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第一部「ブレナード反逆編」
第1話:あなたとの婚約は、破棄させていただきますわ
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それは王都の中心、王宮で開催された新年祝賀の舞踏会でのことだった。
豪奢なシャンデリアが揺れる大広間の中央で、私は王子の口から予想外の言葉を突きつけられた。
「レイナ・アルセリナ。お前との婚約は、この場をもって破棄する!」
鼓膜が震えるような声が響き渡る。
華やかな舞踏会のざわめきが一瞬で静まり返った。視線が一斉に、私と彼――第二王子エドワードに注がれる。
王子の隣には、一人の少女が涙ぐんで立っていた。金の巻き髪を揺らし、純白のドレスをまとった、平民出身の令嬢、ミリア・ロゼ。
「レイナ様は、私を、いじめていらっしゃいましたの……」
震える声でそう告げる彼女は、いかにも"悲劇のヒロイン"然としており、庇護欲をくすぐる演技には定評がある。実際、周囲の貴族たちの目が、すでに私を「悪役」に仕立て上げていた。
だが私は焦らない。むしろ、ようやく来たか、とため息をひとつこぼす。
「……証拠はございますか?」
「なっ……!? ミリアがこうして泣いているのが、その証拠だ!」
「それは“証言”ではございますが、“証拠”ではありませんわね」
私はゆっくりと扇子を広げ、冷静に笑った。
この一年、王子の態度は日に日に冷たくなっていた。お付きの侍女や書簡のやり取りも、すべて私を避けるように変化していた。
つまり、この婚約破棄は予想できていた。あとは“どこで爆発させるか”を考えるだけだったのだ。
「婚約破棄、承知いたしました。ただし、正式な書面を後日お届けいただけますよう、お願いいたしますわ」
「……お前、本気か?」
「はい。……むしろ、こちらから願い下げでございます」
そう言って優雅に一礼し、私はその場を立ち去った。
後ろから聞こえてくるざわめきも、王子のうろたえた声も、今の私にはもう関係ない。
ようやく、解放されたのだ。
* * *
翌朝。
私は自室で紅茶を飲みながら、ひと息ついていた。
昨日の出来事は早速王都中の噂となっていたらしいが、特に気にする必要はない。
そんなとき、ノックの音と共に兄が入ってきた。
「レイナ。今すぐ着替えて、応接室へ」
「ええ? まだ朝食も取っていないのだけれど」
「……侯爵家の嫡男が、君に求婚に来ている」
「…………は?」
昨日婚約破棄されたばかりの妹に、即求婚する男なんて、まともな神経じゃない。だが兄はため息交じりに続けた。
「……あの“変人侯爵”だ。アレクシス・ヴァン=グランデ侯爵閣下」
うわ、よりにもよって。
アレクシス侯爵。若くして爵位を継ぎ、政務においても軍務においても優れた手腕を見せる天才貴族。……だが、異様なほど他者に興味を持たず、無表情で毒を吐く“変人”として有名だった。
私は顔をしかめた。
「なんで私……?」
「知らん。だが、すでに君を“運命の相手”と決めているらしい」
その表現、怖いんですけど。
* * *
そして、応接室。
彼は立っていた。漆黒の礼服に身を包んだその男は、想像以上に整った顔立ちをしていた。
だが冷たい瞳でこちらを見据えるその視線には、何とも言えぬ“圧”があった。
「初めまして。レイナ嬢。……君を妻にしたい」
「……え?」
「契約でも、政略でも構わない。だが、僕は君を“自分のもの”にしたいと思った。……許可してくれ」
いきなりそんな直球を投げてくる人間、初めて見た。
――ああ、本当に変人なんだわ、この人。
けれど、彼の瞳だけは不思議と真剣で。ぞくりとするほどの熱を、そこに宿していた。
まさかこの時の私は、知らなかった。
彼がこれから、恐ろしいまでの独占欲と執着心で、私を“囲い込む”男だったということを――。
豪奢なシャンデリアが揺れる大広間の中央で、私は王子の口から予想外の言葉を突きつけられた。
「レイナ・アルセリナ。お前との婚約は、この場をもって破棄する!」
鼓膜が震えるような声が響き渡る。
華やかな舞踏会のざわめきが一瞬で静まり返った。視線が一斉に、私と彼――第二王子エドワードに注がれる。
王子の隣には、一人の少女が涙ぐんで立っていた。金の巻き髪を揺らし、純白のドレスをまとった、平民出身の令嬢、ミリア・ロゼ。
「レイナ様は、私を、いじめていらっしゃいましたの……」
震える声でそう告げる彼女は、いかにも"悲劇のヒロイン"然としており、庇護欲をくすぐる演技には定評がある。実際、周囲の貴族たちの目が、すでに私を「悪役」に仕立て上げていた。
だが私は焦らない。むしろ、ようやく来たか、とため息をひとつこぼす。
「……証拠はございますか?」
「なっ……!? ミリアがこうして泣いているのが、その証拠だ!」
「それは“証言”ではございますが、“証拠”ではありませんわね」
私はゆっくりと扇子を広げ、冷静に笑った。
この一年、王子の態度は日に日に冷たくなっていた。お付きの侍女や書簡のやり取りも、すべて私を避けるように変化していた。
つまり、この婚約破棄は予想できていた。あとは“どこで爆発させるか”を考えるだけだったのだ。
「婚約破棄、承知いたしました。ただし、正式な書面を後日お届けいただけますよう、お願いいたしますわ」
「……お前、本気か?」
「はい。……むしろ、こちらから願い下げでございます」
そう言って優雅に一礼し、私はその場を立ち去った。
後ろから聞こえてくるざわめきも、王子のうろたえた声も、今の私にはもう関係ない。
ようやく、解放されたのだ。
* * *
翌朝。
私は自室で紅茶を飲みながら、ひと息ついていた。
昨日の出来事は早速王都中の噂となっていたらしいが、特に気にする必要はない。
そんなとき、ノックの音と共に兄が入ってきた。
「レイナ。今すぐ着替えて、応接室へ」
「ええ? まだ朝食も取っていないのだけれど」
「……侯爵家の嫡男が、君に求婚に来ている」
「…………は?」
昨日婚約破棄されたばかりの妹に、即求婚する男なんて、まともな神経じゃない。だが兄はため息交じりに続けた。
「……あの“変人侯爵”だ。アレクシス・ヴァン=グランデ侯爵閣下」
うわ、よりにもよって。
アレクシス侯爵。若くして爵位を継ぎ、政務においても軍務においても優れた手腕を見せる天才貴族。……だが、異様なほど他者に興味を持たず、無表情で毒を吐く“変人”として有名だった。
私は顔をしかめた。
「なんで私……?」
「知らん。だが、すでに君を“運命の相手”と決めているらしい」
その表現、怖いんですけど。
* * *
そして、応接室。
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だが冷たい瞳でこちらを見据えるその視線には、何とも言えぬ“圧”があった。
「初めまして。レイナ嬢。……君を妻にしたい」
「……え?」
「契約でも、政略でも構わない。だが、僕は君を“自分のもの”にしたいと思った。……許可してくれ」
いきなりそんな直球を投げてくる人間、初めて見た。
――ああ、本当に変人なんだわ、この人。
けれど、彼の瞳だけは不思議と真剣で。ぞくりとするほどの熱を、そこに宿していた。
まさかこの時の私は、知らなかった。
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