてる子が、たくさんいるよね?」
本当はその言葉を口に出すのも嫌なほど、冬夜を傷つけられた怒りに、眞空は狂いそうになる。
「もしそういう子が、部屋の隅で、折り紙ばっかして塞ぎ込んでるなら、」
あのとき、冬夜を見つけたように。大事にしたいと、思えたように。
「その子が、少しでも明るい気持ちになれるように、手助けしてあげたいなって」
誰かの哀しみに、そっと寄り添ってあげられるような人間になりたいのだと。哀しみを見逃さない、やさしい自分でいたいのだと。
「そうなりたいって思えたのは、冬夜に出会ったからだよ」
「……っ」
冬夜が口唇をきゅっと噛んだ。じんと、胸がただ熱い。自分の存在が、誰かの心を動かしている事実に、胸の辺りを掻き乱される。
またそうやって、思いもよらないことで、僕を驚かせるんだから──。
「……ほら、やっぱり眞空かっこいい、……ずるい」
「ずるくはないでしょ。……大学は社会福祉部めざして、受験終わったら、ひばりで手伝いさせてもらえないか頼んでみるつもり」
秘めていた夢を夜空に放つ兄の頼もしい横顔を、冬夜はうっとりと眺めた。
「応援してね」
「応援するけど……、眞空がひばりの先生になったら、絶対人気者になっちゃう……。僕みたいに本気で好きになっちゃう子が出てきたらどうするの……」
眞空が夢を叶える未来はうれしいが、同時に冬夜の中でどうしようもない独占欲が芽生えた。子供相手だって、油断はならない。小さな子供だけでなく、中学生や高校生で在園している子だっている。
「大丈夫。……おれをこんなに夢中にさせるの、おまえだけだから」
「……絶対に、よそ見しないで?」
色香を撒き散らす声でそう言う冬夜に、眞空が息を呑んだ。冬夜の妖艶さに、危うく吸い込まれそうになる。
「……っ、……するわけ、ないじゃん……」
そのとき、地面を揺らすような轟音のあと、空がぱぁっと明るく輝いた。最初に大きな輪がどんっと咲くと、続いてパンッ、パンッと軽快な音を立てて次々と夜空が華やかに彩られる。
花火が、はじまった。
「冬夜、花火ちゃんと見てる……?」
横からのねっとりとした熱い視線をひしひしと感じて、眞空は苦笑しながら冬夜に訊いた。あまりにも弟にじっと見られているので、さすがに照れてしまう。
「んー……? あんまり」
冬夜は、眞空の横顔に落ちるかすかな花火の光を見ていた。花火に行きたいとは言ったが、本当は花火などどうでもいい。眞空と一緒にいたかっただけだ。
「離れて暮らしてみたらね、改めて、思い知らされちゃったからさ」
毎晩ビデオ通話もするし、夏休みは外で待ち合わせをしてたくさん出掛けた。それでも通話を切ったあとのベッドの中や、別々の電車に乗った帰り道で、強く強く、眞空を思い浮かべてしまう。秒で、会いたくなる。
「会えない時間がね、好きをいっぱいにするみたい」
好きな気持ちが毎日更新されて、蓄積されて、どこまで大きくなるのか冬夜自身にもわからない。
「たくさん溜まった僕の好きを、定期的に眞空に受け取ってもらわないと、どうにかなりそう……」
そうこぼした冬夜は、眞空の肩にころんと自身の頭を預けてすり寄った。
「さっきの続き……しよっか」
先程一瞬しか恋人を抱きしめられなかった後悔は眞空にも強くあって、そのまま冬夜の肩を抱き、自分の胸にいざなう。
胸に顔を埋めてきた冬夜を両腕でぎゅっと抱きしめて、眞空はしばらく花火の音だけを聞いた。
「……冬夜、顔上げて?」
花火よりも見たいものができたと、眞空が少しだけからだを離し、冬夜の顔を見る。
「キス、……しちゃおっかな……」
「していいよ……、……ん……っ」
早速落ちてきた性急な眞空の口唇を、冬夜がやさしく受け止めた。触れるだけのもどかしいキスを、何度も、何度も。それは眞空の気が済むまで、執拗にくり返される。
「冬夜はちょっとさぁ……、おれに甘すぎじゃない?」
ようやくくちづけを解いた眞空が、複雑そうな顔で冬夜の瞳をのぞいた。いつもなんでも許してくれる冬夜が、本当は自分に合わせて無理をしているのではないかと、時々少し不安になる。
「眞空のしたいことが、僕のされたいことだから。……僕だって、眞空と、いっぱいキスしたいよ……」
甘い声でそれを教えて、冬夜は眞空の頬を両手で包むように固定すると、今度は自分から口唇を合わせにいった。
「っ、……あー、もう……っ、……うーん……」
冬夜からキスしてくれたことにぐっと来て、眞空が突然うなり始める。見えない何かと闘い、葛藤しているようだ。
「眞空? どうしたの?」
「せっかく由夏さんに着付けしてもらったのに……、こんなに早く脱がせたら怒られちゃうかな!?」
「脱がせたくなっちゃったの?」
「脱がせたくなった……」
花火、浴衣、理性、祭り、欲望……、いろいろなものを天秤にかけた眞空が、欲望の一人勝ちを冬夜に報告する。
「もう、おれ……最近ほんと、忍耐が仕事しないから。……がっつき過ぎだって、頭ではわかってるけどさ……」
シュンとした犬のようになってしまった眞空に、
「あ、……ねぇ眞空、じゃあ、こういうのはどう? あのね……」
と、冬夜が兄に耳打ちした。
「──っ!?」
それを聞いた眞空の耳たぶに、一気に熱が駆け抜ける。じわっと、熱く、赤く染まったのが、自分でもわかる。
「どうかな? 嫌……?」
クールそうに見えて、実は兄弟の中でいちばん好奇心旺盛な末っ子の提案に、眞空が降参して笑った。嫌なわけないと、首をぶんぶんと大きく横に振る。
「冬夜のしたいことは、おれが全部してやりたい。……その提案、最高かも」
「眞空……好き」
「うん、おれも好き。一緒だね」
抱き合いながら伝えると、空に一際まぶしい大輪の花が咲いた。第一部の、フィナーレが始まったようだ。
「あと3分だけ花火見たら、行こっか」
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