王は愛を囁く

鈴本ちか

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謁見

謁見②

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「兄上は息災ですか?」
「あ、はい」

 不躾にじろじろと見てしまった。煌の言葉に応えながら碧琉は自分の恥ずかしい行為に頬を赤らめた。

「そなたは兄上には似ておられませんね」
「兄は父に似ておりまして、私は母に似ておりますので」
「そのようですね」

 ふっと笑った煌は「お部屋を用意させましたのでそちらでお休みください。夜には歓迎の宴にぜひ。鏡、ご案内を」と言い立ち上がった。
 背が、高い。立ち上がるとその均整の取れた身体付きに目を奪われる。広い肩幅から着物が足元まで垂れている。
 着物の上からも分かる鍛えているのであろう張りのある体躯はその整った顔立ちと相まって男の色気を醸し出している。碧佳が女性が放ってはおかないと評した通りだと思う。どちらかといえば華奢な自分にはきっと発する事の出来ないだろう魅力は同性としてただただ羨ましい。

「はい。ご案内いたします」
「では碧琉様後ほど」

 短く答えた鏡に頷くと煌は身を翻しあっという間に出て行ってしまった。

「碧琉様、お部屋にご案内いたします」

 煌が出た方へ顔を向けていた碧琉に鏡が声を掛ける。
 振り返って鏡の微笑みを目にした途端、身体中から力が抜けてゆく。こんなにも力を入れていたのかと思う程肩や腹や腕、腿までも硬くなっていた。
 そんな碧琉の様子を見た鏡が「緊張なさいました?」と碧琉の顔を覗き込むようにする。

「いえ、そういう訳では」

 すごく緊張していたし煌の威厳漂う独特の雰囲気に圧倒されてしまったけれど、それを簡単に認めたくはないし知られたくなかった。俯きがちに呟く碧琉に鏡は微笑んだ。

「黄王様はとても緊張されておりました。この日が来るのを首を長くしてお待ちになってらっしゃいましたので」
「そう、ですか」
「お部屋に参りましょう」

 立ち上がった鏡につられて碧琉も立ち上がる。
 首を長くするほど最初の書状のから日は経っていない筈だけど。碧琉は鏡の後姿を見るとはなしに見ながらぼんやり思った。

 広間の入り口で柳、駿と別れ鏡の後ろを付いて歩く。
 廊下は壁がなく手すりを越えればすぐに庭だ。樹では見かける事のない葉の大きな木が廊下の傍らに点々と植えられておりその根元には名が分からない花が咲いている。
 樹と海の隔てたこの国は自生する植物もきっと違うのだろう。 
 それにしても暑い。碧琉は首筋を流れる汗を拭う。
 部屋に入ったらまず着ている物を脱いでしまおう。このように暑くては巻も文句は言うまい。
 壁が無いので風は肌に感じるが暑さの方が勝っている。
 広間から出て三度以上は曲がった。宮の奥へ奥へと入り込んでいる気がする。朱塗りの柱を行き過ぎるたび部屋が朱色だったらどうしようと思う。きっと眠れない。

「こちらでございます」

 廊下は正面の扉で行き止まり。
 左にも大きな扉はあるが碧琉の通されたのは正面の扉だった。鏡が扉を開き碧琉に入室を促す。部屋は樹の自室よりも広々としていてそれまでの朱塗りとは違い壁が生成りだった。

 入口の三歩ほど先から部屋はほんの少しだが一段高くなっておりそこから先は全て木造りの床だ。白木色がなんだか安心させてくれる。部屋の真ん中に寝台があり両脇に天井から薄い布が降りている。

「あ、こちらで履物をお脱ぎください」
「え、あ、はい」

 靴を脱ぎ床を踏んで一歩部屋へ入る。大きな窓が前面、側面にあり、明るい。両脇の布製の帳が風にひらひら踊っている。寝台の横に自分の荷が山のように積まれていた。

「あの、巻はどこでしょう? 連れてきた使女は、」
「ああ、お連れになられていた方々はお国へ帰って頂きます」
「えっ、」

 横にいた鏡の顔を見る。
 抗議の色を隠すことない渋面の碧琉を余裕の笑みで鏡は見返す。

「どうして、そんな話は聞いておりませんっ」
「もともと碧琉様のお世話はこちらの者でさせて頂くとお話してあります。それも含め了承下さったと黄は理解しております」

 だから納得しろと言われているように感じる。熱さも冷たさも感じないただ淡々と発せられた言葉。深々と頭を下げてはいるがこの人、鏡はどうやら柔和なだけの人間じゃない、ようだ。

「それは困りました。着物一つ巻が居なければ選べませんし」

 首を傾げてみせる。着物は勿論、髪を結う事だって苦手だが出来なくはない。ただこの地でたった一人になるくらいなら馬鹿な王子と思われた方がましだと思った。到着してそう時は過ぎていない。巻らはまだ黄国内にいるはずだ。

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