『番になってなど、やらない。──そう決めていたのに』

春夜夢

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第17話:フェルセス家、そして未来へ

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春の風が吹く中庭に、白いスノーフラワーが咲いていた。
 セイルは、その前にしゃがみ込み、自分の腹をそっと撫でる。

 ふくらみは日に日に大きくなっていた。
 生命が、確かにこの中にあるという実感。
 昔の自分では想像もできなかった“未来”が、今はここにあった。

「この花、まだ枯れてなかったんだな」

 後ろからリオンが現れる。
 あの日、二人で植えたスノーフラワー。かつては“過去の象徴”だったものが、今は“希望”に見えた。

「……君と、こうして未来の話をできる日が来るなんて思わなかった」

「俺もだ。だが、君がいてくれたから、ここまで来られた」

 リオンがセイルの手を取る。
 そのぬくもりが、迷いをすべて溶かしていく。

 ──しかし、穏やかな時間は長く続かなかった。

 屋敷に一本の文が届く。

「王家より最終通告。
 “フェルセス家とその番は、王政に従属するか、王都を離れ地方に退くかを選べ”──だと」

 リオンの声に、空気が重くなる。

「これは……遠回しな“追放宣告”だよね」

「ああ。名門であるフェルセス家が王政に背いた前例を残したくない。
 だが、公開処罰もできない。だから、こうして“圧力”をかけてくる」

 静かな戦争。
 それでも、命ある者たちには、決断が求められる。

「リオン……私たち、どうする?」

「君と、この子が安全でいられるなら──どこででも生きていける。
 フェルセスの名に縛られなくても、君がいてくれれば、俺は何も失わない」

 そう言って微笑むリオンに、セイルは小さく頷いた。

「だったら──行こう。
 この子と一緒に、“家族”として新しい場所で、生きよう」
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