『番になってなど、やらない。──そう決めていたのに』

春夜夢

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第12話:君を奪わせない

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──王家が、“セイルの血筋”を使って別のΩを番候補として用意した。

 その報せは、リオンの中の何かを確かに切り裂いた。

「セイルは、俺の番だ。血ではなく、“心”で選んだ」

 そう呟いた言葉に、使用人たちは一斉に頭を垂れた。
 だが、王家からの政治的な圧力は日増しに強まっていた。

 一方その頃。
 セイルはラディス・クロウェルと屋敷の離れで静かに話していた。

「……君の血筋が、王家にとって“利用価値のあるもの”だと知られたのは最近だ。
 そのせいで今、“君という存在そのもの”が邪魔になってきている」

「つまり、“血の代替”が立った今、僕は消されてもいいと?」

「消すか、奪うか、隔離するか……方法はいくつもある」

 ラディスは紅茶を口にしながら、さらりと残酷な事実を言い放つ。

「それでも、あのリオンが動いた。“血”ではなく、“君自身”を守るために。
 あれは、愛だ。……本気で君を失いたくないと考えている」

「……僕に、そんな価値があるのかな」

「君がそう思ってる間は、きっと彼には届かない。
 けど──“守られたい”って、心のどこかで思ってるなら。
 その時は、君から手を伸ばしてやれ」

 ラディスの目は、いつになく真剣だった。
 βである彼は、番も発情もない。けれど、だからこそ見える感情があるのかもしれない。

 夜──

「セイル、話がある」

 執務室の奥、リオンは深く息を吐いてから言った。

「王家が用意した“代わりのΩ”に、俺は一切興味がない。
 ──ただ、問題は、君が今も“契約の番”だということだ」

「……それを、終わらせろって?」

「終わらせたい。“契約”ではなく、“本物”として」

 リオンが、真っ直ぐセイルを見る。
 その瞳に、迷いも誤魔化しもなかった。

「政治でも、地位でもなく──俺は君自身が欲しい」

 言葉の重みに、セイルの胸が大きく脈打つ。

「……それ、ちゃんと今の僕に、言ってる?」

「ああ。過去じゃない。今の、君にだ」

 ──その瞬間、セイルはようやく、怖れよりも「信じたい」が勝った。

「じゃあ……“契約”、終わらせよう。
 これからは、僕の意思で、“君の番になる”」

 リオンが目を見開いた後、ふっと笑った。
 そして、その腕でセイルを抱きしめた。

「……ありがとう。セイル」

 初めて、本当の意味で番になった夜。
 二人の鼓動は、静かに、深く、重なっていた。
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