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告白

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「じゃあメイが好きなのは……誰?」

 私はその問いに答えることが出来ず、じっとアーノルドを見つめる。その質問はどういう意味? 私のことを気にしてくれているの?

「それは……。私が好きなのは……」

 緊張してしまって最後まで告げることが出来ない。私が好きなのは目の前のあなたなのに。私がそう言ったらあなたは受け入れてくれるの?




「いや、違うな。誰が好きかとか、もうそういう問題じゃないんだ」

「……?」


 私はじっと彼のことを見つめる。暫くすると彼は決意をしたかのような強い瞳でその口を開く。


「俺じゃダメかな。他の人に任せたくない。俺がメイのことを守りたいんだ」

 アーノルドの言葉に私の胸が高鳴る。ドキドキと心臓がうるさい。

「それ……は、どういう意味……なの?」

「メイ、俺は君のことが好きなんだ。君を他のやつに渡したくない」

 そう言われた瞬間、まるで沸騰したかのように体が熱くなる。

「それは……私が聖女だから?」

 でも臆病な私は彼の言葉でまだ安心できない。欲張りな私は1人の女性として好かれることを求めてしまう。

「もちろん聖女であるメイも大事だよ。でも俺は1人の男として、君の横に立ちたいんだ。1人の女性としてメイのことが好きだよ」

 その言葉を聞いた瞬間、私は涙が溢れてしまう。ずっと、ずっとずっと欲しかった言葉だ。

「私もっ! 私も……アーノルドのことが好き。……ずっとずっと好きだったの」

 そう言って私は彼に抱きつく。彼は私を受け止めて優しく抱きしめてくれる。

「……本当に? 嘘だろう。本当に?」

「本当に決まってるじゃない。私だってずっとアーノルドの横に並びたかった! 聖女じゃなくて、メイとしてアーノルドと一緒に居たかったの。でもこの気持ちは迷惑かと思ってずっと言えなかった!」


「てっきりメイは俺の顔が好きなだけなのかと思っていたよ」

 そう言って苦笑するアーノルド。
 うん? 私の好きな気持ちバレていたの??

「初めて会った時から、俺の顔をじっと見ているのは感じてたし、旅の最中も俺の顔をよく見てるなって思ってたよ。だから俺の顔が好きなだけで、俺自体には興味ないのかと思っていた」

 私はそんなに分かりやすかっただろうか。確かにそれではみんなにもバレバレだろう。

「そんなことないよ。確かに顔はめちゃくちゃ好きだし、ずっと見てられるけど。最初は一目惚れだったけど、今はアーノルドの優しいところも、笑顔も、私に甘いところも含めて全部が好き」

 そう私が言うと珍しく彼の顔が赤くなる。

「見ないで欲しい。そこまで言われるとさすがに照れる」

「あとは、強いところも、時々抜けてるところも、朝が少し弱い所も全部全部好きなの!」

 照れたアーノルドなんて貴重過ぎる。私は遠慮なく近くでアーノルドを堪能する。そうすると彼は横を向いて顔を隠してしまう。

「私だってアーノルドは私のことを聖女として大事なだけで、女だって認識されてないのかと思ってたよ」

「そんな訳ないだろう! 意識してるから他の奴に身体を触らせないようにしてたんだ」

「もしかして毎回アーノルドが運んでくれたり、馬に乗せてくれてたりしたのはそういう理由?」

 てっきり彼が隊長だからそうしてくれているだけかと思っていた。まさか独占欲を感じてくれていたのだろうか。

「そうだよ。別に他の奴に任せても問題ないけど、俺が嫌だったからそうしていたんだよ」

 そう少し拗ねたように言ってる彼も可愛すぎる。私は鼻血が出ないかと心配になってきた。


「確かに最初は聖女として大切に思っていた。しかし次第に1人の女性として守りたいと思っている気持ちに気付いたんだ。でも真剣に浄化に向き合う君にそんな邪な想いを持つのは騎士として失格だと思っていたよ。浄化の力を捧げる君は本当に綺麗で、神秘的で、そんな姿を見るたびに気持ちに蓋をしていた」

 そんなことを思っていたのか。確かに真面目なアーノルドらしい。騎士としての彼は、私に想いを持つこと自体罪深いことだったのだろう。

「それに君が居るべき場所はここじゃないと思っていたしね。元の世界にいなきゃいけないのに、自分の気持ちを告げて君の心に負担をかけたくなかったんだ。君はきっと僕の気持ちに応えられないことを悩んでしまうと思ってね」

「そんなことないのに!」

「あぁ。でもあの時はそう思っていた。そうしたら君はこっちの世界で暮らしていくと宣言するし、かと思ったらライザーに結婚を申し込んでるしで、もうなり振り構っていられなかった。自分の気持ちを何も言わずに、ライザーの横に立つ君を見たら絶対に後悔すると思ったんだ」

 そう熱い眼差しで言われて私の体も熱くなってしまう。


「もう遠慮もしないから。俺だけのメイでいてくれ」

 そう耳元で呟くと彼の顔が近づいてくる。
 私はそっと目を閉じて彼の口づけを受け入れた。

 顔が離れていくと、お互い真っ赤な顔をして微笑み合う。あぁこんなに幸せな日が来るとは思って居なかった。生きてて良かったと初めて心から思えた。

 それから私たちは丘の上で暫く思い出話にふけっていた。3年も一緒にいたのだ、話は止まらなかったが、その間も私たちの手は繋がれていた。以前は埋まらなかった拳一つ分の距離を、やっと今日近づけることが出来たのだ。






 夕方彼の屋敷に帰ってくると、すでにライザーとみゆちゃんがいた。
 2人仲良く手を繋いでいる。あれ? なんかおかしくない?

「実は私たち付き合うことにしたの」

「えっ!? みゆちゃん!?」

「あぁ。ちゃんと将来のことも考えている。俺の魔法の才能があれば、こっちの世界にずっと居座れる魔法だって見つけるはずだ。なんとしてもな!」

 待って、みゆちゃん。あったその日に付き合うって、しかもこっちに住むつもりって嘘でしょ!? 異世界に引越しってそんな簡単に決めること!?

「あなた達も進展があったみたいね。おめでとう! 今度お祝いしなくっちゃ」

 私たちの変化にも気づいたみゆちゃんが嬉しそうに言う。

「ありがとう……ってそうじゃないでしょ! 正気なの!?」

「うん、本気よ」

 確かにライザーは根は真面目な良い人だし、3年間一緒に過ごした仲だ。彼にならみゆちゃんを任せても良い。でも人のことは言えないが、異世界で結婚って、そんな簡単に決めて良いの……?


 その後、今日はライザーの屋敷に泊めてもらうといって、みゆちゃん達は去っていった。


「あの2人……大丈夫なんでしょうか?」

びっくりし過ぎて思わず敬語が出てしまう。

「俺も予想外な展開すぎてついていけない……。気が合いそうだし大丈夫なんじゃないかな」

 両思いになって嬉しかった気持ちも、驚きのあまりどこかに飛んでいってしまいそうだ。


「ねぇ、俺と2人だってこと忘れてない?」

「!! そんなことないよ!」

「そうかな。2人のことに驚いて俺の存在を忘れてたみたいだから、少し寂しかったな」

 そう微笑まれまた私はすぐにアーノルドのことで頭がいっぱいいっぱいになる。

「そのネックレスずっと着けてくれてるんだね」

 そう言うと、彼が以前プレゼントしてくれた花のネックレスに口付ける。

「今度はもっとちゃんとした物をプレゼントするから、その時は受け取って欲しい」

「……はい」

 きっと私が彼に勝てる日は来ない気がする。その晩私は今日一日のことを思い出し、なかなか寝付けずに次の日を迎えた。
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