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夫が死んだのは
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私はパート主婦をしている。
子供は2人。もう成人した息子と娘がいる。
旦那は今年で65歳。もうすぐ定年退職する。
正直気が重い。亭主関白の旦那との結婚生活はあまり良いものではなかった。
子供を産んだあと、産後の肥立ちが悪かった私を気遣うことなく、
「俺は仕事で忙しいから」
と言って家事も育児も丸投げ。
少しでも家が散らかっていれば、
「お前は働いてないくせに掃除もまともにできないのか」
なんて言われ、それでも子供たちのため必死になって家事育児をこなしていた。
その無理が祟って身体はボロボロ。
何度旦那を殺してやりたい、と思ったことか。
もう終わったが、更年期もひどかった。
伏せっている私に飯はまだか、ここが汚れてるぞ、など気遣う言葉なんてなかった。
子供たちが
「お母さん、私が洗濯物畳むから寝てて良いよ」
「僕が料理作るよ」
と言って助けてくれなかったら、どうなっていたことか。
そんな優しい子供達ももう成人して、去年家を出た。
旦那と2人なんて嫌だと思い、犬を飼い始めた。
犬はずいぶん手のかかる子だった。
そのあまりのお転婆ぶりに、亭主関白の旦那も可愛がりながらもタジタジになり、最近では少しだけ丸くなってきた。
でも、1日中旦那が家にいるなんて嫌だわ、週3くらいは働きに行ってくれないかしら・・・
なんて考えていた。
そんなある日、犬の散歩でちょっと遠出をした時のことだ。
とても雰囲気の良いカフェを見つけた。
外観はレンガで、庭には薔薇が咲いていて、まるでジブリにでも出てきそうな雰囲気だった。
あまりに素敵なのでポカンと眺めていると、中からイケメン店員が出てきた。
黒のチョッキがかっこいい。
「こんにちは。テラス席ならワンちゃんも大丈夫ですよ。」
と突然声を掛けられ、思わず焦って座ってしまった。
店内からふわりと珈琲の良い匂いがする。
「えっと、そしたら珈琲を一つ」
「プラス100円でラテアートにも出来ますよ」
と言われ、ラテアート付きの珈琲にすることにした。
1杯650円。少し高いけど、いつも頑張ってるから良いよね?
しばらくすると、犬の顔が描かれた珈琲が運ばれてきた。
どことなくうちの犬に似ている。犬がワン!と吠えた。
「ごゆっくりどうぞ~」
イケメンが作ったラテアート珈琲。甘くてほろ苦くて、とっても可愛い。とてもとても癒された。
それから、週1でその喫茶店に通うようになった。
思いやりのない旦那との2人暮らしも、喫茶店のおかげで流せるようになった。
そんなある日、旦那に怒られた。
”ラテアート体験 1回3500円”
というチラシを見ていただけだ。
喫茶店でラテアート体験を開催するということでチラシをもらってきたのだ。
いつも、お店で可愛いラテアートに癒されている私は、自分でも作れたらな、なんて思って眺めていたら、
「おい、なんだそれは馬鹿馬鹿しい。そんなことに俺の金を使うつもりじゃないだろうな」
と。
私は言い返したい気持ちを抑えて答えた。
「お父さんったら違いますよ。たまたま喫茶店の前を通りかかったら貰ったんですよ。このラテアート可愛いな~と思っただけですよ。」
そう言ってわざとゴミ箱に捨てて見せた。
それで旦那も納得したのか、テレビを見始めた。屁なんかこきながら。
ああ、本当にこんな人が定年後に1日中家にいたら、おかしくなりそうだわ!
やっぱり平日は毎日短時間でも良いから外に出てもらわなくちゃ。
冬の寒いある日。いつものように旦那の見送りをしに玄関まで出ると犬の糞が落ちていた。家の真ん前だ。
「誰だ、犬の糞を拾わないやつがいたな!おいお前、掃除しておけよ」
と旦那は言って出勤して行った。
私だって、9時半からパートがある。朝は忙しい。仕方がないのでティッシュで摘みビニール袋に入れゴミ箱に捨てた。
夕方に帰ってきてからホースで水を流しながらデッキブラシで擦っておいた。
翌朝、旦那が死んだ。
その日は大雪が降った。家の前で、雪で滑って頭を打って死んだのだ。
雪で滑って怪我や死人が何人か出たとニュースでやっていたが、そのうちの一人になった。
前日に水を流して掃除したから、それが凍って滑ったのだとは誰も思わなかった。
葬式の時に娘がポツリと呟いた。
「お父さんは罰が当たったのよ。散々お母さんを虐げてきたから」
20年以上前に、”殺してやりたい”と思っていた。
でも、その復讐が果たされたとは、本人でさえ気づくことはなかった。
その後、私は老後を満喫した。
定年前に死んでくれて良かった、なんて気持ちは心の奥底に隠しながら。
子供は2人。もう成人した息子と娘がいる。
旦那は今年で65歳。もうすぐ定年退職する。
正直気が重い。亭主関白の旦那との結婚生活はあまり良いものではなかった。
子供を産んだあと、産後の肥立ちが悪かった私を気遣うことなく、
「俺は仕事で忙しいから」
と言って家事も育児も丸投げ。
少しでも家が散らかっていれば、
「お前は働いてないくせに掃除もまともにできないのか」
なんて言われ、それでも子供たちのため必死になって家事育児をこなしていた。
その無理が祟って身体はボロボロ。
何度旦那を殺してやりたい、と思ったことか。
もう終わったが、更年期もひどかった。
伏せっている私に飯はまだか、ここが汚れてるぞ、など気遣う言葉なんてなかった。
子供たちが
「お母さん、私が洗濯物畳むから寝てて良いよ」
「僕が料理作るよ」
と言って助けてくれなかったら、どうなっていたことか。
そんな優しい子供達ももう成人して、去年家を出た。
旦那と2人なんて嫌だと思い、犬を飼い始めた。
犬はずいぶん手のかかる子だった。
そのあまりのお転婆ぶりに、亭主関白の旦那も可愛がりながらもタジタジになり、最近では少しだけ丸くなってきた。
でも、1日中旦那が家にいるなんて嫌だわ、週3くらいは働きに行ってくれないかしら・・・
なんて考えていた。
そんなある日、犬の散歩でちょっと遠出をした時のことだ。
とても雰囲気の良いカフェを見つけた。
外観はレンガで、庭には薔薇が咲いていて、まるでジブリにでも出てきそうな雰囲気だった。
あまりに素敵なのでポカンと眺めていると、中からイケメン店員が出てきた。
黒のチョッキがかっこいい。
「こんにちは。テラス席ならワンちゃんも大丈夫ですよ。」
と突然声を掛けられ、思わず焦って座ってしまった。
店内からふわりと珈琲の良い匂いがする。
「えっと、そしたら珈琲を一つ」
「プラス100円でラテアートにも出来ますよ」
と言われ、ラテアート付きの珈琲にすることにした。
1杯650円。少し高いけど、いつも頑張ってるから良いよね?
しばらくすると、犬の顔が描かれた珈琲が運ばれてきた。
どことなくうちの犬に似ている。犬がワン!と吠えた。
「ごゆっくりどうぞ~」
イケメンが作ったラテアート珈琲。甘くてほろ苦くて、とっても可愛い。とてもとても癒された。
それから、週1でその喫茶店に通うようになった。
思いやりのない旦那との2人暮らしも、喫茶店のおかげで流せるようになった。
そんなある日、旦那に怒られた。
”ラテアート体験 1回3500円”
というチラシを見ていただけだ。
喫茶店でラテアート体験を開催するということでチラシをもらってきたのだ。
いつも、お店で可愛いラテアートに癒されている私は、自分でも作れたらな、なんて思って眺めていたら、
「おい、なんだそれは馬鹿馬鹿しい。そんなことに俺の金を使うつもりじゃないだろうな」
と。
私は言い返したい気持ちを抑えて答えた。
「お父さんったら違いますよ。たまたま喫茶店の前を通りかかったら貰ったんですよ。このラテアート可愛いな~と思っただけですよ。」
そう言ってわざとゴミ箱に捨てて見せた。
それで旦那も納得したのか、テレビを見始めた。屁なんかこきながら。
ああ、本当にこんな人が定年後に1日中家にいたら、おかしくなりそうだわ!
やっぱり平日は毎日短時間でも良いから外に出てもらわなくちゃ。
冬の寒いある日。いつものように旦那の見送りをしに玄関まで出ると犬の糞が落ちていた。家の真ん前だ。
「誰だ、犬の糞を拾わないやつがいたな!おいお前、掃除しておけよ」
と旦那は言って出勤して行った。
私だって、9時半からパートがある。朝は忙しい。仕方がないのでティッシュで摘みビニール袋に入れゴミ箱に捨てた。
夕方に帰ってきてからホースで水を流しながらデッキブラシで擦っておいた。
翌朝、旦那が死んだ。
その日は大雪が降った。家の前で、雪で滑って頭を打って死んだのだ。
雪で滑って怪我や死人が何人か出たとニュースでやっていたが、そのうちの一人になった。
前日に水を流して掃除したから、それが凍って滑ったのだとは誰も思わなかった。
葬式の時に娘がポツリと呟いた。
「お父さんは罰が当たったのよ。散々お母さんを虐げてきたから」
20年以上前に、”殺してやりたい”と思っていた。
でも、その復讐が果たされたとは、本人でさえ気づくことはなかった。
その後、私は老後を満喫した。
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