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アーノルドの思い

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「それで……私のおかげって?」

 昔と同じ光景を目にして過去に思いを馳せていたが、先程の話の続きを聞きたくてもう一度尋ねる。

「あぁ、この世界に急に呼ばれて混乱しているのにも関わらず、君は平然と現実を受け止め、王様と対等に話し合い契約をした。3年前のあの時もあいつらには強い弱い関係ないと言ったけど、俺も最初は強い子が来たなって安心したんだ」

「それは強がってただけで、本当はすごく怖かった。不安でしょうがなかったんだよ」

 あの時は隙を見せちゃいけないと思って必死だったのだ。誰が味方で誰が敵かも分からない中、必死で一人で戦ってた。

「あぁ今なら強がってただけだって分かってるよ。ある晩メイの部屋の前で見張り番をしていた時、かすかにすすり泣く声が聞こえたんだ。日中は笑顔で浄化に取り組んで、浄化が終わってからはぐったりして休んで寝ていたはずなのに」

 確かにあの時はまだみんなの前で素直になれなくて夜になると毛布を被って泣いていた。浄化も上手くいかないしものすごく精神が不安定だったのだ。

「その時俺は鈍器で頭を殴られた感覚だった。何でこんな当たり前のことに気づかなかったんだろうって。急に浄化しろって言われて、見知らぬ世界、見知らぬ人の中で訳もわからないことをさせられて不安じゃないはずがないのに。自分より年下の女の子が必死に仮面を被ってるのに、俺はその表面だけを見て強いと安堵していたのかと自分が情けなくて仕方なかったよ」

 確かに私は不安だったが、アーノルドが側にいただけで自然と力が出たのだ。そんなこと彼には言えないが。

「それから俺はメイが頑張り過ぎないように、俺達に少しでも頼れるようにと考えて行動してきた。それでメイの負担をちょっとでも少なく出来たら良いなって」

 いつからか、フラフラになる私をアーノルドが支えてくれるようになった。お粥を口に運んでくれるようになった。私に甘いとは思っていたがそう言うことだったのか。彼はそんな昔からずっと私の心も守り続けてくれたのだろう。

 私が頷くのを見て続きを話すアーノルド。


「そうしたら次第にメイの笑顔が増えていって安心した。俺達を信頼してくれるのが伝わって、それが俺の自信になったんだ。この笑顔を守りたい、その思いが部隊を引っ張っていく原動力にもなった。部隊のやつらも魔物と戦うってことじゃなく、メイを守るって気持ちで一つに纏まったんだ」

「そうなんだ。今まで色々気にかけてくれて、守ってくれてありがとう」

 私の方を見ると優しく微笑んでくれる。この笑顔に何度救われたんだろう。
 確かに最初は一目惚れだったが、もちろんそれだけで異世界を超えてくるほど頑張れる訳じゃなかった。彼の優しさに心が温まり、疲れた心も癒やしてくれた。彼が居たから私は生きてこれたのだ。



「私もアーノルドのおかげで今まで頑張れて来れたんだよ。私は孤児だったから、生きる希望を持てなかったの。親からの愛情をもらえず、近所の子からは嫌がらせを受けて……就職も上手くいかなくて。だからこの国に聖女として求められたことは私を初めて認められたみたいで嬉しかった」

 こんなことを話すのはアーノルドが始めてだ。今までずっと隠していた私の本音。私には生きる意味が見つからなくて、正直自分には生きている価値もないと思っていた。

「生きる希望がなかった私に、この力は生きる理由をくれたの。それでもやっぱり不安はあるし、浄化は上手くいかないしで夜は泣いてたけど、アーノルドが朝優しく声をかけてくれるから私は頑張って来れた。みんなが私を聖女として認めてくれるから、私を必要としてくれるこの世界の為に頑張りたいと思ったの」

「そっか。だからこの世界にこんなにも引っ張られているのかも知れないね。この世界は君が必要だし、君にもこの世界が必要だということだ」


 そうかも知れないと笑い合う。


「でも向こうに大切な人が居るんじゃなったの? この世界に来てしまったらその人と結ばれることは無くなってしまうよ?」

「?? 前に話した大切な人って今日紹介したみゆちゃんだけど??」

「え? でも一緒に暮らしてるって……男の人じゃなかったのか?」

「みゆちゃんとルームシェアしているのよ?」

 そこから私はルームシェアというものを説明した。こっちでは一緒に暮らす=男女で暮らすしかなく、ルームシェアという概念はなかったらしい。アーノルドは私が恋人と暮らしてるのだと勘違いしていたらしいのだ。

「違うよ! そんな人はずっと居ない。私はずっと好きな人が居たんだから!」

 とうとう言ってしまった。私は真っ赤になって固まってしまいアーノルドの顔が見れない。
 この後何で言うのが正解なのか。それはあなたですと正直に告げるべきか、誤魔化すべきか。もう正解が分からない! 助けてみゆちゃん!

「それは……」

「うん」











「それは……やっぱりライザーが好きだと言うこと?」

 なぜここでライザーが出てくるのか?

「なんでライザー? ライザーは何も関係ないけど」

 そう聞き返すがアーノルドは黙ってしまう。彼をじっと見つめて口を開くのを待つ。

「メイはライザーが好きなんだろう? だから結婚の約束までしたんだろう。この前そう言う話をしているのを聞いてしまったんだ」

 そう申し訳なさそうに言うアーノルド。この前……ってもしかして王宮での話か。あれを聞かれてしまったなら確かに誤解されかねない。

「王宮での話ね。どこから聞いていたの?」

「メイがライザーに責任とって結婚してくれと言っているところだよ。あいつもそれを承諾していただろう。それでやっぱり2人は好き合っているのかと思っていたのに、あいつは今日君を放置するしなんなんだ」

 良かった。アーノルドに関する所は聞かれていないみたいだ。今日彼が怒っていたのはそのことが原因だったのか。

「あれは冗談の話よ。私の嫁ぎ先がなかったらもらってって冗談で言ってたの」

「本当に? じゃあネールのことが好きなのか?」

「ネールもそんなんじゃないよ」

 私が不思議そうな顔で聞くと、アーノルドがさらに不機嫌そうな顔をする。

「ネールはメイと仲が良いだろう。彼は君をメイちゃんと呼んでいるし、1番歳も近い」

「ネールはただの友達だよ。歳が近いから話しやすかっただけ」

 納得いかないのか暫くじっと見つめられるが、私も負けずに見つめ返す。こんな勘違いされて距離を置かれたらたまらない。

「じゃあメイが好きなのは……誰?」

 そう言われて息を飲む。私が好きなのは目の前のあなただと告げても許されるのだろうか。
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