13 / 43
声にする勇気
しおりを挟む
その日、図書室はとても静かだった。
誰かの足音も、本をめくる音も、遠く感じるほどに――ふたりの空気は、そっと重なっていた。
陽翔くんは、いつもの席にいた。
ノートを広げて、ペンを走らせている。
だけど、何度かページの端でペン先が止まっているのを、私は見ていた。
私が来るのを、待っていてくれたのかもしれない。
そう思っただけで、胸の奥があたたかくなった。
「……こんばんは」
小さく、でも確かに、私は声を出した。
彼の手が止まり、顔が上がる。
その瞳が、驚いたように――そして、少しだけほっとしたように細められる。
「こんばんは。……来てくれて、うれしい」
その言葉が、思っていた以上にうれしかった。
私は、昨日読んだ本の続きをそっと机に置いた。
表紙をなでるように触れながら、言葉を探す。
「……この本、……あの……昨日の、話のつづき……少しだけ、話してもいいですか」
陽翔くんは、すぐに頷いた。
「もちろん。聞かせて」
――私は、練習してきた。
自分の気持ちを、ちゃんと伝えるための練習を、何度も、何度も。
「主人公の女の子が……信じていた人に裏切られて……また、ひとりになってしまうんです」
ページをなぞる指が、少し震える。
「でも……そのあと、ちゃんと……もう一度、自分の声で伝えようって……思い直すんです。……ちゃんと、話そうって」
言いながら、それがまるで自分自身のことのように思えて、胸がきゅうっと締めつけられた。
陽翔くんは、黙って聞いてくれていた。
静かに、でも確かに、私の言葉を受け止めてくれていた。
話し終えたあと、私は顔を上げた。
「……あの本、最後には、伝わるんです。ちゃんと。全部」
そのとき、陽翔くんがふわりと笑った。
「そっか。それ、すごくいい話だね」
言葉はそれだけだったけど、私は知っていた。
その笑顔が、どれだけ優しくて、あたたかくて、
――そして、私の心を支えてくれているのか。
その日私は、少しだけ前に進めた気がした。
“ちゃんと伝える”という、小さな勇気を胸に。
誰かの足音も、本をめくる音も、遠く感じるほどに――ふたりの空気は、そっと重なっていた。
陽翔くんは、いつもの席にいた。
ノートを広げて、ペンを走らせている。
だけど、何度かページの端でペン先が止まっているのを、私は見ていた。
私が来るのを、待っていてくれたのかもしれない。
そう思っただけで、胸の奥があたたかくなった。
「……こんばんは」
小さく、でも確かに、私は声を出した。
彼の手が止まり、顔が上がる。
その瞳が、驚いたように――そして、少しだけほっとしたように細められる。
「こんばんは。……来てくれて、うれしい」
その言葉が、思っていた以上にうれしかった。
私は、昨日読んだ本の続きをそっと机に置いた。
表紙をなでるように触れながら、言葉を探す。
「……この本、……あの……昨日の、話のつづき……少しだけ、話してもいいですか」
陽翔くんは、すぐに頷いた。
「もちろん。聞かせて」
――私は、練習してきた。
自分の気持ちを、ちゃんと伝えるための練習を、何度も、何度も。
「主人公の女の子が……信じていた人に裏切られて……また、ひとりになってしまうんです」
ページをなぞる指が、少し震える。
「でも……そのあと、ちゃんと……もう一度、自分の声で伝えようって……思い直すんです。……ちゃんと、話そうって」
言いながら、それがまるで自分自身のことのように思えて、胸がきゅうっと締めつけられた。
陽翔くんは、黙って聞いてくれていた。
静かに、でも確かに、私の言葉を受け止めてくれていた。
話し終えたあと、私は顔を上げた。
「……あの本、最後には、伝わるんです。ちゃんと。全部」
そのとき、陽翔くんがふわりと笑った。
「そっか。それ、すごくいい話だね」
言葉はそれだけだったけど、私は知っていた。
その笑顔が、どれだけ優しくて、あたたかくて、
――そして、私の心を支えてくれているのか。
その日私は、少しだけ前に進めた気がした。
“ちゃんと伝える”という、小さな勇気を胸に。
0
あなたにおすすめの小説
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
駆け出しご当地アイドルがヤクザに一目惚れされた話
一ノ瀬ジェニファー
恋愛
ド田舎の道の駅で、持ち歌もグッズもないまま細々と活動を続けるご当地アイドル・桜あかり(16)。
夢は大きく武道館!……と言いたいところだけど、今はレジ打ちもこなす「なんでもできるマルチな地底アイドル」。
そんな彼女に、ある日転機が訪れる。
地元の道の駅がテレビで紹介され、あかりの笑顔が全国放送で流れたのだ。
その映像を東京で目にしたのが、幸村 静(ゆきむら しずか)。
見た目は完璧、物腰も柔らか──けれどその正体は、裏の世界の男だった。
「会いたいから」というシンプルすぎる理由で、あかりに会いに片道10時間を車で会いに来た。
謎のヲタク知識もを引っ提げて、推し活(という名の執着)が始まる……!
これは、アイドルを夢見る少女と、厄介オタクなヤクザの、ピュアで不穏でちょっと笑える物語。
運命には間に合いますか?
入海月子
恋愛
スペイン建築が大好きな設計士
大橋優那(おおはし ゆな) 28歳
×
せっかちな空間デザイナー
守谷翔真(もりや しょうま) 33歳
優那はスペイン建築を学ぶという夢が実現するというときに、空間デザイナーの翔真と出会った。
せっかちな彼は出会って二日目で優那を口説いてくる。
翔真に惹かれながらも、スペインに行くことが決まっている優那はその気持ちに応えられないときっぱり告げた。
それでも、翔真はあきらめてくれない。
毎日のように熱く口説かれて、優那は――
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる