君に好きだと言うための練習を、何度もした。

春夜夢

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声にする勇気

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その日、図書室はとても静かだった。

 誰かの足音も、本をめくる音も、遠く感じるほどに――ふたりの空気は、そっと重なっていた。

 陽翔くんは、いつもの席にいた。
 ノートを広げて、ペンを走らせている。
 だけど、何度かページの端でペン先が止まっているのを、私は見ていた。

 私が来るのを、待っていてくれたのかもしれない。
 そう思っただけで、胸の奥があたたかくなった。

「……こんばんは」

 小さく、でも確かに、私は声を出した。

 彼の手が止まり、顔が上がる。
 その瞳が、驚いたように――そして、少しだけほっとしたように細められる。

 「こんばんは。……来てくれて、うれしい」

 その言葉が、思っていた以上にうれしかった。

 私は、昨日読んだ本の続きをそっと机に置いた。
 表紙をなでるように触れながら、言葉を探す。

「……この本、……あの……昨日の、話のつづき……少しだけ、話してもいいですか」

 陽翔くんは、すぐに頷いた。

 「もちろん。聞かせて」

 ――私は、練習してきた。
 自分の気持ちを、ちゃんと伝えるための練習を、何度も、何度も。

「主人公の女の子が……信じていた人に裏切られて……また、ひとりになってしまうんです」

 ページをなぞる指が、少し震える。

「でも……そのあと、ちゃんと……もう一度、自分の声で伝えようって……思い直すんです。……ちゃんと、話そうって」

 言いながら、それがまるで自分自身のことのように思えて、胸がきゅうっと締めつけられた。

 陽翔くんは、黙って聞いてくれていた。
 静かに、でも確かに、私の言葉を受け止めてくれていた。

 話し終えたあと、私は顔を上げた。

 「……あの本、最後には、伝わるんです。ちゃんと。全部」

 そのとき、陽翔くんがふわりと笑った。

 「そっか。それ、すごくいい話だね」

 言葉はそれだけだったけど、私は知っていた。

 その笑顔が、どれだけ優しくて、あたたかくて、
 ――そして、私の心を支えてくれているのか。

 その日私は、少しだけ前に進めた気がした。

 “ちゃんと伝える”という、小さな勇気を胸に。
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